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高尚な思想

幾重にも城壁に囲まれた、城郭内へと入っていく、上を見上げると外からも見えた漆黒の高い塔たちが晴れた空に突き刺さるように伸びている。

嫌な感じの城だなぁ……と私が兜の下で顔をしかめていると遠くから手を振りながら、真っ赤なビキニアーマーを直に体に着た、金髪ツインテールの少女が走ってきた。

サニーも嬉し気に走り寄って

「あっ、リンリンちゃん!ただいまーっ!」

と言うなり、少し釣り目がちな青い目を潤ませた気の強そうな少女から飛びつかれ、抱きつかれる。

「生きててよかったよぉ!天帝様が心配してたよー?」

「ごめんなさいぃ……負けちゃってぇ……」

リンリンと呼ばれた少女はサニーの兜を優しく脱がすとその頭を撫でだした。

「同じ一般市民出身者として、頑張るって約束したでしょ?」

「うん……行こう……天帝様に報告しないとねぇ……」

二人は腕を組んで、歩き出した。

私とルナーとメイズはその後ろを黙ってついていきながら

「あの子も将軍なんだろうね」

「ああ、だろうな。魔力値は恐らくサニーと同じくらいだ。多少威圧感がある」

「……金属を直接体に着るのはよくありませんわ。生育途上の身体を大事にするべきです」

心配そうなメイズにルナーは

「今は黙っておけ。ここでは彼女たちは将軍、我々は一兵士に過ぎん」

「そうですわね。帝都内からここまで一応、気配を消していますわ」

二人の会話でようやく私は気づいた。確かに露出度が高く、体格も完璧なメイズが全然人目を引いている感じがない。

魔力値の高いルナーもそうだ。威圧感のかけらもない。二人とも凄いなー。達人だなー。

ちなみに私は別に気配を消さなくても普通だからまったく心配ないよ!

