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ルナー・プリンストル

真っ白な光は辺りにも広がって伝わっていき

そして、辺りの森林に隠れていた五名の黒装束たちがまるで光に照らし出されるように姿を現した。皆、一様に驚いた顔をして、真っ白に発光するジョニーを見つめている。サウスが刀を構えてさらに腰を落としながら

「くくく……アンチマジックかよ……生きてる間に見れるとはな」

「えっ……サウスさん、それって」

どこかで聞いたことある言葉に私が馬鹿みたいに裏返った声で尋ねようとする前に、サウスは鞘に入ったままの刀を一閃させて黒装束のうち一人を吹き飛ばすと、さらに他の三人をほぼ見えないような動きで瞬時に気絶させた。そして逃げようとする1名の後頭部を鞘の先端部分で小突いてから、首筋を片手で叩いて、意識を落とした。

「姿が見えてりゃ楽勝だな。俺と、うちの部隊が、兄貴の無茶な"殺すな、自分たちも死ぬな"縛りでどんだけセルムの精鋭たちと戦ってきたと思ってんだよ!」

空に向かって、吠えているサウスを見つめて私は固まっている。この人、とんでもない物理アタッカーだったんだ……。

知らなかった、シルマティック公国にこんな達人が居たなんて……。サウスは真っ白に発光している辺りとニヤーッと笑ったまま、発光をさらに強めたジョニーを見つめ、そして光が広がっていっているように見える辺りの森を見回すと

「アイちゃん、こいつオートで広範囲にバフ消しとデバフかけてるぞ。つまり敵軍の魔法障壁もいまごろ消え失せてるはずなんだが……

長射程の中級魔法くらいにしないと最上級魔法で峡谷ごと赤鎧たちが消えるけどいいのか?」

私に、真顔で尋ねて来た。私は慌てて、光り輝いているジョニーの肩を強く叩いて

「まっ、待って!シンフォニックドラゴンバスターは撃っちゃダメ!威力は弱いけど、凄くかっこいい中級魔法があるの!ライトアローレインって言って、ライトアローが光の雨のように降り注ぐやつ!」

