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木生

どうも、ただの木ごときにご丁寧に……と私が思うと、ペリーヌはニコリと笑って

「いえいえ、そのようなことはございません。私は、ガモーゾ様のお心が欲しいだけのさもしい女です」

さもしいって……浅ましいとかそういう意味だよね……。

使ってる人初めて見たよ!と思っていると

ペリーヌは雨の人けのない公園を見回し

「……私、どうしてもガモーゾさんと結ばれたいのです。どうしたらよろしいか、御神木さんは知っていらっしゃりますか?」

……そりゃ、まあ、告白したら一発なんじゃないですか?

今のあいつは、何もない状態みたいだし、普通に呼び出して好きですとか言ったらコロッと引っかかると思いますよ?

と思うと、ペリーヌは頬を赤らめて

「私、恥ずかしながら……男性とお付き合いしたことがありませんの。そ、それで、もし断られたと思うと……」

ああー気持ち分かるわー……私もそうでしたよ。

なんかいいなと思っても、なかなかお付き合いまでいけない。っていうループを

かつて繰り返した時期もありました……というかそれが人生の大半でした。

でも、まあ、男と女は勢いだよ!っていっても、私も経験は極少ないんですけどね。

ペリーヌは、言いにくそうに顔を伏せた後に

「あ、あの……明日、ガモーゾさんをここに呼び出します。よろしければ、告白の時にアドバイスなど頂けるとありがたいです」

もちろん!ていうか、あいつガモーゾっていうんですね。

まあ、どうでもいいけど。

ペリーヌは頭を深く下げてから、足早に私のもとから去っていった。


それから快晴になった翌日のお昼前の公園に人が居ない時間帯、痩せたジョニーがフラフラと私の近くへと歩いてきて

「おい……アイ、これ見ろ。な、なんか、ここに呼び出された……」

そこには、恐らく新聞の切り抜きで作られた見たことない文字の羅列があった。

きっとこの惑星の文字なんだろうなーと思って眺めていると

「……十一時十七分に公園の御神木の前で待つって書かれてるんだ……。やばくないか?俺、もしかしてここで終わりなのか?」

震えるジョニーに、私は呆れながら、いや、めちゃくちゃ不器用な女子があんたに告白するんだよ……。

それにしても、確かに切り抜かれたその文面は読めないけど怖いね……。


そんなことを思っていると、遠くから、何と黒いビキニ水着姿のペリーヌがかわいらしい小走りでこちらへと走ってきた。

うわー……それはだいぶ違うと思うよ……なんで水着……。

ペリーヌは近くまで来ると

「あっ、あの……ガモーゾさん、私、ペリーヌと申します……」

ジョニーは息を切らして自己紹介する彼女に訝し気な瞳を向けると

「……これ、あんたか?」

ペリーヌは顔を赤くして何度も頷いて

「あ、あの……ガモーゾさん……あの……」

と言って、耳まで真っ赤にしてうつ向いてしまった。

しばらく無言の時間が流れて、堪えきれなくなった私が、ペリーヌさん!がんばれ!ちゃんと告白するんだよ!と応援すると

「わっ、わわわ私と!付き合ってください!」

ジョニーは目を細めて、水着姿のペリーヌの見つめると

「……ごめん……なんか違う……」

と言って、去っていこうとした。

私が慌てて、ペリーヌさん、ジョニーって!ジョニーのアホって言ってみて!

と強く思うと、ペリーヌは私を見て結審した顔で頷いて

「ジョニーのアホ!アホジョニー!」

大きく叫んだ。途端にジョニーは振り向いて駆けよってきてペリーヌのむき出しの肩を掴むと

「な、なんでそれを!なんでそれを知っているんだ!」

ペリーヌは顔を赤らめて、ジョニーを見上げ、目を閉じた。

ジョニーは少しためらった後に、黙ってペリーヌの頬に口づけをした。

な、ななななんか!よくわからないけど、上手くいったよ!

今は木でしかない私はホッとする。


それから、月日は流れていった。

私は木であることに次第に慣れていく。

大木の時間というのは、わりとあっという間だ。

公園で人々を眺めて気づいたら五十年経っていた。

ジョニーとペリーヌは、人生の節目には私の処へとやってきた。

二人が結婚した時、ペリーヌが妊娠した時、子供たちが生まれた時、ジョニーがペリーヌの一族が持つ財閥傘下の会社の社長になったとき、そして、寿命を終えたジョニーについての報告をペリーヌがしてきたとき。


「夫は、良い人でした。浮気をすることもなく子供たちを愛して、そして、精密機械の部品製造工場の社長として働き……七十六で、逝ってしまった。ねえ、アイさん、私たちはここで色々と話をしましたね?」

そうだねー。ジョニーの前世の話とか色々としましたねー。

でもあなたも年老いたね。私は五十年前とあんまり変わんないけど。

年老いたペリーヌは、真っ白な髪を風になびかせながら

「……夫は、今頃、元の世界に還っているのでしょうけど、私は、きっとこの人生で終わりです。アイさんは、いつ還るのか私には分かりませんが心はいつまでも一緒ですよ」

……あー泣かせないでくださいよー。私、木ですから悲しくても嬉しくても、ここに居るだけですからね。

「……ふふ、これで、お別れかもしれません。可能ならば、私も、夫を追いたいと思います」

後追いはダメだよ?そういうのはジョニーってかガモーゾのアホも望んでないからね?

「当然です。でも、もうここに来られないという予感がします。ありがとう。アイさん。幸せな人生でした」

そうですか……よかったら、また、ここに……。

ペリーヌはサッと反対を向いて、去っていった。

ああ、なんなんだろう。この人生は……いや木生なのかな……。

あージョニーのアホも逝ってしまったし、話し相手のペリーヌもかー。

そんなことを考えていると、空が曇って雨が降ってきた。

あっという間にそれは雷雲となり、稲光が辺りに響く雷鳴を聞きながら、あーこれは酷くなるなあと思っていると公園の近くの木に雷が落ちてきた。

あれ、もしかして、これ、危なくない?私、ここらの木で一番背が高いよね?

などと考える間もなかった。

とてつもない轟音と地鳴りと同時に私は意識が薄れていく。



……



次に起きた時、不思議な感覚の中に私は居た。

多様なざわめきや、心地よい振動、それらを包むような静寂。

私はゆっくりと回転しているようだが、前後左右がどこかは分からない。

そして小さな、とても小さな呼びかけを私は聞いた。

「もし、この星に御意志があるのならば、私の声をお聴きください」

弱弱しい男性の声だ。

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