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バックアップ

「じゃあ、ルナーちゃん連れに行ってくるねー」

ナンヤは何気ない顔でそう言って、スッと消えた。

モチモッチスウィーン教の神に会いたいということなので、ちょっと私が呼んでみようと、座ったまま

「あのーアニーちゃんー?見てるー?」

自信なさげに呼びかけてみると、私の隣の空いた席にポンッと音がすると、以前と同じく壮麗に着飾ったアニーが恥ずかし気な顔で座っていた。

「お母さま、どういたしましたか?」

「あのね……」

私がアニーに話しかけようとすると、セイが両目を丸く開けて

「な、なんてことだ……ちょっとお前、立て」

いきなりアニーを立たせるとその横に自分も立って

「ど、どっちが高い?」

意外な質問をナナシに尋ねてきた。ナナシが顎を触りながら

「僅かにセイさんだな」

セイはホッとした顔でサッと席に戻ると

「危ない所だった。美しさがほぼ互角なら背の高さで勝つしかないからな」

小柄なジェーンが心底見下した目つきで

「皮は皮よ。美醜なんてほんの数ミリの僅かなバランスやせまーい時代のとーっても偏った美的感覚に過ぎないけどねー」

セイはニヤニヤしながら

「拘りは生きるために必要だ。生活はくだらない拘りの積み重ねだぞ?セイ様はあくまで美しさにこだわる女でありたい」

さすがセイ様の哲学……私も見習いたい……と思っているこのテーブルの反対側でジェーンはため息を吐き机に突っ伏すと、顔を伏せたまま

「アイちゃんが魅了されちゃってるから、ツッコミが不在だわ……。で、そのアニーちゃんを使ってどうしたいわけ?宗教画を描かせるにも画家が居ないけど」

セイはアニーに座るように促すと、先ほどナナシが開いた古文書内の絵を指さした。

アニーは神妙な面持ちでその絵を見つめる。

私も体を乗り出してきちんと集中して見てみる。

そこには、四角く区切られた青と緑のタイルの上にショートカットの真っ白なドレスを着た穏やかな女性が、キラキラ輝きながら舞い踊っている一瞬を描かれていた。

「ゴーナレド国の宗教的儀式の一幕だ。模写なので多少芸術性が落ちているが参照する価値はあると思うがね」

セイは目を細めて笑いながら

「セイ様には分かる。お前はそんな浅い意図で発言しない」

私は慌ててナナシの顔を見る。彼は穏やかな表情で

「試してみたのだよ。本当にスズナカが消えたのかね。この、ゴーナレド国というのは既にかけらも残ってないような古代の国で、スズナカがハーティカルの妨害により、介入に無残にも失敗した国だ。そして、この絵は介入を阻止したハーディカルの手先である英雄本人の舞いだ。その後、スズナカはテルナルド方面に狙いを絞りアイさんを生み出した。つまり……彼女のぬぐい難い汚点ということだな」

セイは頷いて

「あのサイコストーカーを全力で煽ってたんだな?文句を言いに出てくるように」

ナナシは満足そうに頷いた。

セイは美しく微笑みながら

「これで、確実に囚われていることが確定したわけだな。……ふーっ……絶対に邪魔には出てこないな。アイ、良かったな」

「そ、そうですね……」

な、なんか怖いよ!またどこかへと連れていかれそうな気がする……。

この二人の思惑に乗っていると、何が起こるかわからない気が……。

余計な発言をしないように黙っていると

アニーが恐る恐る

「あの……いったん、私帰っても……」

と言った瞬間だった。


私以外の全てが猛烈な勢いで逆回転しはじめた。

セイもナナシもアニーも、さらにワープしたナンヤでさえ戻ってきて、私の身体は勝手に依然やった通りに動いて、喋っている。

な、なんだろう……意識だけは残ってるけど

早回しで図書館を出て、逆さに宮殿内を歩いていきセイが修復してくれたエロ島が瞬く間に元のエロ島に戻っていき、山頂へと逆向きに宙を駆けていきと、次第に猛烈な勢い時がさかのぼっていくので、時折、ジョニーの顔が一瞬見えたり、これは子供のころのミッチャムと遊んでた公園だ……とかそういうことを考えているうちに、私は温かい水の中に浸かっていて

