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3,大帝の譜

 荒れ果てた大地から碧玉の光が大空へと昇っていく。

 まるで大地の力を絞りつくすように、天へと高く、遠く――。

 見上げる蒼い空にはぼっかりと白い点、そこから落ちてくるのはミルク色した大きな卵。

 白刃のごとき砂礫の世界では、その白さは残酷にしか映らない。なのに。

 まあるくて、ふわふわして、手にとるとほっこり温かい。

 手を伸ばして両の腕で抱え込んだ。

(わたしをあたためるのはダアレ? わたしをつつくのはダアレ?)

 卵がそっと語りかけてくる。

 急に愛おしくなってもっときつく抱き締めると、パリンッと殻が弾けた。

 欠片を一つ一つ振りほどいて、白銀の羽が顔を覗かせる。突き出てくる嘴も鋼のよう鈍く白い。絹糸のような長い尾が身体を包みこむ。

(わたしはマナカイル。あなたはダアレ? あなたはマナにあいされてるの?)

 白く瞬く鳥が羽ばたくように笑った。身体の芯が、お湯に浸るように温かくなった。

(わたしがあなたを守ってあげる。マナにあいされてるあなたを)

 マナカイルが白銀の翼を広げると、碧玉の光は空を舞うことを止めた。

 そうして、大地に力が戻る。

(でもね、やくそくして。マナにあいされてるあなた、――アレを、こわして)

 これはあなたが生まれる前――いいえ、あなたのおじいさんが生まれるよりも、もっとずっと前の物語。人とマナカイル、これは始まりの物語。




「どうどう?次はこの本にしようと思ってるの」

「ええー、神話ぁ?あたしだったらこれがいいと思うー」

「やだあーソレまだ早すぎぃー」

 年頃の女の子特有の高い笑い声に気づいて、クラウは部屋の中を見た。迎賓用の邸にある使用人の休憩室で、数人のメイドたちが円卓の上に並べた本を取り囲んで愉しそうに談笑している。

「なんだよ、この忙しい時に。休憩時間なのはわかるけどっうわっ、ぷふぅっ」

 慌ててクラウは息を吸い込んだ。洗濯するカーテンを抱えて、危うく窒息死するところだった。それも鍛錬になるからとティアに山積みにされて、ほとんど前が見えていない。

「ああ、玉の輿狙い隊かあ。それもあれは過激派と見た」

 大丈夫かとクラウのことを気遣いながら揚々とシゼルは言う。なんだ、それは。

「彼女たちは大公家へやってくる貴族の子弟を狙う良家のお嬢さんたちだよ。隙あらば既成事実を作ることも厭わない、だから過激派。クラウも気をつけた方がいいかもね、爵位ある未婚者なんて格好の獲物だよ」

「うぐっ」

 最後は小声で告げられて、クラウは再びカーテンに顔を突っ込んだ。

 良家の子女は案外手段を選ばない。両親の離婚のせいでどこか色恋沙汰に抵抗を抱えているクラウは、心なしか青冷めた。

「とはいっても、彼女たちの本命はもっと大物だけどね」

 クラウの爵位は伯だ。それよりも上位となると公爵、あるいは――。

「まさか、王族っていうんじゃないだろうな」

「よくわかったね。そのまさかだよ。これは極秘だけど、なんかお忍びでふらふら城を抜け出して、大公家に遊びにやってくる若様がこの国にはいらっしゃってね」

「まるでシゼルだな」

 クラウは鼻で笑った。ふらふらの辺りがそう思わせる。

「失礼だねクラウは。全然俺とは似てないんだって。まあともかく、その御方っていうのがとかく本の虫でね、よく使用人に本を読んでくれとせがむのさ」

「ますますおまえみたいじゃないか。初等学校の時、僕は誰かさんにせがまれて分厚い本を読み聞かせたことがあったと記憶しているんだが」

「よく覚えてたね、そんな細かいこと」

 シゼルはたじろぐ風もなくしれっと笑った。

「わざわざウチに来て本読めって僕を寝かせなかったのはおまえだろっ」

 怒鳴るのも嫌になってクラウは吐き捨てた。横目には彼女たちが映る。

 大公に忠誠を誓う精鋭たちがわざわざ使用人に成り済ます理由がここにもあったということか。王子の気まぐれ散歩も娘たちのいたづらな想いも大公殿下には何の火種になるかわからない。それを見張るためにも彼らはここにいるのだ。

