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アイ・ネルファゲルト

私はアイ・ネルファゲルト、両親は私のアイという名前を果てしない愛とか、よく物事を見極める眼という意味で付けたそうだ。今考えると、そこはかとなく意識高いと思う。


黒髪黒目は金髪碧眼の多いこの国で私の誇りだ。両親は金髪碧眼だったので、高名な魔術師だった祖父からの隔世遺伝だと子供のころから教えられて育った。ちなみにその祖父は私が物心つく頃には他界していて、会った記憶は無い。


そんな私だが、三年前にその両親は戦争で死んだ。私が、十五の時だ。

我が王国が誇る生粋のアタッカーだった父と、生粋のバファー……つまり補助魔法をかけてアタッカーの攻撃魔法の威力を高める役割だった母は二人一組で行動していて、そして二人一組で最強巨竜の大口から放たれた渾身の炎を避けきれず焼かれて灰になった。


その後、大敗したうちのテルナルド王国は、

戦争相手のセルム竜騎国に多額の戦後賠償を負わされて領土こそ、極一部以外失わなかったが、窮した王様は地位や官位を金で売り出すわ、国民は重税で苦しむわで、とんでもない貧乏底辺国家へと一気に転落した。


私も偉大なるネルファゲルト家の一人娘で、父ファルコスと母マリナの娘と言う皆が羨む地位から一気に転落して、当時通っていた中等教育では、魔法偏差値国内最高のボースウェル魔法学園内でのカーストも最上位から、最下位まで一気に転落して「戦犯の娘」として難癖付けられ、ほぼ全校生徒からいじめられまくったので耐えきれなくなって中退してやった。


それから二年の間、学園を中退した私は、目立つ名前は隠し偽名を使って色んなことをやってみた。借金取りの用心棒とか、採石場の魔法による石切とか酒場のダンサーのスカートを魔法で風を起こしてタイミングよく、軽くめくる簡単なお仕事とか

あとはなんだ……とにかく色々とやったが

どれも長く続かずに結局、もう執事のミッチャム以外の使用人は全員逃げたこのネルファゲルト家の屋敷の奥に一年ほど引きこもることになった。幸いにも、あと数年は食いつなげるだけの資産は両親が残してくれている。


世間が如何に、無名の中等教育中退者に冷たく、そして、私が如何に両親から守られていたか、痛感したころには、もう遅かったのだ……。

女としての武器を使ってみたいと思ったことも何度かあった。自分で言うのも何だが、私は悪くはない姿かたちをしているので、男たちから下卑た誘いも幾度もされた。

しかし……クラスカースト最上位のころから

私は、耳年増で……そういうのの実体験は限りなく薄い。そうなのだ。仕事も手に憑かず

結局、色々と中途半端な子供のまま十八になってしまった。

十八と言えば、学園で私をいじめまくった同級生たちは魔法大学に進むか、就職するか

考えている時期である。

それにこのままだと、そのうちお金も無くなり、この両親との思い出がたくさん詰まった屋敷も家具も売らなくてはならなくなる。

切羽詰まった私は、ある日、ミッチャムにこう切り出した。


「ジイ、私、地下のお父様たちが使っていた設備でホムンクルスを造りたい」


ミッチャムは綺麗に白い口髭を切りそろえてある端正な顔で微笑んで、

「お嬢様が、やりたいというならジイは何でも賛成ですよ」

いつものように私のやりたいことに賛同してくれた。もし、この長身、美老年のジイまでも屋敷から逃げてしまったら

私はきっと今頃、幻覚が見える魔法薬漬けの

廃人になっていただろう。


それから私とミッチャムの魔法用具を変装して、街から買ってくるという日々が始まった。ネルファゲルト家の屋敷は、このバーマスの街の高級住宅街に囲まれた最も小高い丘の上に建っているのですぐに私や、ミッチャムが、何をしているのか近所の噂の的になってしまう。

なので、二人して夜中に外出して街まで行き

そして街の路地裏の怪しい魔法具屋で騙されないように注意しながら中古の魔法具を少しずつ買い込んではためて行ったのだ。


二週間ほど、苦心しながらそれを続けると

地下の設備もそれなりのものになり、私とミッチャムは、ホムンクルス……つまり人工生命を造る実験を始めた。なぜ、私がそれをしたいと思ったかと説明すると遥か東方にある、ナンバという国がホムンクルスの生成に成功してペットや、労働役としてたくさん生産して国が富み栄えているという噂を、両親が生きていたころに何度か聞かされた覚えがあるからだ。つまり!私がホムンクルスの生成に成功すれば!私をいじめていたクソどもや、私の両親を敗戦の戦犯として貶めていた国民や、そしてただの中等教育中退者の

私も含めて、全てが幸せになる可能性があるのだ!

ふふふふふふ……テルナルド王国は完全復興してネルファゲルト家は再び名門として蘇り、逃げて行った使用人たちも舞い戻り、私は、この惨めな数年間を覆して、そして!歴史上の偉人として、両親共々この国の歴史の教科書に載るのだ!

微笑みながら、薄暗い地下設備の器具を点検しているとミッチャムが近寄ってきて

「このように楽しそうな、お嬢様を見たのはジイは久しぶりで、とても嬉しいですよ」

微笑みかけてくれる。私は一瞬、泣きそうになるがまだ実験すらしていない。まだだ。涙は成功してからにしよう。

一冊の分厚い本を私は本棚から引き抜いた。

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