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地下迷宮

ジョニーたちが先に向かっていたのを思い出し、急いで地下迷宮に続く巨大な門前まで駆けていくと、衛兵のいないその前に、ナナシ、セイ、ジェーンそしてジョニーが立って

雑談していた。

尊敬するセイが銀髪をなびかせながら私を見て

「アイ、行くぞー」

まるで遊びにでも行くような感じで言ってきて、ちょっと救われる。

近づくとジョニーが顔をしかめながら

「遅いぞ。どうやらナナシによると、この門は別の入り口にも通じているようなんだ」

ナナシは頷いて

「ああ、この下は元々は堕天して悪魔となった者たちを捕えるための空間だった。ハーティカルが多少時空を捻じれさせ、封印されているがね」

「つ、つまり、元皇帝たちが相撲させられていた空間は仮初の場所だったんですか?」

ジョニーは苦笑いして

「もう相撲部屋はとっくに移転しているがな。今季の相撲リーグは、元皇帝の孫が優勝したんだぞ?知らんのか?」

「ちょ、ちょっと待ってよ!そっちも興味ある!」

脱線するのは分かっているけど、どうしても尋ねたかったよ!

ジョニーはニヤリと笑うと

「ふ、俺が相撲レスラーにした皇帝とか元貴族たちはとっくに引退して親方となったり、天に召されたり、今は彼らの息子や娘たちが跡を継いでいる。当然、相撲リーグには自国や他国からも力自慢たちが次々と入門してきているが今季はひさしぶりに、元皇帝一家の力士、モッサー・モサール三世が頂点に立ったぞ。なんと身長162センチだが超絶押し相撲で、巨漢たちをなぎ倒している」

「ま、まったく知らなかった……そんなことに……むしろ女子もいるの?」

「ああ、筋肉や脂肪ダルマばかりだが、ちょっとエロいぞ。上は着てるがな」

「いや、エロに結び付けなくていいんで。とにかくすごいなぁ……」

アホと帽子に封印されていた元魔王が思いつきで始めた相撲リーグも根付いているようだ。


私たちが喋っている横でナナシが黙って扉へと手を翳し

「封印されし黄土よ……無間の落日よ、姿を現したまえ……」

ブツブツと呪文のようなものを唱えると、明らかに扉の向こうの雰囲気が変化した。

「さあ、行こうか」

触れもせずに、ナナシが手を前に押すしぐさをすると扉を音もなく左右に開き始めた。

その先には、真っ青な壁に囲まれた巨人でも通るのかといった通路が延々と坂道になって下へと続いている。

壁の節々には電気らしき照明が明るく照らしていて、明らかに異様だ。

ナナシもジェーンもためらわずに入っていったので、私たち残り三人もそれに続いていく。


大きく螺旋状に下へと続いていく巨大な青い通路を私たちは延々と下りだす。セイが呑気な顔で

「ナナシ、これは走ったらダメなやつだよな?」

先を歩くナナシは振り向かずに

「ああ、そうだ。ハーティカルが時空を歪めた影響がまだ根深い。この深度だと急がない方が、むしろ早く着くだろうね。もう少し奥まで行ったら、速度を速めようか」

ジェーンが低い声で

「王様、扉です」

ナナシは微かに笑った後に

「少し、距離が短いな、彼からここに来たのか」

意味深なことを呟いた。

遠くに道を塞ぐ壁にはめ込まれた錆びた両開きの扉と一体化したような割れた巨人の上半身だけの人骨が見えてくる。

近づいて私は驚く、上半身だけの人骨はそれだけで高さ十メートルは軽く超えている。

ナナシが何か言おうとする前にジェーンが手で制して

「マスケラーノ、通しなさい。もういいの。もう、全ては終わったわ。あんたはハーティカルの想い出のためにここにずっと残されていた。もう踏ん張って存在しなくてもいいの。見なさい、ここにいるアホ面の男と、普通の女はたぶん、これから冗談みたいに、私たちの苦しみの根源を取り除いてくれるわ。とっくに時代は変わったの。安心して逝きなさい」

