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お風呂での雑談

ジェーンが創った宮殿の食堂と遜色ないフルコースに二人で舌鼓を打っていると、ジョニーが匂いにつられたのか起きてきて

「……いいな、それ……」

と言いながら、テーブルへとフラフラ近寄って私とスズナカの差し出した皿に乗っている料理を食べ始めた。

東方のホムンクルス大国であるナンバへと行くと告げるとジョニーは顔を顰めてつまらなそうに

「ああ、どうせ国の中枢が人造生物たちに乗っ取られてるとか人造生物を無茶苦茶酷使してるとか、人造生物と人間が対立してるとかそういうアニメとか漫画でありがちな展開なんだろ?」

スズナカはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべ

「違うわ」

ジョニーは興味なさそうに、肉をフォークで突いて口に運んで咀嚼した後に

「じゃあ展開的にはつまらんのじゃないか?常に王道を外せばいいと思ってるからな、このクソアニメは」

スズナカは苦笑いして

「つまんなくてもいいじゃない。あなたたちがそれを見てどうするかが、もっとも重要なんだからね」

私が疑問に思ったことを尋ねようと

「あの、この星の裏側の大陸って、やっぱり魔法が使えるんですよね?」

スズナカは頷いて

「そうよ。それに、こっちの大陸の人間にとってはあなたたちが裏側よね。お互いあまり交流がないからね」

「それが不思議ですよね……」

スズナカはニヤリと笑って地図を手元に出現させると皿を左右に退けて広げた。


「ここが、さっきまで居た共和国。これが今ゆっくり向かっているナンバ。その西側にも無数の国々があるわ」

「ああ……朧気には知ってたんですけど……」

そこには縦長や横長に曲がりくねって幾重にも大河に分断された大陸というより、巨大な島々が記されていた。ナンバはその最東端に存在している。

さっきまで私たちが居た国は少し東側に遠のいた位置にある島国だった。

「元々大陸だったのが、混沌粒子の都合とか地形変動で大河で分断されたのがこっちの大陸の全貌よ。なので、あなたたちが言う裏側の大陸の人たちは、生まれ持った島国根性で基本的には他の国々に干渉しないという性質を持っているの」

