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ジョニー

紫色の物体は、大きく口を開けて悍ましく私の血を飲み込んでいくと


「うま……もっと……もっと……」


と何とせがんでくる。血だらけの手のひらを絞って痛みも忘れ、血をもっと与えようとするとミッチャムから止められた。

「お嬢様、十分です」

ミッチャムは素早く傷口を消毒すると、手に包帯を巻いて止血する。紫色の物体にいきなり小さな目が現れて血走った眼差しで、私たちを見てくる。そして


「ここ……どこ……だ……」


と私とミッチャムに尋ねてきた。

「こっ、ここはネルファゲルト家だ!」

震える声で私が答えると、紫の物体は目と口を閉じて、沈黙した。

「し、死んだのかな……」

「いえ、生きていると思います」

私はホッとしながら、力が抜けて、その場に座り込んでしまう。

「お嬢様、後は私がやりますので

 お部屋で、お休みください」

「……ごめん……お願い」

私はフラフラとマスクも手袋も白衣も脱ぎ捨て地下室から出ていく。そのまま朦朧としながら廊下を歩き、自室のベッドへと倒れ込む。そして眠ってしまった。



……




次に気付いた時、朝日が私の部屋には射しこんでいた。フラフラと立ち上がり

そしてクシャクシャの頭と昨日着ていた服のままミッチャム以外の使用人の居なくなった

広い屋敷の廊下を歩きだす。

右手の包帯を歩きながら眺めると、昨日起こったことが、脳裏に蘇っていく。

そうか……とうとう成功したんだ……。

でも、あれじゃあ……ホムンクルスだとは

誰にも、認められないし、あんな外見じゃ、売り飛ばしてお金にすることもできない。

何となく力が抜けてきて、廊下の壁に座り込み、朝日を見ながら呆然とする。

もう、買ってきた材料はほぼ底を尽きた。私たちの生活を考えれば、これ以上の実験の続行は無理だ。泣きそうになって、涙を拭って立ち上がる。

いーや!

ネルファゲルト家の者はこのくらいじゃ

凹まないんだ!お父様もお母様もいつも微笑みを絶やさずに国家を背負っている重責を

私に微塵も感じさせなかったじゃないか!

やると決めたらやる!

そうでしょう?ねぇ……お父様……お母様……。

縦長の窓から朝日が差し込んできて、座り込んでいる私の全身を照らす。

まるで両親が応えてくれたような気がして、私は座ったまま、窓から差し込む陽光に手を伸ばしてみる。

私……間違ってないですよね?

このまま進んでもいいですよね?

暖かい……そうか、私、天国の二人に守られ……。と思った瞬間だった。


謎の紫色の物体が、身体から何かをまき散らしながら私の前を高速で通り過ぎていく。

唖然として、紫色の物体が去って行った先を見つめる。廊下が……ミッチャムが毎日、何時間もかけて一人で清掃してくれる屋敷の廊下が……。紫色の汚水で汚らしく染まっている。

「こらー!待ちなさい!」

反対方向から、白衣とマスクを着たミッチャムが走ってきて私に気付くと立ち止まり

「すいません!説明は後でします!食堂に朝食と、お風呂も入っています!!」

焦りながら早口でそう言うと物体が去って行った方へと駆けていく。


私は、紫に汚れた自分の洋服と廊下を交互に見つめたあとにしばらく固まり、とにかくお風呂に入ろうと廊下をまた歩き出した。

すると今度は、向こうから紫色の物体が

全速力で駆けてきて、そして避け損なった私と思いっきりぶちあたる。

「……」

ブニュっとした感触がして紫色の物体は私から跳ね飛ばされその場に倒れた。見下ろしながら、またもや唖然とする。頭、首、右腕、左腕、右足、左足……。完全に人型にしか見えない。頭には、ちょうど両目と口の部分に深いくぼみができている。

身長は、ミッチャムほどは高くないが成人の男たちと同じくらいだ……。


「うぅ……お前……強い……な……」


いきなり紫色の人型は倒れたまま喋った。口を開けてそれを眺めていると向こうから、ミッチャムが猛烈な勢いで走ってきて私に駆け寄ると

「おっ、お嬢様!?お怪我は!?」

猛烈に心配した様子で声をかけてくる。

「……うん、大丈夫。

 私よりもこいつが……ジイ……これ何?」

ミッチャムはマスクを取ってフウッとため息を吐き、額の汗をハンカチでサッと拭うと


「ジョニーさんです。お嬢様が昨日、造り出した魔法生物ですよ」


と言ってくる。

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