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猫族の歴史

ニャンコロルと言われた謎の猫型生き物は、口をすぼめて上目遣いで

「スグルちゃん……それはほんとかにゃ?」

と言ってくる。驚いている私とジョニーと対照的に他の全員は冷静な顔のままだ。半笑いのスグルが

「間違いないです。これから世界はジョニー君を巡っての覇権争いに突入します」

「うみゅー……由々しき事態だにゃー」

ニャンコロルは、ジョニーの周囲をゆっくりと歩き、観察し始めた。

ジョニーがニャンコロルの揺れるしっぽに手を伸ばそうとするといつの間にか背後の回り込んだメイズがサッと、手を取って

「ジョニー様、いけませんわ。猫族の方は下半身を触られるのを特に嫌います」

「そ、そうなのか……メイズ、なんなんだこの萌え生物。他にもいるなら、一匹捕獲してもって帰りたいんだが……」

ニャンコロルがビクッと反応すると、ジョニーに瞳孔を萎めつつ目を細めて

「スグルちゃん、この子、無学だにゃ?」

スグルは半笑いで頷く。ニャンコロルは仕方なさそうに両手を軽く横に広げ

「しょうがないにゃぁ……では、みんなでそこのソファに座るにゃ」

スグルとニャンコロルとリーノが横に並び

対面や横のソファに私たち四人もそれぞれ並んで座ると、ニャンコロルは瞳孔をいきなり見開いて、黒目を大きくしながらジョニーを見つめる。

「我々、猫族は、いわゆる猫の突然変異種だにゃ。遥か古代に、ここよりもっと遠くの大陸から見世物のために連れてこられたにゃ」

「いや、待て、そんなことよりなんで履いてないのかをせつめ……むぐぐ」

隣に座る私の手で即座にジョニーの口をふさぐ。この謎生物が、この国で一番偉いのなら、失礼なことはできない。

「我々は、基本的に服を着ないにゃ。なぜなら、この種族の誇りでもある美しい毛が全身にあるからだにゃ」

私は真面目な顔をして頷くしかない。こんな生き物がいるのを今まで知らなかった。

「でも。見世物にされた我々の祖先たちはその誇りである体毛を、髪以外全部剃られて、色々とエッチな仕事をさせられたにゃ。下品な貴族に飼われたりもしたにゃ。そんな屈辱を何世代も受け続けて、ある時、私の祖父が立ち上がったにゃ。祖父ナオーン・ニャンコロルは、全ての猫族たちを纏め、ここ南の大島へと逃げたにゃ」

そんな種族がこの世界に居たなんて……。

いや、もしかして帝国や王国から逃げたのなら、裏の歴史として葬られたとか……。

私がそんなことを考えていると、真面目な顔になったスグルが

「んで、たまたまこっちにバカンスに来てた、若い時のうちのじいちゃんと出会って、ここにパルマウ民主主義国の原型となる集落を築いたってわけ。そんで時は経って、建国の名家になったニャンコロル一族として久々に選挙で選ばれて、大統王の座に就いたのがこの人

ニャアン・ニャンコロルさん」

メイズが少し驚いた顔で

「猫族の存在は知っていましたが、それは……初耳でしたわ……」

ニャンコロルが仕方なさそうな顔でため息をついて

「ちなみに、未だに、少数のそういうのが性に合う猫族が外貨を稼ぐために帝国や公国にはエッチなことしに行ってるにゃ」

「え、ええ……とても妖艶な猫耳の踊り子さんたちがたまたま行った貴族のパーティーで踊っていたのを見て、私も猫族の存在を知りました」

ニャンコロルはメイズを真剣な顔で見ながら

「……公国の血縁の顔、そして匂いだにゃ。まぁ、今の当主は、うちの国とも裏で取引をしているしそんなに帝国を信奉もしていないので、先祖が受けた屈辱は一旦許すにゃ」

メイズは驚いた顔で

「えっ、おじさまは、この国とも貿易を……?」

ニャンコロルはニヤーッと笑うと、横のスグルに目を向け

「ちなみにスグルちゃんは、このケイオスマジシャンには勝てないのかにゃ?」

話題を変えた。スグルは何とも言えない顔をして

「手足の一、二本失うのを覚悟して、やっと封印完成って感じですかね」

ずっと黙っていたその隣のリーノがフードを取り、顔を出すと

「この坊やはバカだけど悪意はない。召喚者も含め、まだ真っ白だよ。封じ込める必要はない。王道を教えてあげるんだ」

ニャンコロルは、巨体のリーノを見上げると

「……リーノちゃんも、暇なら、そろそろうちの国に来ないかにゃ?」

なんと知り合いのようだ。

「……まっぴらごめんだよ。無能の皇帝の失政続きでいい感じに混沌に陥っている帝国に居るのが楽しいんじゃないか。それに、我がヴァルガナン一族も、仕上がった極上のバカばっかりでねぇ。脳みそ筋肉の世界を知らない主戦論者塗れなんだよ。ふふふっ……せっかくの大戦争を内部から体験したいだろう?」