 物思いに耽るクラウの耳に、再び彼女たちの甲高い声が届いた。

「ねえ聞いたー?幽霊の、う、わ、さ」

 クラウはなぜか縫い止められたように立ち止まる。

「ゆーれい? ああ、誰もいない部屋からピアノの音が聞こえるってやつでしょ」

「そうそれ、曲はなんか舌噛みそうな名前で……、厨房長も見たって話よぉ」

「最近多いわね、そういう話。王宮勤めの友達の話じゃ離宮にも出るんですって、亡くなった王子さまのゆーれいが! 夜な夜な恋歌を口ずさみながら襲ってくるらしいわ」

「やだぁ~だめだめ、あたしそーゆー話苦手なんだからぁっ」

 悪気ない歓談は、通りがかりの者にまで悪影響を及ぼす。

「うわあああああーーーー」

「うわっ、クラウ何してるんだよ、危ないって」

 足早に立ち去ろうと腕に力を込めた途端に、カーテンが自分の方へ雪崩れ込んできた。追いかけようとしたシゼルの腕からも溢れて、クラウの上に覆い被さる。

 白銀の翼に仮入隊して五日目。クラウは夢の半ばで、星の彼方を拝んだ気がした。




 その日の深夜――。

 執務室に戻った大公は、薄明るい室内で思わず肩を竦めた。

 譜術符で照らした机の上に、今日中に片付けねばならない書類の山を見つけたのだ。

 すでに時計の針は十二時を超えている。できれば休みたいところだが明日の予定表もこの束の中にあるのだろう、早急に始末せねばならないようだった。

 視線を落とした先、束の一番上にあるのは、最近発掘が始まった〈大帝の時代〉の遺跡についての報告書だった。

 〈大帝の時代〉とはマナカイル近隣六国が建国される以前の時代のこと、唯一の王が大陸一帯を治めていたとの伝承からマナカイルではそう呼ばれている。

 譜術はその時代に成熟期を迎え、国勢は他の大陸と比較しても飛ぶ鳥を落とす勢いだったという。だが、あるとき大帝の時代には終止符が打たれ、同時に譜術も衰退した。

 今となっては遺跡だけが当時を物語る貴重な資料であり、譜術士にとって遺跡こそが譜術の極みを知る唯一の手がかりなのである。高度な譜術は国を潤す――そんな考えもあって、マナカイルでは近年国王の命で遺跡の調査が盛んに行われている。

 符をランプシェードに移し替えて、大公は脱いだコートを手ずから机脇の支柱に掛けようとした。

 使用人にやらせるのが貴族では普通のことでも、彼は身の回りのことは自分でする習慣にしていた。だが今は頼んでもいないのにコートを取る手がある。

「おや、すまないね、ティアソーマ」

 日中の多くはメイド服でいる彼が珍しく騎士団の白い制服で立っていた。長い髪は一つに括り、普段の物腰柔らかな態度はどこへやら、毅然とした武人の風格が漂っている。

「その姿ということは、何かあったんだね」

「大したことではありません。城から逃げ出した小兎を捕まえていただけですから」

 ティアはド級に凄絶な笑みを浮かべた。

 あの王子どもときたら――主人の前だというのに思わず舌打ちしてしまった。

 作戦コードは「兎狩り」。兎たちは王宮から大公家へ繋がる秘密の地下通路を抜けてやってくる。なので安全は確保されていると言えなくもないが、万が一のあることがあればこちらの首が飛びかねない。まったく王子の近衛たちは何をやっているのかと、精鋭中の精鋭である彼は騒ぎが起きる度に呪いめいた苦情を叩き…もとい、送りつけている。