ジョニーの顔がピクッと動いて

「それは、しつこいぶつ切れのシーエムにじらされすぎて手元のスマホの動画に興味が移りつつあるアニメ視聴者もテレビのチャンネルを変えないくらいかっこいいのか?」

ボソッと意味不明なことを言ってきたので

「う、うん……かっこいいことは確かよ!あっち側に両手を掲げて、光の矢よ、邪な者たちに降り注げって言うの!」

必死に私が叫ぶと、ジョニーはさらに気持ち悪い薄ら笑いをニヤーッと浮かべ両手を峡谷の方へと掲げ

「光の矢よ……サウスの敵たちに降り注げ……」

と小さく呟いた。


次の瞬間、空中を覆うような大量の光の矢が峡谷の方角へ向け、耳をつんざく様な落下音と共に降り注ぎ始めた。

まるで真っ青な空から落ちてくる光の雨のようだ。私は固まってしまっている、あんな量のライトアローレイン見たことない。

学校に行っていたときに、魔法ができる子が授業で自慢げに降らした魔法の矢はあんなに……雨みたいには……。鞘に入った刀を腰に戻したサウスは爆笑しながら

「アンチマジックのバフ消しと、デバフの影響だな!ここらの樹木や、恐らくは峡谷に宿ってる属性も一時的に消えてるな、あの感じだと」

「……あの、サウスさん、えっと、反属性が、つまり闇が完全に消えたから……あんなに威力が出てると……」

まだ光の矢は容赦なく峡谷方面へと降り注ぎ続けている。

「ああ、そういうことだろうな。達人デバッファーが居てもあんなにはならねぇ」

次第に発光が止んでいっているジョニーは自分の起こした光景を見上げて

「ん……いまいちだな。サウス、峡谷に行こう。ここじゃ敵軍をどれだけ攻撃したのか分からん。これじゃ、視聴者にアニメ側が状況描写をサボったと思われる」

サウスは、ジョニーの一部意味不明な言葉に頷いて

「じゃ、行くか。まだ森が光ってるうちがいい。これなら暗殺者たちがまだ居ても、ジョニーを狙えない」

「ひゃぁっ」

私をいきなり抱え上げてきて、変な声がでる。ジョニーが不満げな顔で

「おい、サウス、アイをお姫様抱っこするな。その役目は結婚式の時の俺のものだ」

「ジョニーそんなことより、お前の言う通り、急いで峡谷近くまで行かないとな。ここじゃ、遮蔽物が多すぎる」

サウスは気にせずに私を抱えたまま走り出した。ジョニーも不満げな顔でついてくる。


サウスの異常な健脚で5分もかからずに広い森林から出ると、そそり立った左右の崖が

恐らく光の矢で穴だらけになった広大な深い峡谷が見えてくる。

見えている辺りだけでも、翼に穴が開いた体長5メートルほどの灰色の小型ドラゴンたちが気絶して何匹も落ちていて、近くには真紅の鎧を着た女性や男性兵士が呻きながら倒れていた。サウスは私を降ろすと、手近なところで倒れていた。屈強そうな体の男性兵士へと近づいて

「……がはははは!指一本無くなってねぇ!

 落下で脊椎やられたみたいだが、この程度ならヒーラーに診せればどうにかなるな」

私は心底ホッとする。

「死んでないんですね……」

「ああ、たぶんジョニーなりに無意識で手加減したんだろうな!おっ、英雄様のご到着だ!」

息を切らしながらジョニーが走ってきた。全身の光は消えている。

「くっ、おいサウス、主人公をカメラから外したらダメだろ。おお、たくさん死んでるな。俺の魔法にやられたのか」

満足げに辺りに落ちているドラゴンや赤鎧たちを見回しながら、いきなり不謹慎なことを言ってきたアホに

「死んでないって!たぶん、一人も殺してないよ!」

「そうか。まぁ、世界皇帝になる俺の哀れな踏み台になるモブたちだからな。すごい奴である俺から、せめてもの慈悲をくれてやるか」

「……腹パンしたいけど、誰も殺してないから許す」

サウスは倒れている小型ドラゴンたちと赤鎧たちを慎重に一体ずつ見ながら、峡谷の崖へと近づいていく。私たちもそれに続く。


少し進むと、左右に伸びている崖の端まで私たちは来て深い峡谷の下を流れるなだらかな河を見下ろした。谷の上や崖下の河原に気絶したドラゴンや赤鎧の兵士たちが落ちている。落下の衝撃で重傷を負ってないか、少し心配になった。サウスは状況を目を細め、注意深く観察しながら

