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失敗作

ルネの改造は中々終わらずに、私は椅子を持ってきて離れたところにスズナカと並んで座った。

情報量が多すぎて、ちょっと話についていけていない感じがするので色々と思い返してみると、今更だがミッチャムが、ナンバにも行っていたという事実にちょっと驚いている。

メルローがスズナカだったらしいので、それすらも間違いなくスズナカの手の内の話なのだろうが、だとしても実際に苦労したのはミッチャムだ。

つまりホムンクルスとしてジョニーを作成できたのもミッチャムのおかげということになる。私はやりたいと言って手伝いをしたに過ぎない。

それに結局は、私一人の力では何もできなかったということなのだろう。

……なんだろうね……なんて、無力なんだろう。

そもそも、私はここまで変わってしまった状況を望んでいのだろうか。

……絶対、違うよ!

それは違うでしょ!

私はテルナルド王国で家を再興したかっただけで頭のおかしい転生者と、惑星の支配者になりたかったわけじゃないよ!

隣で上機嫌に改造を眺めているスズナカへと恨みがましい目を向けると彼女はこちらを見ずに

「……まあ、悪かったとは思ってるわ。私の願望のために、この星自体を改変したことはね」

「……それ、言ってるだけで思ってないでしょ?」

スズナカは改造されているルネを見ながら

「……うーん、できるだけ犠牲者が出ないように配慮はしたつもりだけど、一番の犠牲者はたぶん、あなたよね。それについては、十分な補償とサポートを今も続けてるつもりだけど」

「地球の保険会社みたいな言い方ですね」

スズナカは苦笑いしながら、あくまで私を見ずに

「せっかくなんだし、強大な能力と権力を楽しんでよ。ジョニー君は楽しみ過ぎているけどね……」

「あのアホは大丈夫なんでしょうか……」

かなり心配になってきた。

「……知らない方がいいと思う……」

私が慌てて立ち上がろうとすると、ガッと二の腕を掴まれて

「……まだ早いから。もう少しだけ、こっちの用事に付き合って」

「……」

黙って座りなおす。それほど嫌な予感はしないので酷いことにはならないと思うけど……。


一時間ほどすると、作業着が血まみれのジョセフが近寄ってきた。

まだベッド脇ではドワイドがルネの身体に作業を続けている。

「九割終わったわ。今は閉じとる最中じゃ。元々ドワイドが考案していた圧縮魔力炉と取り換えた。まるで、最初から決まっとったかのようにピタッと嵌ったがな。ふふふ……無限は無理じゃが、一千万くらいはどうにか魔力を吸えるじゃろ」

スズナカは座ったまま頷いて

「十分よ。私が設計した五次元吸引魔力炉はまだ未完成よね?」

「そっちは慎重にやっとるよ。別次元から魔力を引っ張るとかいう頭のおかしい設計を現実化しとるわけじゃからな」

スズナカは立ち上がると

「あとはドワイドちゃんに任せて、私たちは今後のことについて上で話をしましょうか」

ジョセフは頷いて梯子へと歩いて行った。

私もスズナカに促されて立ち上がる。


保存されていた食材で、自らスズナカは料理して、私たちに手料理をふるまってきた。

味は食べたことのない旨さだったが、まあ、この人なら色々とレシピを知ってるんだろなとしか思えないので驚きはなかった。

着替えたジョセフとテーブルについて食べていると私の隣に座ってきたスズナカが

「ルネ君を使って、ナンバを制圧しようと思うの」

やっぱり……ということを言ってきた。

思わずため息を吐くとスズナカは真顔で

「いや、そうじゃなくて、メルローの失敗作がまだ生きてるのよ。修正者にとられちゃって」

私が空いた口が塞がらなくなっていると、ジョセフが驚いた顔で

「まさか、残っとったのか!?無限魔力吸引のホムンクルスが?」

スズナカはやりにくそうな顔で頷く。

「アイちゃん用に説明するからジジイは適当に聞き流して欲しいんだけど、えっと、私が時間に縛られてないのは、知ってるよね?すごーく分かりやすく説明すると、過去も未来も現在も並列で全て並んでいて私が導きたい結果以外の場所は全体が壊れない程度にいじり放題なんだけど修正者もそんな感じらしくて、まあ……過去を修正されて失敗作が修正者に持っていかれたわ」

どうにか頭を必死に働かせて

「えっと、つまり、それを倒すために私たちをこっちに連れてきていたんですか?」

スズナカは若干恥ずかしそうに頷いて

「布教も全部そのためよ。あの失敗作がこの星に居座ると、ジョニー君とアイちゃんにとってとてつもなく邪魔になるからアニーちゃんの宗教パワーとルネ君を主戦力として、倒してくれない?」

「私が直接やった方が……」

スズナカは困った顔で

「いや、それをすると、修正者の思うつぼでねぇ……。人間のふりをした失敗作のホムンクルスが既に王族の血縁になっててつまり、今のナンバ王族はホムンクルスの子孫なんですけど……。あなたが直接手を下すと、未来がかなり不快な方へと流れて行ってアイちゃんが重度の鬱になって死ぬまで動けなくなるというトラップが……」

「もっ、もうわけわからないですね……」

黙って聞いていたジョセフがいきなり笑い出して

「天帝教皇の娘であるメイラ妃もホムンクルスの娘じゃぞ?ふふふ……面白い世になったものじゃなあ。しかし、一千万程度の魔力値で勝てるのか?相手が相手じゃが……」

スズナカは微妙な顔をして

「どうかなぁ……首都に送り込んだジョニー君とジェーンちゃん次第かも……」

そう言って黙り込んだ。


結局、ルネの調整が夜までかかるということでその小屋で過ごすことになった。

近くの山にお湯が沸き出る場所があるというのでスズナカと共に行って入って寛いだり、また夕食はスズナカに作ってもらって食べたりしていると

「ナンバ国ネゴロ地方憲兵隊だ。ジョセフ・ヤマシタお前に国都から招集令状が届いている」

という声と共に、扉が叩かれる。

ジョセフは大きく息を吐くと、扉の前に立ち

「悪いが応じるつもりはない」

「そうか。なら強制執行になる……ぐっ……うぐぐぐ」

いきなり扉の外で数人の人が倒れる音がして

扉の方へと左手を翳していたスズナカが

「ジジイ、私の手配した直送の馬車よ?久々の王都観光へと行かないの?」

「小娘の策か……ならば乗ってやっても良いが……」

ジョセフは地下を見つめた。

「ドワイドちゃんにはとっくに話しておいたわ。小屋番は彼に任せて、ルネ君と私たち三人で、王都へといきましょうよ」

私の意見はすでに聞いていないが、ここは黙って従うことにする。

王都にいるはずのジョニーの様子も気になっている。

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