自分で思ってて、ちょっと悲しいけど……。


さらに奥に進むと、漆黒の外壁を持つ宮殿が見えてきた。サニーとリンリンの後ろを衛兵の顔をしてついて行っているのでフリーパスで宮殿内へと入っていく。

少し進むと、閉鎖都市の洞窟内で見たような

魔力を帯びた光る草木が生い茂る中庭が見えてきて私が一瞬立ち止まってしまうと、すぐにルナーが手を引いて我に返してくれた。

「ごめんごめん……あれだけあったらどれだけエーテル造れるかなって」

歩きながら小声でルナーにそう言うと、ルナーも小声で

「竜騎国に居た時も、軍上層部がここの話をしていたのを聞いた。皮肉なものだ。祖国を裏切った私は、祖国が侵略の最終目標にしていた場所にあっさりと侵入してしまった」

メイズも歩きながら小声で

「やはり、竜騎国的には公国を抜いた後は、帝国侵略も?」

ルナーは自嘲するように鼻で嗤ってから

「その通りだ。だが今考えると、とても小さな目標だな」

「そうですわね……ジョニー様が世界のパワーバランスを変えてしまいました」

二人の話を私が聞いているとサニーたちは回廊から通じる階段を上り始めた。


宮殿二階の玉座の間へと続く通路を歩いていく。ビキニアーマーを着た若い衛兵たちは、好き勝手に寄り集まって談笑していて雰囲気的には学校の休み時間のようだ。

雑用をするメイドたちも色とりどりのビキニの水着を着た若い女性ばかりだ。

ルナーが少し顔をしかめて

「衛兵たちは宮殿内すらも素人の集団だ。帝都の防衛はジョニーの魔力頼りだな」

「わたくしの見たところ、手練れの物理アタッカーも居ませんわ」

私もウンウンと頷いて

「顔はみんなかわいいんだよね。ジョニーの好みでしょ?」

「……」

メイズが黙ってしまった。あっダメだった……失言したあああ……。

焦った私の横で、すかさずにルナーが

「いや、メイズより美女は今のところ一人もいないな。大丈夫だ」

フォローしてくれて私にウインクを送ってくる。すぐに機嫌がよくなったメイズが

「……ルナーさんに免じて、そういうことにいたしましょう」

自分に信じ込ませるように、何度も頷いてそう言う。


前を行くリンリンとサニーが玉座の間の扉を衛兵たちに開けさせて入っていく。私たちもさりげなくその後ろに続いていくが誰も止めてくる気配はない。ルナーがボソッと

「帯剣してなかったのが功を奏したな。そこの衛兵たちは一応確認していた」

「そこそこの使い手ですわね」

違いが判る二人だなー。私ぜんぜん気づかなかったなー。と思いながら、真っ赤なカーペットの敷かれた玉座への道をステンドグラスから射し込む午後の光に当てられながら進んでいくと、三段ほど高いところに造られた金の玉座は空でその一段下に悠然と立つ、例の穴だらけのピンクのテンガロンハットを被った黒髪を腰まで伸ばした黒ローブ姿の背の高い女性を見つけた。

他には衛兵やメイドたちは誰も見当たらない。リンリンとサニーがサッと玉座に向けて傅いて

「いま、帰りましたぁ……すいませんー……負けましたぁ……」

「シャドー参謀、サニーちゃんにお慈悲を……」

私たち三人も距離を取って、後ろで同じ格好をする。

ハットを被った女性は、真っ赤に輝く瞳で私たちを見下ろして

「良い。元々ヴァルガナン家に勝てるとは思っておらん。それよりボウガス将軍の無事な顔を見れば天帝様もお喜びになるだろう。いま、天帝様はお昼寝の時間だ。また、夜に来てくれ……その三人は?」

私たちを訝し気に見てくる。サニーは後ろを振り返らずに

「私のお友達ですぅ……北から逃げてくるときに助けてもらいましたぁ」

「ふむ……現地で徴用したのだな。少しそのまま待て。三人の頭の中を調べてみる」

女性は動かないまま私たちに向けて手を翳してきた。そして

「ふむ……とくに不穏な思考はないな。よろしい。ボウガス将軍の直属の兵士として励め」

うん、すっごい簡単に騙されたね……というか緩々だ、この宮殿。

私があまりのあっけなさに拍子抜けしていると玉座の後ろから

「ふあぁーあ……おーサニー、無事だったんだな。さすが俺だ。俺はお前が無事に帰ることを読んでいた」

パンツ一丁の上に、黄金のマントを羽織ったアホが姿を現した。


シャドーと呼ばれた女性が、どことなく迷惑そうに

「あの、お昼寝のお時間では?」

感激しているサニーとリンリンに興味なさそうにジョニーのアホは玉座へと座ると

「寝るのにも飽きた。シャドーお前、ちょっと話がある」

「な、なんでしょうか?」

「お前もエロい服装にしろ。お前だけだぞ。

宮殿内でエロくない服装にしているのは」

シャドーは真剣に困った顔をして

「ど、どうしても必要でしょうか?」

「当たり前だ。俺の配下の女子は全員エロい服装にする必要がある。なぜなら、これは異世界ハーレムものだからだ。普通の服を着た女たちの異世界ハーレムものなんて見飽きた。これからは、全員エロい服を着たハーレムものの時代だ。あえてポリコレから逆走していけ、あえてな」

相変わらず意味不明なことを言っているアホに玉座から離れた私がついため息を吐いてしまうと

「お、新顔だな。ちょっとお前ら三人、天帝に顔を見せていけ」

ジョニーのアホが何と玉座から降りてこちらへと近寄ってきた。そして歩きながら、傅いているサニーとリンリンに諭すように

「いいか?世界にはアイ・ネルファゲルトという稀代の悪党が居た。なぜなら、やつは処女のような顔をして、非処女のヤリマンだったからだ。そして、ルナーという詐欺的なリアルロリババア、さらにはメイズという……」

メイズについて何か言いかけた後に、アホは私たちの近くで固まった。


あっ……近づかれると顔がバレる!まずいかも!と私が思うより早くアホはメイズに抱き着かれていた。

「……めっ、メイズ……」

「ジョニー様、あれからひと時も忘れていません……」

メイズはポロポロと涙をこぼしながら小声で呟く。やっ、やっぱり堪えきれなかったあああああああああ!!