「あの河が西部地帯への重要な運送ルートだったんだよ。だから、この峡谷を抑えられて我が国は困ってたわけだな」

「そうだったんですね」

その言葉に頷きながら近くで倒れている敵兵に右手を翳そうとしているアホを止める。

「ジョニー、弱ってる兵士に何か魔法撃とうとしたでしょ……」

「ああ、あの赤い鎧は俺の魔法に耐えられるのかなって思ってな」

私も見てみる。確かに鎧の大きな損傷はなさそうだ。サウスが顎を触りながら

「軍事国家セルムの精鋭部隊だからな。対呪文仕様の高級な鎧だ。塗りなおして、うちの部隊に着せるかなぁ……」

三人で見回していると、左側の空の向こうから何か小さな点がこちらへと向かってきているのに気づく。サウスがすぐに舌打ちすると

「生き残ってやがったようだ。……くそっ、指揮官のルナーだな」


「えっ……やられてない人が……」

私がそう言っている間に、空中に体長十メートル弱のブラックドラゴンが現れ、その背中から、左右に巻かれたピンクの髪の小柄な少女が顔を出した。

身体には真紅の鎧を着こんでいるが、明らかに他兵士たちよりサイズが小さい。そして緑色の大きな両目を見開いて憎々しげに、サウスを見下ろすと

「やってくれたなぁ!このセルム国レッドアーマー特殊隊隊長ルナー・プリンストルが貴様らを成敗する!」

少女特有のかわいらしい甲高い声でこちらへと叫んできた。あまりのギャップのある光景に私がサウスに何か尋ねようとする前によだれを垂らしそうなジョニーが

「お、おい……あれは、アニメで言うなら敵から始まって、のちに人気キャラポジションに収まる美少女キャラだろ……。そ、そうか……ハーレムものだったのか……メインヒロインはむしろ後から出てくるパターンか……」

意味不明なことを呟きながら、フラフラと前へと出て

「おい、ルナー!俺の嫁になれ!」

ビシッと上へと指をさした。私どころかサウスすらも唖然としている。

「なっ、なんだと!貴様ふざけてるのか!?」

翼をはばたかせて恐ろし気にホバリングするブラックドラゴンの背中から明らかに動揺した声がしてくる。

「ふざけてない!世界皇帝になる俺の嫁なら、お前は世界皇帝嫁だ!つまり、すごい権力をもって偉そうにできる!」

アホの確信に満ちたアホな説得に、ルナーは一瞬戸惑った後に

「くっ……サウス、なんだこいつは!?」

混乱した顔でこちらに尋ねてきた。我に返ったサウスが真剣な顔で

「降伏しろルナー。陸上なら物理アタッカーの俺に体格の劣るお前は絶対に勝てない。空にいれば、このジョニーが強力な魔法で即座に撃ち落とす。あの異様な威力のライトアローレインを見ただろう?信じられないだろうが、こいつの中級魔法だよ。それにな、秘密兵器のジョニーを見られちまったからには逃すわけにはいかない」

そう諭すと

「くっ……なんてことだ……無敗の我が部隊が……」

少女は苦悩した顔でしばらく黙ると

「サウス、我が部隊の全兵士と全ドラゴンたちの無事を約束するのならば、このルナー・プリンストル、貴様らの軍門に降ってもいい……」

「降りてこい。お前のダークウインドの無事も約束しよう。だから大人しくさせておいてくれ」

すぐにブラックドラゴンは崖の端へと降りてきて、ゆっくりと伏せた。その黒い鱗に覆われた背中から、スルスルと小柄なルナーが降りてくる。身長は百五十センチなさそうだ……年は幾つなんだろう……私より若そうだな……。

サウスに丁寧に縛られているルナーを少し離れてみていると、キッと睨まれ

「そんなに敗軍の将が珍しいか」

悔し気な口調でそう言われて、私は即座に目を伏せる。その横をすり抜けたジョニーが縛られたルナーに近寄ると

「おい、俺の嫁。お前は処女なのか?」

いきなり空気を読めないアホ質問をぶつけてしまう。私が慌てていると、ルナーがキッとジョニーを睨み上げて

「当たり前だ!プリンストル家の女は選んだ竜と一生添い遂げるのだ!男などに、うつつを抜かしている暇はない!」

ジョニーはめちゃくちゃ嬉しそうな顔を私とサウスに向けると、なんと踊り始めた。その変な手足の使い方の見たことない踊りに、一瞬ルナーは怯えた顔をして

「お、おい……サウス、この男、私に呪いをかけようと……」

サウスは唖然とした後に爆笑し始める。

「がはははは!おいおい、こいつは闇魔法使いじゃねぇよ!むしろ逆だ!光魔法の使い手だ、安心しろ!」

「な、ならいいんだが……」

困惑したルナーの顔を見て、また何かを感じたらしいジョニーが

「サウス!俺の嫁だ!嫁が見つかった!」

踊りをやめてサウスのがっちりした背中にいきなり抱き着いてきた。

「そうか、ジョニー良かったな」

サウスは笑いながら、私に一瞬視線を向けてきて、その意味が分かったので

「いや、私、別にこいつの女じゃありませんし……」

そう答えると、また彼は爆笑していた。

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