そして、次第に小さくなっていき消滅して真っ黒になった。



……



「アイちゃーん、起きてよーせっかく呼んだんだからさー」

目を開けると、隣に簡素な白い布の服を着たスズナカが座っていて、私は途端に飛び起きた。

「みっ、ミイさん!」

どうせすぐに再会するとは思っていたが、なんという登場の仕方だ。

辺りを見回すと、柔らかい木を編んで作られたテントのような半球状の建物の中だった。窓や開きっぱなしの入り口からは明かりが射している。

「もしもの時に備えて、バックアップ残しといて良かったわー。あ、ジョニー君は無理だったから、そのうち助けましょーか」

「ば、バックアップって……ここ、どこなんですか?」

「ん、ゴーナレド王国のヴァブンカって辺境の村ね。あなたは、ハーティカルが私を迎え撃つために創り出したアイ・ルネメリーという英雄の身体に乗り移ったわ」

「さ、さっき、ナナシさんが説明してましたけど、いや、さっきじゃないのか……遠い未来?」

頭が混乱してきた。スズナカはニコリと笑って

「ハーティカルを別の世界に退けたでしょ?その時に、彼女は移住先に選んだ一つを除いた全てのパラレルワールドの過去からも未来からも消えたのよ。そして、彼女が居た場所は歴史の修正者たちによって埋められた。ハーティカルという名のマネキンだらけになってるの」

「よ。よくわからないですけど……」

「わかんなくていいわ。一応、"窓"用に説明してるだけだから。そして、適当に埋めた場所は脆いのは土と一緒で、私は歴史の修正者たちの中に、自らの分身を潜り込ませてたの」

よくわからないけど、ヤバいことに巻き込まれたのは確かだよ!

「そ、そうですか……それで、今度は何を企んでるんですか?」

スズナカはニカッと笑って

「私と冒険しましょ。修正者をこの星から追い出すためにね」

「……イチからですか?」

スズナカは頷いてきた。本気なのだろうか……。


それから、私はアイ・ルネメリーという同名の別人物に成り代わり

ミイ・キマーノという名前を名乗ったスズナカとと共になんと、私たちが住む村での、魔法修行から始めた。

水汲みや、料理などの村の女がする仕事の合間を縫って、ファイアボール、アイスボムなどを習得していき、三か月過ぎるころには

中級魔法に手が届くくらい上達した。

そのころ、私たちの住む村にベアゴニーという巨竜が襲い掛かってきて私とスズナカは、それを苦心しながら撃退してって……あの……えっと。


渓谷内で罠にはまり、ライトアローレインで穴だらけになって絶命して地に伏せている緑の鱗を持つ巨竜の身体の上、そのドラゴンが吐いた炎で焦げた耐火装備を脱ぎながらスズナカに

「あの、ミイさん……これいつまで続くんですか?」

さすがに心配になってきた。割れたヘルメットを脱ぎながらスズナカは煤まみれの平気な顔で

「……まあまあ、そう焦らずにね?しかし、アイちゃんさすがだなー。戦いのプロじゃないのー」

「いや、今は能力は制限されてますけど、私も大魔道というか神だったわけですし……」

その時、私の頭の中に


私は神だにゃ。お前こそが勇者だにゃ!!国都へと上京してくるにゃ!


いきなり猫っぽい言葉が響いた。慌ててスズナカに説明すると笑いながら

「ハーティカルが啓示という形で指令を与えた場面が歴史の修正者のハーティカルもどきに入れ替わってるってわけよ。前にも話したけど、本人はこの過去にも居ないからね」

「随分雑でしたけど……」

「それも言ったでしょ?適当に時空を埋めた場所だから脆いの。とにかく、国都へと行きましょう」

一応頷く。これ還れないとかじゃないよね……。

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