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尋問

指揮官であるルナーが拘束されてすぐ、峡谷の左右の谷の上や下を流れる河のその左右の砂利だらけの岸に、武装した大量の味方兵士たちが大量に駆けて来た。

河にも兵士たちの乗った軍用船が何艘も流れてくる。縛り上げたルナーの縄の先を持っているサウスが

「さすがドースンだ。計画の狂いも踏まえて完璧な判断だな。ルナー、お前の部隊の身柄については安心しろ。あいつの指揮なら間違いない」

「……」

ルナーは表情を消して俯いてしまっている。

私たちのそばに伏せている大きなブラックドラゴンが不気味だ。私はルナーにちょっかいをかけようとするジョニーを何とか引き離すのでかなりの精神力を使って、既にヘトヘトだったりする。


その後、半時間もかからずに、敵兵とドラゴンを残らず捕獲して、穴だらけの峡谷に布陣した兵士たちを見たサウスは、私たちをその東の、先ほどまで居た元々の自軍陣地へと連れて帰った。


陣地内の指揮官用テントへと、私とジョニーはまた連れていかれ、その隅に座り、報告や書類仕事などをこなすサウスを横目に眺める。

「サウス、俺の嫁、牢屋に入れてるのか?」

そわそわしたジョニーがサウスに尋ねると、彼は書類に目を通しながら

「身体検査の最中だ。毒飲まれたり、変な防御呪文がかかってたら、色々と問題が起こるからな。勝ち戦のあとの方が大変なんだよ」

「そうか……」

珍しく、すぐに了承したアホに私は

「納得するのいつもより早くない?」

「……サウスなら俺の嫁を雑に扱わない」

「ああ、信頼したのね」

私がそう言うと、サウスはこちらをチラリと見てニカッと笑い駆け込んできた兵士と話し込み始めた。


私はようやく実感がわき始める。

……そうなんだよね、他国の精鋭軍にジョニーはあっさり勝ってしまった。分かってはいたけど、全然苦労しないでセルムの竜騎士部隊を制圧してしまった。

……今更だけど、私の両親も、もしジョニーが居たら死んでなかったのかも……。一瞬、そんな甘えた考えが過ぎって、私は頭を左右に振る。あの時、そうだったらとか、後から考えても意味がないよね。とにかく、今はミッチャムが来るまでひたすら耐えよう。


珍しく黙って、出されたお茶を啜るジョニーと並んでテントの端に座っていると紫色に光る縄で拘束された、白い布を着た黒髪ショートの女が連行されてきた。

鍛えられて絞り込まれた肉体は、私にでも布の上からでもわかる。その顔を見て私はすぐに思い出す、馬車で私たちを襲撃してきた一味の女だ。

兵士たちに椅子に座らされた女は、その近くに椅子を置き座ったサウスを睨みつける。

サウスは不敵な笑みを浮かべ

「峡谷付近の森で襲撃してきたお仲間も捕獲したぞ。で、お前は何でジョニーを狙ってるんだ?」

女はサウスを睨みつけたまま一言もしゃべらない。サウスはポケットの中から、小瓶を取り出し

「自白剤、闇魔法、いくらでも口を割らすことはできる。でも、お前も知ってるだろう?強引な魔法による自白は精神障害が残る。自分から喋った方がいいんじゃないか?」

まったく喋る気配のない女に大きくため息を吐いたサウスは

「じゃあ……闇魔法使いを呼ぶ」

立ち上がろうとすると、

「サウス、待て。俺がこいつから聞き出す」

アホがいきなり立ち上がって、女とサウスに近寄り、私も慌てて立ち上がった。

「ちょ、ちょっと……あんたに何ができるのよ」

「アイ、俺は未来の世界皇帝だぞ?この女の口くらい簡単に割らせられる」

今まで真剣な顔をしていたサウスがいきなり口を抑え笑いそうになるのをこらえながら

「アイちゃん、ジョニーに任せてみようか」

「サウスさん……絶対無理ですよ?」

彼は、ニカッと笑って"いいからいいから"という表情をしながら私とジョニーの椅子を女の近くに置いた。


今度はジョニーを睨みつける女に向き合ったアホはニヤニヤしながら

「おい、お前、家族はいるのか」

意外にまともな一言から尋問を始めた。だが女は当然喋らない。むしろ、さらに憎しみを込めた目でジョニーを睨みつける。

「ふっ、いいのか?俺に逆らうとお前と家族は死ぬまで全裸だぞ?」

やっぱりアホだったああああ!!がっくりと項垂れる私の横では、サウスが口を抑えて笑いをこらえている。完全に調子に乗った不敵な笑みを浮かべたジョニーは

「腹には"はだかまん"と刺青を入れる。そして裸族の村の中で一生過ごすんだぞ?いいのか?時々、裸族の村を普通の人たちのツアー客が訪れるんだ。お前と家族はそいつらに意味もなく裸を見られる。いいのか?そんな生活でいいのか?」