「私たちの大陸みたいに地続きじゃないから、領土に興味がないんですね……」

「そういうこと、大河が勝手に国境線引いてくれてるからね。それに、その大河にも……」

いきなりドーンッ!と何かに衝突したような揺れが食堂に起こって、そこら中に料理が飛び散りだした。

ジョニーがダルそうな顔で、右手の指差しをクルッと回すと、飛び散った料理は空中で停止する。

ジョニーは立ち上がると、空中で停止したサラダを直接口に入れて咀嚼した後に

「何かに当たったな。巨大生物が居るってことか?」

スズナカは頷いて

「ナンバへと自動航行させてたからね。そろそろ東部の領海に近づいているの」

今度はビリビリと船内の壁が揺れるような振動と共に

「不審船!!我は海皇ネグァールの戦士マルグナスである!!これは警告だ!ただちに責任者の顔を見せよ!できねば沈没させる」

ジョニーは急に目を輝かせて

「海に棲む巨大生物か!!確かにそれはありだな!」

スズナカは頷いて

「大河と近海には、水生生物たちがウヨウヨと生息していてそれもこっちの大陸の人たちが、海を目指せない要因になってるのよ」

「とりあえず、顔だけでも出しません?」

ジェーンも含めて三人が頷いて同意したので

私たちは、黒船上部のハッチから外へと出てみることにする。


出てみて、一瞬、驚愕した。

黒船の巨大な船体の前方に、負けないほどの大きさの、透明なクラゲの頭に巨大な一つ目と大口をつけたような謎の生物が夕日に照らされながらこちらを見つめていた。

「あれ、夜になると光ってきれいなのよー」

スズナカは呑気に指差してはしゃいでいる。

ジョニーが不敵な笑みを浮かべながらさっそく戦いに行こうとするのを私とジェーンが体を抑えて止めて、私がアホを抑えつつ

「ナンバへの観光目的の魔法船です!私はアイ・ネルファゲルト!こっちは天帝教皇ジョニーです!」

できるだけ大声で言うと、巨大クラゲもどき生き物は

「……ふむ。侵略目的ではないのだな?」

大口を開け、海面が震えるような音量で答えてくる。

何か言おうとしたジョニーの口をジェーンが強く塞いでいる横で

「世界を見に来ただけです!通してもらえませんか!?」

あくまで下手に出て頼んでみると

「……良いだろう……だが、くれぐれも勘違いするな。海は海皇様の所領だからな」

そう言った巨大クラゲ生物は、ゆっくりと海中へと沈んでいった。

口を抑えて必死に笑い顔を堪えているスズナカがハッチを開け船内へと飛び込んだので、私もジョニーの手を引いてジェーンと続くと

スズナカが手を翳して念力でハッチを閉めた後に

「……あっ、あっはっはっは!!実力差は蟻と人どころじゃないのによくアイちゃん下手に出られたわ!あっはははは!」

思いっきり爆笑し始めた。

「い、いや、だって、罪のない巨大生物ですよ?」

ジョニーが不満げに

「あいつを第一信徒にしたら、絶対に面白かったぞ?なんで地味展開をあえて選んでしまうんだ?」

「……モンスターでしょ?信徒にしても仕方ないと思うけど……」

「この辺りは、ハーティカルが結構頑張って混沌消費を多くしてるのよねー。だからあんなふざけた生き物が多いわけよ。でも、全体からしたらぜーんぜん足りないけど」

ジェーンがだるそうに

「食事の続きしましょ。あいつが海中に伝えて回るからしばらくは平和でしょ」

と言ってくる。


その後、空中で停止している食事を皿に集めて料理によってはジェーンが炒めなおしたりして、全て四人で完食した。

ジョニーが呆れた顔で、口の周りを拭いているスズナカを見て

「よく食べるよな」

「そりゃ、私だって人間に混ざりたい時もありますけどー?」

ジョニーは答えずに立ち上がると

「寝る。適当な船室探す」

フラフラと食堂から出て行った。

スズナカはいつの間にかバスローブ姿になっていて

「さー全自動ろ過湯沸かし機能付きのお風呂に入りましょー」

私とジェーンに言ってきた。


魔法船内に創られた木造の大きな浴槽を持つ風呂場へと三人で入りに行き、脱衣場で服を脱ぎ、風呂場へと入って体を洗っていると、ジェーンがチラチラと泡だらけの私とスズナカの身体を見てきたので

