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コングラッチュレーション

ジョニーのアホの声がふと思いついたように

「やっぱな、サメだと思うんだよ。俺はサブスクで予算をかけた自国製のクソ映画を見るたびに思う。その金で国産のトンデモサメ映画を本気で造れとな」

「……サメね……嫌な予感をさせないで……」

こんな中でさらにサメなんて出てきたら、どうしようもなくなる気がする。

「だがな、俺は真実を知っている。海外製のトンデモサメ映画は現地ではウケていない。なぜだか分かるか?」

「……わかるつもりもないし、今、脱出ポッドの計算待ちの最中だし、サメとか出てきたら、とんでもないことになるから怖いし、ちょっとジョニー黙っててくれる?」

「ふっ……サメ素人はこれだから困る。俺の絶対面白い話の結論を聞いていけ」

「……」

アホの言葉は聞き流そう。早く計算終わらないだろうか……。

「サメ映画が好きな酔狂な国が買いまくってるからだ。それで現地で受けなくてもいいんだ」

「……ネットで読んでそのまま頭の中から口に転載したみたいな結論よね……」

ジョニーは少し呻いて

「た、確かに……そうかもしれない。俺の専門はアニメであってサメ映画ではないからな……しかし、いつかはサメ映画にも詳し……」

と言った瞬間に、外から何かが脱出ポッドに当たってきて室内が猛烈な衝撃でグラグラと揺れ続ける。

「き、来たか!巨大サメの攻撃だな!このクソアニメは面白くもない笑いに貪欲だからな、そうくると思っていた!」

私が慌てて、外の様子を見に行こうとすると

「アイ、やめておけ。ここはエネルギーチャージするんだ。きっとこれから……」

轟音が響いて、いきなり揺れが収まった。

「な、なに……」

「これは巨大サメの口の中に吞まれたな!来たぞ!こう来ると思ってた!このクソアニメの脚本は、意外とダメな意味で王道を目指すんだ!俺には分かる」

慌てて動こうとすると

「ダメだ。エネルギーチャージをしていけ。ここはつまり、セリフだけで緊迫感を煽るシーンだ」

アホの声が止めてくる。

「でも、口の中に入ったんなら、チャージしている場合じゃないでしょ!」

「ふっ……分かってないな。これだからアニメ的想像力のないやつは」

「……」

無言で動こうとするのと同時に

「着地地点の計算完了しました。追加情報です。現在惑星原生生物、グレートドラゴンクラス、メサルバーンの口中です。エネルギー量が十分なため、突き破って脱出します」

「サメじゃないんですけど……ドラゴンとか言ってるけど」

「サメ型の竜かもしれないだろ!?」

アホはあくまで拘っている。でも巨大生物の口の中に吞まれていたのは確からしい。

そうこうしていると、いきなり脱出ポッドが激しく回転し始めた。

実体じゃないので、一切目も回らないが

こんなにコンマ単位で上下左右が変わると、実体のイノーと長身のアイは身体もつんだろうか……などと心配になってきた。


「スーパー回転アタックだな。ドラゴン型のサメの歯を全て折って脱出するつもりだろうな」

ジョニーのアホが頭の中で適当なことを言ってくる。

次の瞬間には、辺りの回転がピタッと止まって

そして脱出ポッド中の機械や内壁がガリガリと軋むような音を立てだした。

とにかく落ち着いて状況をうかがっていると

それもピタッと止まって、いきなり横へと猛烈な速度で移動し始めたのが分かる。

私は影響を受けないが、辺りの機械が圧力で歪んで見えるほどの速度だ。

じょ、ジョニーが言うように、歯に当たって折るのかなと考えていると何かに当たったような衝撃もなく、脱出ポッドはひたすら横移動をし続ける。

そんな状態が三十分ほど続いた後にいきなりスッと移動が終わった。

「ふっ……つまらんかったな。このクソアニメの脚本家は才能ないからな。物語に山というのを作れない」

ジョニーのアホのアホコメントは聞き流しつつ、私は重なっていた炉から離れて、恐る恐る壁を透過して外へと顔を出してみる。


外の景色は、何もない広い格納庫の様な場所だった。

少し青ざめたようなコンクリート風の壁が四方と天井を囲んでいる。

脱出ポットが入ってきたであろう方向は開きっぱなしになっていて外では雷光が瞬き、雷鳴が恐ろし気に鳴り響いている。