「困ったものだね、王子さまたちは。放っておくなんて陛下も何を考えておいでなのか」

「何か嗅ぎ回っているわけではなさそうですけどね」

 ティアの笑顔は保たれている。まだ怒っているな、と大公は思った。

「こらこら、それではまるで私たちが疚しいことをしているみたいだよ」

「ですが閣下っ!! ――申し訳ありません、出過ぎた真似をいたしました。それから、これは先ほど上がってきた報告なのですが」

 平生しない眼鏡をずり上げて、大公はティアの手から紙片を受け取った。何やら殴りつけたように黒いミミズが乱れ走っている――この優秀な隊長殿が唯一苦手とするのが筆記だった。気を遣えば人の読める字も書けるが、かなり急いていたのだろう、解読しがたい暗号文が出来上がっている。けれど大公は平然と読み進めてわずかに目を眇めた。

「この最後の一行の、幽霊についてだけれど」

「はいっ……?」

 肝の据わったティアの不安に裏返った返事を聞いて、緩んだ口許を大公は押さえた。

「冗談にしてもこの話は質が悪い。火事で亡くなった今上陛下の第一子……私が一番可愛がっていた甥っ子がこの世をさ迷っているなんて。やはり霊能者に祓ってもらおうか」

「………………っ!!」

 からかうのは自分の役目ではないからと、宥めようとしてみたのにまったくの逆効果だった。ティアは大公の寂しげな瞳など完全無視して、声もなく全身で拒否する。

「どうかそれだけはっ。霊能者だなんてどうせあの人をお呼びになるのでしょう?」

 振り絞った声には涙が滲んでいる。こんな隊長殿は滅多にお目にかかれない、というかに滅多に人に見せない彼の弱点だ。――隊員には絶対に知られたくない、幽霊が苦手だなんて。それも原因が原因だけにティアは誰にも知られたくなかった。

「君も知ってのとおり、彼の腕は確かだよ。それに、今回は彼の仕業ではないのだろう?だったら尚のこと祓ってもらった方が…」

「いえ、お気遣い無用です。大丈夫ですから、どうせ今回も誰かさんのタチの悪いイタズラに決まってます。幽霊騒動なんてあっという間に解決してみせますからっ」

 大公は指を組んで笑みを浮かべた。つられてティアも微笑んでしまう。

「君がそこまで言うなら任せよう。それはそうと、シルトクラートたちはどうしてる?」

「もしや、お聞きになりましたか。……洗剤の口上を始めるなんて、さすがの私も驚きましたよ。それにこのお菓子、クラウが作ったんですけど」

 そう言って勧められた焼き菓子を大公は口に放り込んだ。

「――あの、閣下」

 経過すること数秒、ティアは申し訳なさそうに大公に声を掛けた。尊敬してやまない上司だが、甘味に興味のないティアにとってこの性癖だけは理解に苦しむ。

「閣下、その、お顔が」

 破顔していらっしゃるんですが。

 それもなんというか威厳の欠片もなく、だらっと。

「ん? ああ、すまない。あまりに美味しかったからつい、ね。ときどき、この王家の甘党の血を呪いたくなるよ。美味なお菓子を前にするとついぞ気が緩んでしまう」

 気も顔も緩みすぎるに程があるだろう、と出かかった言葉をティアは呑み込んだ。

 ティアが直接対面したことのある王族は三名ほどいるが、そのどれもが無類の甘党だった。誰も彼も、最高級の甘味を口にした途端に子どものような笑顔を浮かべる。それも王族の権威を失墜しそうな勢いなのだから、始末が悪い。