スグルが本気で嫌そうな顔で、リーノを見ずに

「……大事になる前に、皇帝殺してくんないかなぁ……」

ボソッと呟いた。リーノは口を押えて笑いながら

「いやだよ。これでも祖国に俸禄を貰う身だ。あの無能を殺したければ、あんたがリョカとうちの国に攻め込みな。それも嫌なら、そこに、最高の駒がいるだろう?」

ギラギラと光る眼で私とジョニーを見回してくる。いやいやいや、いま気配を消して、聞き役のモブに徹してますから!

怖いので私の存在を気にしないでください!

そう思った瞬間に、ついジョニーの口を押えた手を緩めてしまうとスルリと抜け出して、立ち上がり

「おい、十八禁萌え生物。難しい話はいいから俺に味方してもらいたいなら、お前のエッチな仲間を紹介しろ。わかっているのか?大事なのはバトルとエロとかわいい女キャラだ。五分で作ったようなファンタジー世界の歴史とか、そんなのは大半のアニメ視聴者は興味がないんだ」

さっそく意味不明なアホコメントをぶち込んでくる。このアホが猫族に性的な意味で興味を持ったのはかろうじて私にもわかった。

「ジョニー様、いけませんわ」

メイズが本気で怒った顔をして体を寄せ、ひるんだジョニーをニャンコロルはニヤニヤと笑いながら見つめ

「まあ、ちょっとだけだにゃ。彼女さんや、ほかの女の子たちと共にそういうの得意なスグルに、連れて行ってもらうといいにゃ」

「得意じゃねえよ。友達多いだけだって言ってるだろ?」

スグルは不満を述べつつ、楽し気な表情をした。


約一時間三十分後。

ニャンコロルが気を使い、わざわざ出してくれた軽めの昼食をとり、少し休憩をしたあと、ジョニーのアホの要望通りにエッチな猫族たちに会いに行くため、外出することになった。


何か真剣な話があるらしいリーノと、ニャンコロルそして庭で伏せているダークウインドを大統王府に残して私たち残りの全員は、革鎧を外して執務室に預け、スグルの先導でソーラントの街中を歩いていく。


深い昼の時間帯の、晴天の下にとんでもない人の数だ。肌の色や顔つき体つきも多種多様な人間たちに加えさらに結構な数の男女の猫族たちが歩いている。

大半の毛を剃って、むき出しの肌に露出度の高い服を着ている者から、長い毛を生やして、服を殆ど着ていない者まで格好も様々だ。男も女もかわいらしいのは一貫していて、ちょっとだけ私は嫉妬する。

そして猫族とすれ違うたび、いやらしい目線をそちらに向けるジョニーの顔を毎回、膨れた顔のメイズが前を向けさせるのが、悪いけれど、ちょっとおかしい。

私の隣を歩くルナーが

「なんか、楽しいな。今は、普通の女の子って感じだ」

「……よく考えたら、そうかもしれないね。お友達と街歩きなんて久々だなぁ」

学校を中退してから、何年もこんなことはなかった。朝方まで戦地に居たのがウソみたいだ。平和そのものの光景が広がっている。

「せっかくの機会だし買い物でもしたいが、この国のお金がないな」

「スグルさん、ちょっと奢ってくれません?」

見上げた私とルナーから声をかけられて、振り返ったスグルは困り顔で

「僕も、そんなに給料いいわけじゃないんだよなぁ。まあ、でも、何が欲しいの?」

ルナーが少し顔を赤らめて、目をそらしながら

「服とか……化粧品とか……アクセも……」

「私は別にいいですよ。ルナーちゃんに買ってあげてください」

「……まあ、禁呪で頑張ってくれたし、寄り道しよっか」

スグルは苦笑いしながら、私たちの後ろを歩くジョニーとメイズも呼び寄せて

近くの、六階建ての四角い建物の派手な入口へと、いざなう。

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