「どうかした?」

尋ねてみると、彼女は瞳を細めて

「……やっぱり魔力がない、二人とも。変なの、何でか教えてよ」

変なのと呼ばれたスズナカは、何ともない顔で腋のあたりを洗いながら

「体なんて幻みたいなもんだからよ。アイちゃんも本体は混沌粒子に混ざり込んでるからねー」

ジェーンが納得している横で、私が慌てて

「そっ、そうなんですか!?」

スズナカは意外そうな顔で洗うのを止めて

「あれ?説明してなかったっけ?あなたとジョニー君はとっくに惑星と同化してるけど……」

「いや、てっきり、この体が本体かと……」

私は泡だらけの体の色んな所をつねってみる。感覚がある。

ジョニーと出会う前とまったく同じだ。

スズナカはザバッと風呂のお湯を被ると、軽く頭を振って水を飛ばし

「ほら、テルナルドのころから、魔力がゼロだったでしょ?たぶん、あの時、お爺さんのジョニー君が何か言わなかった?」

「いや、覚えてないですけど……」

私がそう言いながら、泡を流すとスズナカは笑いながら

「あの時から、お爺さんのジョニー君を触媒にあなたとジョニー君の混沌粒子の同化を進めてたのよ。私がね」

「えっ……あのタイミングからですか?」

さすがに驚いた。そんなことは今まで微塵も気づかなかった。

スズナカは得意げな顔で、浴槽へと入ると体を沈めて

「ついでにハーティカルを混乱させたくてね。おじいさんのジョニー君を数百年前に配置したらめちゃくちゃ時空が乱れるでしょ?ま、彼も楽しんでたみたいだし」

「楽しんでいるようには見えなかったですけど……」

スズナカの隣に私が浸かって体を沈めると、彼女はニカッと笑い

「長い男やもめ生活で、すっかりドエム気質になっちゃってたからね。それに、アイちゃんそっくりのマモノまで作ってお世話させてたし死なないから生活に困りはしないし、居ながらにして世界の様子は知れたみたいだから、楽しかったみたいよ?」

萌えキャラみたいに耳と尻尾の生えた裸の私のマモノを思い出してしまい、かなりやる気が落ちる。

ジェーンが私たちから少し距離を置いてお湯に浸かってきた。

「……というか、あのおじいちゃん、元の世界に戻ったと思うんですけど、その後どうなったんですか……」

スズナカは少し湯気でぬれた天井を見上げた後に

「聞きたいの?」

ちょっと戸惑った後、聞くことにする。彼女は真面目な顔で

「齢七十越えにして、婚活パーティーに通いだしたのよ。農業で稼いだ莫大な遺産を餌に若い女子にもてまくっててねー」

「いいじゃないですか……何かムカつくけど……」

スズナカは苦笑いして

「でも、アニメの知識がみんな浅くって、ジョニー君が振りまくって、最終的には、地元の農協で働いてたアニメマニアの五十八歳の初婚の女性を見染め、簡素な結婚式を挙げ、そして赤ん坊の養子を施設から貰って育て始めたの」

「えっ……子供ですか?あの歳で?」

スズナカはニヤーッと笑って頷いた。

「ちょっとズルなんだけど、私が寿命を教えてあげたら俄然やる気になっちゃってねー」

「ジョニーはいくつまで生きるんです?」

スズナカはニヤニヤ笑いながらしばらく引っ張って

「二百七十二歳よ」

「……やっぱり人外の化け物だったんですね……」

そりゃ、人間社会に適応できないわけだと私が理解しようとしているとスズナカは笑いながら首を横に振り

「違うの。人間ってテロメアっていう細胞内構造が次第に短くなっていって、それが擦り切れちゃうと、死んじゃうんだけど極まれにテロメアが擦り切れない人間が生まれるの。数十億人に一体という奇跡的な割合だけどね」

「えっ……不死者ってことですか?」

スズナカはニコリと笑って頷くと

「そのうちの二名が、老いたジョニー君が居る辺りの地球の時代で名乗り出て、寿命についての研究が飛躍的に進んだのよ。それで、お金持ちの彼にね?私が被検体になれって勧めたの」

「ああ……大雑把に言うと身体改造したんですね」

スズナカは頷いて

「そして見事適合者になったジョニー君は、長寿を手に入れたのよ。ま、そのあとのことは、まあ……ふふふ、私の計画にも関係するのであまり詳しくは話せないんですけどね」

「……ろくでもないことやらないでくださいよ?」

心配にしかならない。きっと彼の想い人を見つけるためなのだろうが別の場所でもいろんな人に迷惑をかけていると思うよ!

黙って聞いていたジェーンが

「……変なやつ、あんた、ほんと余計なことしかしてないわ……」

スズナカは余裕の顔で

「ふふふ、ハーティカル排除しないとあなたとナナシ君は転生できなかったわけだし、むしろ、感謝してほしいくらいですけどねー」

ジェーンは大きく息を吐いて

「生き返ったのはいいけど化け物の宴に付き合わされる私の身にもなってみなさいよ……」

小さく呟いていた。

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