 だからティアは時々心配になる。甘味を王族の口に放り込み、隙を狙えばマナカイルは簡単に乗っ取られるのではないのだろうか、と――。

「このお菓子の出来は、王宮のパティシエでも舌を巻くんじゃないかな。期待以上になかなか見所があるじゃないか、シルトクラートは」

「ええ。制服も違和感なく似合ってますし、やはりあの変態隊長の血でしょうね」

 アイゼンの茜鷹が自ら潜入するなんてバカじゃないの!?――と、軍から白銀の翼に引き抜かれた頃のティアはよく思ったものだ。あの夕陽を思わせる赤毛は誰が見ても目を引くし、彼の名は世間中に知れ渡っている。

 だが彼はそれを顧みず、時に逆手にとって自分の身代わりを立てて潜入活動をしていた。それも時に変装もせずに忍び込むことがあって、どういうわけかバレずに人の中に溶け込んでしまう、そういう人だった。クラウもまた数日しか経っていないというのに、すっかりこの邸に馴染んでいる。おそらくは血だ。

「これで手駒が増えました。もちろん、あてにするにはまだまだ不安要素が多いですけど」

 リヴァルの息子だからといってティアはクラウを贔屓にするつもりはない。試験のときの課題をクリアしない限りは、任務の全てを任せるには至らないだろう。刃を構えるクラウの姿を思い出して、ティアは苦々しく笑んだ。――あまりに、似すぎている。

「エルメタリカも彼のことを認めたそうだね」

「はい。不本意ながら少佐にも彼を見定める権利があると感じたので、閣下の留守中に私の判断でお呼びしました。事後報告になってしまったこと、誠に申し訳ありません」

 表情静かにティアは言い切ったが、彼の胃には苦い物が沈んでいることだろう――。二人の出会いから現在に至るまでを見守ってきた大公にはわかりすぎることだった。

「詫びることはない。私たち三人の中で一番秀でていたエルメタリカが可能性があるというのなら、私の見込みも間違っていなかったということだろうから」

 大公の心にはリヴァラートの顔が思い浮かぶ。

「彼を仕官させるのは簡単だ。けれどそれではわざわざリヴァルの遺言を無視して連れてきた意味がない。彼の息子ならば私たちの未来を託せると信じているよ。――…だからこそ、試練と経験が必要なのだ。騎士なんて記号は後からでもついてくる」

「だからクラウを見習いに、と殿下は仰ったのですね」

「その通りだよ。ただでさえ名門アイゼンホークの名は重いというのに、リヴァルを恨む者は多い。そんな彼を放っておくわけにはいかないだろう。本当に、二人の容姿が似ていなかったことが幸いだと思えるよ。――…そうですよね?」

 大公は窓の方へ笑みを向けた。気づけば闇夜を背に立つ人影が頷いている。

「ですが――、」

 言い淀むティアに、大公は無言で先を促す。

「二人は似ています、少佐も仰っていました。――彼も、いえ彼がこの世で一番リヴァルを恨んでいる、だからあの顔には私より思い入れが深いはず。そんな彼が言うんです、確かでしょう?」

 ここへ来て初めてティアの表情に翳りが差した。つられて大公の声音が厳しくなる。

「同感だよ。それに、なんだか嫌な予感がしてね」

 机の上に投げ出されたのは、遺跡調査の報告書だ。

 ――いつからだったろうか、陛下が熱心に遺跡発掘を行うようになったのは。

 その当時を思い起こして、大公は声音ばかりか表情をも険しくした。

「また、〈大帝の譜〉の調査が始まったようだ」

 問いかけにうなずくティアの表情も硬い。

 大帝の譜――それは大帝の時代に描かれた巨大な譜陣を指す。大帝の譜は世界各地に点在し、今の譜術では実現できないような願いを具現化する。

 人を甦らせる、人を創る、そんな禁忌な願いでさえ大帝の譜は叶えてしまう。

 それゆえ人々は大帝の譜を禁断の譜陣として畏怖してきた。だが一方で、無限の可能性を秘めた譜陣として研究対象にもなっている。大帝の譜を解き明かせば人類は飛躍的に進歩できる、そう考える者は多いのだ。

