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レベル2

眼を開けた。何か目の前に空が広がっている気がする。

そして私は下を向いて気絶しそうになった。

まるでミニチュアのような街が東西南北に延々と広がっていた。

私が立っている場所は、まるで巨大な魔法弾で焼かれたように

何もない黒焦げの平坦な土地だ。

混乱している頭の中でジョニーのいつものアホ声が

「よし、行くぞアイロボ。愚かな国を踏みつぶして蹂躙しろ」

ジェーンの声で

「目からビームとか出せないの?」

「いや、尻から炎は出る。安心しろ、アイはスカートだから下着が焼けるだけだ」

アホのアホコメントを聞きながら何が起こっているのか必死に考える。

たしか、閃光が走って……その前にジョニーが魔法を吸収する巨大ロボを創るとか。

ああ……アホはよりにもよって私を巨大化させたのか……。大きく息を吐き

「……とりあえず、元に戻ります……」

「ちょ、ちょっと待て!ここからだぞ!?巨大化したアイが、下からパンツを見られながら人々を踏みつぶすんだぞ!?そして、人々はモチモッチモスゥーイン教の恐ろしさにひれ伏すんだぞ!?」

「そもそもあんた、どこにいるのよ……」

「アイの脳みそ内の操作室だ。アイを動かすことはできないが手前にあるボタンで、アイの尻から炎を出すことはできる。天罰の炎だ。人々は尻から噴射される獄炎で焼かれる」

「アイちゃーん、押していいのー?色々と凄いことになるけどー?」

「……」

なんか脅迫されているらしい。

どうしたらこの二人を私から追い出して、そして元に戻れるか考えていると、私の目の前に、紫色に鈍く発光する巨大な魔法船が飛んできて、その甲板に立った上半身裸で自分を縛った筋骨隆々とした老人が

「数々の御無礼お許しくだされーい!!ギーネ共和国首相のゴルギン首相と申します!!私のことは、どうでもいいのです!しかし国民に罪はありません!」

甲板に額を打ち付けて謝罪してきた。

つまらなさそうなジョニーの声で

「とりあえず、尻から炎を発射しとくか?今なら焼けるのはパンツだけだしな」

いきなり私のお尻のあたりが温かくなり、慌てて足元を見ると、紫色の炎がいつの間にか靴が焼けて裸足になった足元に広がっていた。

甲板の上の老人は泣きそうな顔になりながら

「た、たのみますー!!国民だけはー!お助けをー!」

悲痛な叫び声をあげてきた。私は頭の中が真っ白になりつつある。

怖くて触れないがお尻のあたりがスースーしているので本当に下着が焼けたらしい。つまり尻から炎を出した挙句、下から丸見え……。

いや、考えたら死にたくなるので止めよう。

「あの、ゴルギンさん、ちょっと……。あとでまた普通のサイズになって戻ってきますからね」

話しかけると口から出た風圧で魔法船が揺れる。私は次の瞬間には、飛行魔法と移動魔法を自分にかけて魔法船を飛び越え、高速で空を駆け始めていた。

「うっ、逃げたぞ。こうなったらボタン連射だ!」

うろたえたアホの声がして私の尻からはとめどなく炎が噴き出され始めた。


体が巨大なのであっという間に広大な草原を眼下に発見した。人けが一切ないのを確認しつつその上空で停止する。

相変わらず私の尻からは紫色の炎が噴射され続けている。

ここならば、落ち着いて解決策を考えられるはずだ。たしか、脳内に二人は操縦席を創ったとか言っていたので、まずは右手を頭に当てて、操縦室にいる二人を外に出したいと念じる。

目の前に小さなジョニーとジェーンが出現したので二人の周囲に昔本で読んだ天才大魔道を捕えるために実際に使われた、虹色の檻の形になっている立体魔方陣を思い浮かべ、即座に厳重に拘束しつつ両目を閉じ体の状態が元に戻るように念じた。

一秒かからず私の身体は元の人間サイズに戻り、私は手を翳し立体魔方陣を草原へとゆっくり降ろしていく。

二人は立体魔方陣の中で、涎を垂らして白目を向きながらブツブツと何かをつぶやき続けている。この檻状の魔方陣は、拘束者の精神も一緒に捕える効果があるのだ。

ジョニーも想定していなかったらしく、見事に拘束されている。


草原へと着地して、魔方陣の檻の中で白目を剝いている二人を眺める。

正直、ここまで恥をかかされるとは思わなかった。尻から紫色の炎を噴出したところは、きっと何百人もの人に見られているだろう。

そしてスカート以外、殆ど下は何も履いていない状態だったので……。

いや、止めよう……考えたらあの国を改変したくなる。

あ、そうか……私の下半身を見た記憶だけ消せばいいのか……。

思いついてやろうと思うと、いつの間にか横に立っていた水兵服姿のスズナカが

「やめた方がいいわ。アイちゃんの炎の記憶と共に恐ろしさが焼き付いているから、その記憶を消すと、脅迫の効果が半減する」

「……あの、脅迫しに来たわけじゃなくて、布教を……。大体、あんな恥ずかしい思いをするくらいなら、もう帰りたいんですけど」

「まあ、他の方法もあるにはあるけど……聞く?」

私が頷くと、スズナカは仕方なさそうに

「まずアイちゃんの記憶を国民から消して、ジョニー君を巨大化してアイちゃんが操って、尻から炎を噴出させるのよ」

「ああ……同じことするってわけですね……」

つまり、このアホたちと同レベルに堕ちるってことだ。スズナカは真面目な顔で

「でもジョニー君はパンツとマントしか纏っていないからパンツが焼けると、つまり全裸になるわ。あの都市中の人が、ジョニー君の全裸を見るわけだけど、それに耐えられる?」

スズナカは真面目な顔をして問いかけてくる。

「いや、別にそれはどうでもいいというか……ジョニーもいいのでは?」

その檻の中で白目を剥いて、涎を垂らしているアホはむしろ喜びそうだ。

スズナカは苦笑いして

「それに手間よ。巨人のジョニー君が暴走したら人死にも出るし」

「あのミイさん、途中からこの国の国民の記憶消して、やり直しません?」

「ああ、ジョニー君が、門で金塊を撒くところからね。それなら、もっといい方法があるわよ」

私はさすがに言いたいことが分かった。

「……改変して最初から、モチモッチモスゥーイン教の教徒にするんですね?」

スズナカはニヤリと笑って

「書き換えやすいでしょ?この国の教徒の大半はテルナルド教だしテルナルド教以外は認められていないんだから。だからここはレベル2なのよ。あなたたちが気づけば三秒で終わる話よ」

「あっ、そういう……」

つまり、テルナルド教徒を丸々モチモッチモスゥーイン教の教徒に変えれば、すぐに終わるという話だったようだ。

結局、スズナカの掌の上だったらしい。

逮捕されたり巨人化したり、尻から炎を噴射したりしたけど、全部無駄だったよ!

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