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ようやく

私は心地よい振動と回転の中、か細い男の声を聴いていた。

「もし、もし、願いを聞き入れてくれるのならば、この星に降り注ぐ災厄を止めてください」

男が何か、とても困っているというのだけは分かる。

ざわめきが耳を満たす中、聞き分けるように次の言葉を待っていると

「私の占星術によると、この東歴千九百九十九年七の月にゾニーという災厄が天から降り注ぐのです。ゾネストダムスという古代の預言者も言っています。それは、もうすぐに迫っています」

悲痛な男の声を聞き入れた私は、とくに返答することもなく、その後も心地よい回転と振動、そしてざわめきに身を任せた。

私の意志と体は関係はない。

私は万物の一部、私は森羅万象を受け入れるだけ。

私は……私は、誰なのだろう……誰だったのだろう……。

心地よい振動と共に、私は眠りについた。



……



チクっとした微かな痛みで起きる。

いつもの振動と回転、ざわめきが私を包み込み

再び、寝ようとすると同じ痛みが別の位置で起こり、覚醒した。

不快だ……とても、不快な気持ちだ。

私は軽く体を揺らして、痛みを和らげた。

再び寝ようとすると、ざわめきの中で聞いたことのある不快な声が

「おい!もういいぞ!もう、起きてもいいんだ!さっさと戻ってこい!」

私の耳を切り裂くような声を上げてきた。

不快感が体中に広がって思わず全身を揺らそうとすると

「まっ、待て!全惑星を揺らされたら、俺もモブどもを助けきれない!アイ!戻ってきてくれ!アイー---!俺にはお前が必要なんだ!」

とてつもなく不快だが、懐かしい声色が私の心に響いた。

「ジョニー……?」

「よ、よーし!今だ!ナンヤ、セイ、やってくれ!っておい……嫌そうな顔するな!俺ができないから仕方ないだろ!?」

途端に私は何かに身体から吸い出されるような感覚に陥った。

ああ、心地よい回転もざわめきも何もかも遠くなっていく。



……



目覚めると、崩れはてて天井部分のない神殿跡の中だった。

青空に上っている太陽が私を照らしている。

白い大きな横長の宇宙船のような物体がそこを横切っていく。

私の頭を膝枕していたらしいナンヤが

「アイちゃーん?だいじょうぶー?」

覗き込んでくる。

「う、うん……とてつもなく、長い夢を見ていた気がする。ここは?」

セイが私の横にしゃがみ込んできて、美しい銀髪を垂らしながら

「……リーンナース星とかいうド田舎星だ。アイたちの生まれた星からすぐ隣の星だな」

「そ、そうだったんですか……私は一体」

ジョニーの声が近くから

「お前自身がこの星になっていたんだ。それで俺が見つけたんだよ。昨日夜空を見上げていたら、何となく空に輝く星に目を奪われてな。それで、レスリーにあれはどんな星だと尋ねたらリーンナース星って言ったから、目ん玉飛び出そうになったぞ!戻ってくる前に俺が生きてた星じゃないかとな!これはもう絶対にアイはそこにまだ居るって確信してすぐにナンヤたちと邪神討滅号で、ここまで駆け付けたんだよ」

「な、なんか、よくわからないけど、見つけてくれてありがと……」

ジョニーは照れくさいのか黙ってしまい、代わりにナンヤが

「それで、この遺跡にアグラニウスっていう私たちの星にあったのと同じ不思議な力があるモニュメントをすぐに見つけてここで、アイちゃんに話しかけてたの」

セイが立ち上がり、

「惑星そのものだったとは思っても無かったがな。そこの塩顔のブサメンが、そう言い張るのでな」

ジョニーは少し遠くから

「スズナカのことだから、そのくらいやるんじゃないかと思ったら本当にそうだったでござるってだけだ。あのサイコパスを舐めるな。どうせ、アイを操って、この星を俺たちの星にぶつけようとかしょうもないことを企んでたんだろ」

「うーん、そうかなーミイ先生そこまでかなー?」

「いや、あのストーカーならありうる。アイ、未然に防いだのは偉いぞ」

セイから褒められてちょっと幸せな気分になる。ジョニーが

「待て。アイは何もしてないだろ。今回の発案者は俺だぞ」

「セイ様は醜いものは見えないんだ。すまんな」

「ハリウッド的な美しさが全てだと思うなよ?アニメファンからすれば、貴様の顔などリアルすぎるからな。アニメ的美的感覚と、リアルの美しさは関係ないぞそれを本当に分かっているのか?」

「……なんか、セイ様、凄く侮蔑された気がするんだが……」

「セイ様、アホの言うことなんて気にしないで……」

私はフォローしつつ上半身を起こし、さらに立ち上がり辺りの様子を見回す。

割れた床の先に柱だけ残して、その先が崩れたらしきモニュメントの跡がある。

あれがナンヤがいうものなのだろう。


遺跡跡から出て、近くの街へと四人で歩いて向かう。

空気も風も綺麗だ、時折、舗装されていない道を通り過ぎていくタイヤのない自動車に驚きつつ小さな田舎街へと入り、寂れたパブへと入る。

客のいないそこのカウンター席に座り、高い位置に設置された

ニュースの流れてくるテレビを四人で見上げていると、カウンター奥から出てきた

ガタイの良い禿げた老人のマスターが、深刻そうに

「地震、あんたら大丈夫だったかい?」

と尋ねてくる。セイが何ともなさそうな顔で

「ああ、何とかな。ここらは被害も無かっただろ?」

「震度が小さかったからな。バブザッド地方の首都なんて壊滅してるらしいぜ。人死には全然でなかったそうだがな」

何かを自慢げに言いかけたジョニーの口をナンヤが塞いで

「……マスター、何か飲み物ちょーだい」

「任せとけ」

カウンターの奥へと老人は去って行って、テレビからは

「昨日から続いていた全世界的な地震は、三時間前に収まりました。地震で国土がほぼ壊滅しているトォーラル共和国とルメ民主主義国の小規模な核弾頭の応酬も治まっており、これは、停戦交渉へと進まざるを得ないとの見方が各国の政府筋から出ています」

キャスターがそう解説しながら、画面半分には崩れ落ちた街が映し出された。

ジョニーが舌打ちをして

「わりと大きな国が、核戦争していたみたいだな。それをアイが国ごと地震で潰したんだよ。悪いな、核の時には間に合わなかった。その後の地震の時は、俺の力でモブどもを救いまくったがな」

ナンヤが苦笑いして、セイが真顔で

「違う。セイ様たちの力も使っただろ。そもそも邪神討滅号から混沌粒子を撒かないとお前はこの星では何もできなかったからな。あの船に感謝しろ」

「……も、もしかして、地震も私のせい?」

ナンヤが悲しそうに首を横に振り

「アイちゃんが星に乗り移ってなくても、起きてたことだと思うよ。私も星に降り立ってすぐに感じたんだけどあの爆弾はちょっと……汚いから、星が嫌がるよ絶対に」

「ふっ。セイ様は混沌粒子すらないど田舎星が勝手に内ゲバで自滅していくなんてどうでもいいがな」

「セイさんが一番慌ててたでしょー。このままだと沢山人が死ぬってぇ」

セイは少し顔を赤らめて横を向いた。

その後、マスターが出してくれた果汁を絞ったジュースを飲み干し多少は気持ちが落ち着いた私は、ジョニーが金塊をカウンターに置いてマスターが目を丸くしているのを横目にパブを後にして、青空を見上げた。

ようやく自分の星に還れそうだ。

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