まずい、このままだと不味いよ!潜入計画が台無しになるよ!私が傅いたまま焦りまくっていると、なんとアホが

「……ふ、ふーん……けっ、計画通りだな。よ、よし、シャドー、リンリン、サニー下がれ。俺はこのモブ三人に話がある。シャドー、エロい服の話はまた今度にしてやる」

焦った顔で、他の三人を下がらせた。

シャドーはホッとした顔で、他の二人を引き連れて玉座の間から出ていく。

サニーは私たちへと軽く会釈してから、立ち去りリンリンは、ジョニーに抱き着いているメイズをチラッと見て

不思議そうに首をかしげながら出て行った。


抱き着いたまま離れないメイズにジョニーはどこか安心した顔をしてさらに私とルナーにニヤリと笑うと

「俺の作戦がお前たちを引き寄せた。そうだろう?」

言いたいことは分かる。つまり、私たち三人の悪評をまき散らすことで怒った私たちに、宮殿の潜入をさせたといいたいのだろう。

このアホの考えそうなことだ。

とりあえず、私が立ち上がって

「あんたさぁ、私たちの名誉について考えたことある?私なんて、祖国テルナルドで戦犯の娘で帝国では……ひっ、非処女の……やっ……やり……ま……」

言えない。自分で言っていて恥ずかしくなってきた。ルナーがため息をついて立ち上がり

「私の名誉なんて死んだようなものだが、アイとメイズには謝罪しろ」

ジョニーを睨みつける。

「いやだ」

アホは即座に拒否する。そして察したようにサッと体を避けたメイズによってお腹ががら空きになり、半年分の恨みを全力で込めた私の渾身の腹パンが完璧に入った。


悶絶するアホを私は睨みつけて

「で、どうすんのあんた、帝国滅ぼしちゃったんだけど」

「けっ、計画通りだ……そろそろ飽きたから

あとはシャドーを二代目天帝にして、俺は旅に出る……」

アホのアホ脳内から導き出されたとんでもない無責任なアホ計画に私たち三人は一瞬固まった後、私が何とか声に出して

「ジョニー、あんた、女の子たちはどうするのよ……」

ジョニーは腹をさすりながら、大きくため息を吐いて

「いいかアイ、本物の変態とは紳士なんだ。

つまり、俺はエロい女子たちをエロく見ていただけで、一人も手を出してはいない。分かるか?この高尚な思想が」

「ああ、つまり、天帝とか名乗って帝国を滅ぼして、エロ帝国に作り替えてはみたけど、誰にも手を出せなくて、未だに童貞のままだと……」

私が呆れながらそう言うと、ジョニーはニヤリと笑って

「違う。童貞ではない。すでに俺はパルマウでメイズと……」

メイズの顔が真っ赤になる。

予想外の答えに私とルナーは並んだまましばらく固まった後に

「ちょっとタイム。ルナーちゃんと話したい」

「いいぞ。好きなだけ話せ。俺はすでに非処女のヤリマンである貴様と同じ土俵に立っている。このメイズと共にな!」

アホの勝ち誇ったアホコメントを背中で聞いて私はルナーと二人から話を聞かれない距離を取る。


「ちょ、ちょっと待ってよ……いつの間にか、あの二人って……」

衝撃を受けた私と正反対の顔でルナーは

「男女が同じ部屋で寝ていたら、そういうことも起こるはずだ」

「そっ、そうだけど……」

メイズがいそいそと近づいてきて

「申し訳ありません……わたくしも話すべきだと思っていたのですが」

「いやっ、いいんですけど……」

な、なんか、思った感じより変な方向に話が進んでいる気が……。

どうすれば……。

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