「わざわざ陛下が出向いたということは、〈楔の譜〉だったとういうことかな」

 大帝の譜でもとりわけ禁忌な願いを叶える譜陣を楔の譜と呼ぶ。

 人の手では消せないこの譜陣は、マナカイル王国始祖の手によって堅牢な封印術が施されている。この封印を破れるのはやはりマナカイル王家の者だけ――彼らの身に宿る〈鍵の譜〉だけが封印の効力を無効化、あるいは完全に封印を解除できる。

 とはいえ、大帝の譜を発動できるか否かはその者の資質によるところが大きい。「マナに愛されし一族」と譜術の資質を謳われる王家の長であっても、「王の片翼」と呼ばれる大公の助力なしに大帝の譜を発動させることは難しい。一般の譜術士など命を賭しても不可能だ。

「片翼を欠いた陛下では大帝の譜を発動できない。生まれながらに両翼を背負っていたなら話は違っていたけれど。――まったく、私たちはできた甥っ子をもったものだよ。まさかここ数百年と発動していなかった楔の譜を一人で発動させてしまうなんて」

「――はい。ですからなんとしても騎士団にクラウを据えて、殿下をお守りしなくては。例の譜陣が見つかれば、間違いなく陛下は殿下のお力を利用するおつもりでしょうし」

 言い切ったティアは意見を求めるように窓辺に立つ人影へと身体を向ける。

 その肩越しに映る庭では、突風のためか陰の中に影が揺らめいていた。

「そうねえ~。片翼を操り人形にしようとする人よ、あのお兄さまなら息子だって道具よね~。それに他国だってそんな夢みたいな道具、欲しいでしょうね~」

 柔らかい女声には、憂いが混じる。

 王族だからではなく、鍵の譜を持つゆえにマナカイル王家の者は狙われる。過去には敵国に攫われて、祖国をほぼ壊滅するまで利用された大公もいたほどだ。それゆえ王家の者は一人一人が独立した騎士団を持ち、時には影武者を立てて身を護る。ティアが大公家に来てから十年ほど経つが、指では数えきれぬほど誘拐未遂事件が起きている。

「ティアの調べだと、お兄さまは近隣諸国も巻き込んで大帝の譜を調べているのね~。王宮にある大帝の譜の記録はリヴァルが燃やしたはずなのに」

「はい。陛下の記憶力は侮れません。大帝の譜の位置をここまで正確に覚えているとは思いませんでした。この報告とは別にライネハイン公国でも調査が始まったようです」

「ライネハインか。では、海港で取引したことになるね。近々貿易の流れが変わるか」

 隣国ライネハインは海を持たない山間の小国だ。大規模な河川航路もなく、周辺諸国と比べると国力は劣る。ただ、譜術に使われる鉱石を産出する巨大な鉱山を持つ。

 この東大陸で譜術符が日用品化しているのはマナカイルだけである。それゆえ、かの国はマナカイルに専用の海港を開いて他の大陸との貿易を望んでいる。おそらくは海港を作ることを条件に、大帝の譜の調査を許可したのだろう。

「敵は外から来るとは限らない、か。外も内も動きが活発になってきて、頭が痛いね」

 積まれた報告書を無造作に捲りながら、大公は溜息をこぼす。

「だからなおのこと、君たちには注意を徹底してもらいたい。頼んだよ、ティアソーマ」

「心得ております、大公殿下、閣下」

 ティアの敬礼はそのたおやかな見た目とは裏腹に、騎士隊の中で誰よりも雄々しい。それは騎士隊の中で唯一、軍隊からのし上がってきた彼だからこそだ。そして、その雄々しさが彼が隊長に選ばれた由縁であり、リヴァルの右腕を務め上げた成果でもあった。

 クラウの父リヴァラートは貴族と言うには無骨で豪快すぎる男だった。

 大公爵近衛騎士団、通称〈白銀の翼〉団長ティアソーマ・フェルニーは主人の言葉をその平たい胸に深く刻みつけた。

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