女はまったく変わらない表情でジョニーを睨みつける。ジョニーはちょっと困った顔になって

「じゃあ、あれだ。さらに一生、眉毛と髪の毛なしで腋毛と乳毛だけ物凄く伸び続ける魔法をお前にかける。いいのか?裸族の村でワキゲチチゲボーンとかいうあだ名を一生つけられるぞ?」

サウスがとうとう笑いをこらえきれなくなり、立ち上がってテントの外へと小走りで出て行った。私はもう聞きたくない。アホはやっぱりアホだった……。

当然、女はジョニーを睨みつけたままだ。

アホは本気で困った顔をして

「そうか、それも耐えられるのか……さすがだな。じゃあ、それに加えて、眼から光が出るようにするからな。夜とか眩しがられて嫌がられるぞ?おい、アイ……」

「話しかけないで」

アホのアホ尋問に加わりたくない。戻ってきたサウスがニヤニヤしながら女に向け

「おい、ジョニーは本気だぞ。そろそろ喋った方がいいんじゃないか?」

女は悔しげな顔をして目をそらした。あれ……ジョニーのアホ尋問がなんか効いてない?

私が疑問に思うのと、同時に、女がポロポロと涙をこぼし始めた。

「……ぇーん……帰りたいよぉ……こわいよぉ……」

先ほどまで対照的な弱弱しい表情に呆気に取られているとサウスがニカッと笑って

「なあ、お前、ジョニーの恐ろしさを本当はよく知ってるんだろう?なんなんだ、お前たちは?」

「我々は……」

涙顔の女が何かを喋ろうとした瞬間に「ボシュッ」という音と共に女の身体が湯気のように消え失せた。発光する縄と白い布だけがその場に残る。サウスが舌打ちをして

「ちっ、自己消滅魔法がかけられてたか。やらかしたかもしれんな」

妙に冷静なサウスの近くで、ジョニーと私が慌てていると

すぐに数名の兵士たちがテントに駆け込んできて

「司令官!黒装束の捕虜たちが服だけ残して消えました!」

サウスは大きく息を吐いて立ち上がり

「分かった。現場はそのままにしとけ、魔法監査官を行かせる」

兵士たちは敬礼して、すぐに出て行った。

「あの、サウスさん……」

「ジョニーのアンチマジックでも消えない魔法か……」

「あ、あの……今訊くのもおかしいんですけど

アンチマジックって……全ての属性や強化要素を一時的に消すっていうワープ魔法並みにとんでもない混沌魔法ですよね……?」

「ああ、そうだな。ジョニーはそれを無意識に発動させてたの見たよな?」

私が黙って頷くと

「たぶん、この陣地まで効果が及んでたはずだ。今消えた女にも効果があったと踏んでいたんだが、どうやらアンチマジックも及ばないような深い体内に自滅魔法がかけられていたようだな」

私とサウスが深刻な顔をしていると、アホが嫌そうな顔で

「おい、アニメ視聴者に向けた説明が長いぞ。推理アニメの推理パートはほとんどの視聴者は雰囲気で流すんだぞ?頭を使わないといけない難しい話はやめろ」

いつものように殆ど言っていることが意味不明な抗議に、サウスは苦笑いしながら

「すまんすまん。気にすんなよ。お前はやりたいようにしたらいいんだよ。謎の襲撃者たちの尋問は失敗したが、峡谷は取り返したしな。で、どうすんだ?首都に帰るか?それとも、俺たちの部隊と西へと進軍すんのか?」

私は今すぐにでも安全地帯に帰りたいけど一応、ジョニーの意見を聞こうと黙っていると

「俺の嫁は、どうなるんだ?」

「ああ、軽く尋問したら、すぐに首都に送るぜ。一緒に帰るか?」

「じゃあ、帰る。サウス、世界皇帝嫁を一人にはしておけないだろ」

私の方を向いてきたサウスに頷くと、彼はニカッと笑って

「よろしい。また困ったことあったら頼むな」

ホッとする。ジョニーをしばらく戦争に関わらせなくていいようだ。

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