その瞬間、私にはその割れた人骨の顔の部分が満面の笑みでこちらを見てきた気がした。次の瞬間、人骨はポロポロと崩れだして

そして消え失せた。扉には人骨があった部分に大穴が開いている。

ジョニーがニヤニヤしながら

「お、ジェーン泣いてるなー?あの人骨と夫婦だったのか?」

と横から話しかけて、秒で腹パンを入れられて悶絶した。

ジェーンは後ろを振り向かずに跳躍して、扉の穴を飛び越えた。

即座に回復したジョニー含む、私たち四人も続く。


さらに螺旋状になっている青い下り坂を降り続けていくと、先ほど同じような巨大な錆びた扉が現れた。

ナナシが近寄り、右手を扉へと翳すと、扉は崩れ落ち、その先の暗闇が私たちの視界に広がってきた。

天井も横幅も今までの通路より高いし、何も見えないので不気味だ。

ナナシはジョニーを振り返り

「ジョニーさん、暗闇を消してくれ。雰囲気を味わっている時間はない」

「そうか?今のところいい感じじゃないか?なんか、本格ファンタジーっぽい舞台設定だなと思っていたころだ。このくらい背景がしっかりしてれば、久しぶりに視聴者も満足するんじゃないか?」

「ジョニー……黙ってやって」

ジョニーは仕方なさそうに、両手を翳して、クルッと一回転すると

「あかるくなーれっ」

少し体を斜めに倒し、かわいこぶった顔で、暗闇に右手を指さす。

途端に暗闇が晴れて、私は開いた口が塞がらなくなる。


今まで暗闇があったところには直径数百メート目の巨大な円筒状の壁面に

張り付くように延々と下へと降りていく階段が続いていて階段の近くの壁には、格子で閉ざされた牢獄がいくつも見える。

「な、ななななんなんですかこれ……」

ナナシは皮肉めいた顔で

「ハーティカルの前の神のくだらぬ趣味だ。彼女はこういう装置を作るのが好きだった。さっきの骨もそうだ」

セイが下を覗き込みながら

「ああ、階段に沿って降りていくと、罪人たちに絡まれる仕掛けだな」

ジョニーが不満げな顔で

「おい、俺の動きを見てなかったのか?あれこそ、魔女っ娘アニメの大傑作、ライトブラスターあかりの人気キャラ、ブライトバスターさとしのボーズだろ……。女装した男なのにどうみても女子にしか見えないさとしが主役のあかりの人気を食ってしまって、その異常な人気ぶりから第二シーズンは、さとしメインの大人向けに路線変更され、第一シーズンの朝八時から深夜一時に時間帯が変更されたんだぞ?そこから七年も続いたこのアニメの偉大さを分かっているのか?」

空気を読まずに早口で謎のアニメの話をしはじめたアホに

「うん。いつものジョニーだね。良かった」

私はちょっとホッとする。ジョニーは不満げに

「なんかこの地下迷宮だけ、別の物語の設定を流用したみたいにちゃんとした舞台装置だな。青空と草原といつもの宮殿大好きな最近のこのクソアニメっぽくないぞ」

セイはジョニーを訝し気な目つきで眺めて

「おい、ブサメン、要するにお前の過剰なアニメ主義を形にして世の中に押し付けたのと同じような愚行がこの地下迷宮だぞ?賢いセイ様はすぐにわかったんだがー?」

ジョニーは不敵な笑みを浮かべ

「ふっ……この異常な猟奇趣味とアニメ趣味を一緒にするようならまだまだだな。未だに世間の極一部はアニメファンを異常者扱いするがむしろそれはパンを食べている奴は異常だということと同じだ。その程度の幼稚なことを言うのか?」

セイは顔をしかめて

「そういうことじゃないんだがー?アニメファン全体を否定しているのではなく貴様自身を否定している皮肉なんだがー。セイ様の深い真意を察していけ」

まったくかみ合っていない二人の会話に、私はちょっとうれしくなって

「セイ様、間違いなく本物です。冷静に適当なことをそれっぽく語る。これこそがジョニーですよ!」

セイは微妙な顔をして

「確かにそうだな。このいやあああああああな感じは本物だ」

気にもかけていない顔のジョニーはニヤニヤしながら底を覗き込みながら

「ナナシ、当然、階段で行くよな?まさか、空洞の真ん中を飛行しながら降りていくなんてそういう無粋なことをしないよな?」

ナナシは無表情で

「ああ、そうだな。罪人たちももう死に絶えているころだろう。空間が不安定なのを勘案すると、そうしたほうがいいだろうね」

ジェーンは無言で近くの階段の降り口を下り始めた。

私たちもそれに続く。

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