すぐに身体を引っ込めると、頭の中で

「ディストピアものに舵を切ったのか。ふっ……無理だな。設定とか難しいからな」

ジョニーがどうでもいいことを言ってきて、少し落ち着いた。

「ねぇ、ジョニー、ここからどうしたらいいと思う?」

「ほぼゴールしたろ。あとは修正者から見つかるのを待つだけだな」

「そうか。そうだね。ふー……大変だった」

私はホッと一息ついた。


それから半日経っても状況は変わらなかった。

ジョニーのしょうもない語り口で聞かされるアニメの話も飽きたので、まったく起きる気配のないイノーのために、操縦席のパネルに重なって

「起きてくださーい」

というと、私の声が船内に響き渡り、ハッとした顔でイノーは目を覚ますと

「あ、あの……ここは……というか、あなた誰ですか……」

今更尋ねてきたイノーに咄嗟に

「……コンピューターの音声ガイドです。私の指示に従ってください」

イノーはホッとした表情をしながら

「そうでしたかぁ。てっきり私の幻聴かとー」

そう言いながら座席のベルトを外していき

「これから、どうしたらいいですかねー?」

尋ねてきたので、少し考えて

「まずは探索システムを起動させます。安全を確認したら報告しますのでアイさんを抱えて、外へと出てきてください」

「はいーご丁寧にありがとうございますー」

イノーはのんびりした口調で頭を下げてきた。

元々はこんな穏やかな性格だったのかー……中身の違いでこんなにも変わるんだなぁと私は、今更ながら感心しつつ、操縦席から離れて格納庫へと出て行った。頭の中から

「……せっかくだから、上手いこと操ってエロいことさせたらよかったのに。なんで、絶好のチャンスを無駄にするんだ」

というジョニーのアホの声が響いてくる。

「そんなことより、いつ修正者に戻されるかわからないんだからとりあえず、安全くらいは確認してあげないと」

私は格納庫奥の開け放たれた扉を目指して、足早に進む。

「真面目か!どうせ、あの二人が死のうが生きようが俺達には関係ないぞ?このクソアニメのフラグ使い捨ては酷いからな。このシーンに意味があるとか考えてはいけないぞ」

「……さすがに、ミイさんは何か考えてるでしょ。いくらあの人が無茶苦茶なストーカーだとしても、ここまでのことしといて、何も考えていないとは思えない」

「……確かにな」

開きっぱなしの扉を抜けると、ひび割れた壁に挟まるように張り紙が挟まれていた。

そこには、地球の文字で

「コングラチュレーションー。よくたどり着きました。この施設の所有者たちは、宇宙船で脱出しようとして三段目の混沌粒子の爆発に巻き込まれて全滅したから安心してねー。まずは格納庫内のパネルを操作してを入口閉めさせ、それから奥の施設を使ってとイノーちゃんに伝えといて、たぶん、あと五分くらいでアイちゃんも戻されるから急いでねー」

私が読み終えた瞬間に、張り紙は砂となり消え失せた。

「……スズナカの伝言だな」

私はジョニーの声を聴きながら、背後へと振り返って走り始めた。

そして脱出ポッド内へと透過して入り込むと、操作パネルに重なって

「安全が確認されました。イノーさん、格納庫を閉めてください。それが終わったら。施設内の奥に生存のための場所があります。では、お幸せに」

私はそこまで言うと、サッとパネルから離れた。

イノーは涙目で脱出ポッドのパネルを操作し始めて、出入り口を開けると慌てた顔で、外へと駆け出て行った。

そしてすぐに格納庫内の壁に張り付いている操作パネルを見つけボタンをいくつか押し、無事に入り口を閉めた。

そこまでを近くで見守っていると、いきなり辺りの景色が歪み始めた。

どうやら、ここまでのようだ。私はイノーたちの無事を祈る。

「なかなか楽しかったな!ところで、俺は戻れるのか?」

「いや、わかんないし……あんたも自分の無事を祈ってて」

「そうか……ならば祈ろうか……俺という神に……ふっ……クソアニメに名言を投下してしまった……」

ジョニー自分に酔った声が頭の中からしてくるが正直アホの無事は祈りたくない……上手いことどこかの空間に置き去りにされないだろうか……。

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