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“不死の無能”の神域超越《クロスオーバー》  作者: 大岸瑠璃
第一部 一章 異世界召喚編 追憶の復活
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第十三話 『始動』

□SIDE 天川一涙(イチル)


「あれぇ~? おかしいっすねぇ~?」


頭を押さえつけているシンは、自分の身に起こっている違和感に首を傾げる。


「まさか、抵抗(レジスト)されちゃったとか? ······いや、まさか、そんなぁ······」


何度も頭を押さえる手に力を加え、その感覚を確かめるも、流れ込む記憶はない。そうして記憶が奪えないとわかると、シンは顎に手を添え(さす)り始めた。


「んー、何でっすかね」


数瞬の間、シンは考える。

その答えは、こいつには分かるはずもない。

だって……こいつは俺を何も知らない。この俺が、記憶を渡すはずがないだろう?


「―――《解放せよ(リリース)》」

「っ!? が……ぁっ!?」


発動のトリガーを引くと、心臓を中心として黒い嵐が吹き荒れる。瞬間、弾かれるように振り向いたシンの胸の中に俺は手を突き入れた。


身体強化からの完全なる不意打ち。


「が······ぁ? あ、ん······たは」

「ごめんな。約束を守ってあげられなくて」


シンの体内を手探りで探し、ようやく見つけたそれをありったけの力で引き千切る。シンの胸から勢いよく噴き出す血が、燕尾服を醜く汚す。


俺の手に握られていたのは、シンの、心臓だった。


「······っ!? それ、は」


尋常ではない量の血液を胸から垂れ流しながら、痛みを押さえるためかシンは半赤半黒の仮面を強く握り押さえる。そして、膝をついた。 


「こ、りゃぁ、油断した、っすね……!」


ドバドバと血の流れる胸を押さえながらも、シンはまだ喋る余裕があるらしい。

だったら、少し思い知らせてやろう。


「あー······」


口を大きく開け、シンの心臓を口元に引き寄せた。

仮面で表情はわからなかったが、驚いた様子でシンは顔を上げる。俺はそれを見て、ゆっくりと口元を吊り上げる。大事なものを失う辛さを、その身を以て味わうが良い。


これは儀式だ。俺が人間を辞めるための……人としての甘さを捨てる儀式。


ガブリ、と心臓を咀嚼する。噛み締めた心臓から、肉汁のように生暖かい血があふれ出す。味は最悪だったが、口の中に残るそれを飲み込みながら、俺は心臓をモグモグと咀嚼し続けた。


「······っ、うぷっ······げぇぇ······」


ゴクン、と最後の一片を飲み込む。途端に吐き気が襲ってきたが、悶えながらもそれに耐えた。


「······ゴフッ」


シンは戦慄した様子で沈黙を貫いていた。震える手でこちらに手を伸ばし、仮面の隙間から血を吹いている。

心臓を食った吐き気から回復した俺は、座り込むシンに近づき、その仮面を下から覗き込んだ。


「これが、お前の奪おうとしたものだ。それくらいの、価値があったものだ」


言葉には、怒気が幾分か含まれていた。

そのまま、シンの首元に手を伸ばす。確実に、俺の記憶を奪えるこいつの息の根を止めるために。


だが、心臓を食われたというのに、シンは恐れている様子はない。それどころか、未だにその手は俺を求めているように伸ばし震えていた。


「······そ、んな······やっ、ぉ······やっと、見つけたっすのに······」


ぽつり、とそんな言葉をシンがこぼした直後、シンを中心として空間が歪む。


「······っ、待てっ!」


ほぼ反射的に伸ばした手を握りしめ、黒い奔流を撒き散らしながらシンを砕こうと拳を振るった。しかし、叩きつけた拳は透明な壁にぶつかったように、鈍い音と共に阻まれる。いくら骨を折りながら拳をねじ込んでも、拳が壁を貫くようすはない。そこには、力の根本から防ぐ何かが働いていた。


歪んだ空間が元の様子を取り戻したときには、シンの姿は消えていた。


「······逃がした、か」


余計なことをしてしまったかもしれない。

今日殺し損ねた奴が、いつかの障害になるかもしれない。

だが、奴を殺そうとしたことに失敗を感じても、後悔はなかった。


人を殺すことに、忌避感は感じなかった。


「GURUUUU」

「KYUWA!!」

「おいおい……! なんだぁ? もしかして、俺を食い荒らしにでも来たのか?」


気が付けば、周りには狼型や鳥型の魔物が多数集結している。先程の戦闘で転がっている数多の死骸を漁りにでも来たのだろう。だが、その魔物たちの中には勿論当然、生きている新鮮な人間―――俺を狙う視線もある。


明らかな捕食者の視線に、俺の口がゾッと獰猛な弧を描いた。


「―――良いねぇ!」


身体を震わせクロスさせた両腕を解き放つように広げると、黒い柱が天を穿ち、とてつもない力が湧き上がって、猛烈な風が俺を中心として吹き荒れる。それと同時に、全身の骨が軋むように悲鳴を上げた。


まだだ、もっと上げられる。今の俺の限界を、もっと見たい!


自分でも自覚できるくらいに、俺の口角は吊り上がっていた。

突如膨れ上がった漆黒の奔流に、魔物たちは一瞬躊躇した様子を見せる。だが、意を決したように一匹の狼魔物が口腔を開けて飛び込んできた。


横にステップを踏んでそれを躱し、戻って肘打ちを狼の胴に叩き込む。ズボォッ! と音を立てて肘が狼の胴を貫くと同時に、ビキィッという、俺の肘の骨が折れた音が響いた。神経を巡って駆け巡る激痛。それを意にも介さず、俺は身体強化の反動で足を折りながら疾駆する。


こんな痛みどうってことはない。痛みなんて、感じ飽きている。


むしろ体を駆け巡る全能感に、俺の心は歓喜で一杯だった。

60の転生によって、創生神の力は格は下がっているものの、十分に取り戻されている。加えて反発するように、暗黒神の眷属としての力も取り戻されつつあるのだ。『生命』の力と『死』の力。その二つが混在しているという事実に、俺は溺れはしないまでも歓喜した。


同時に、冷静な思考はこう言っている。確かにこの力は目的を果たすためには必要だ。しかし、これは暗黒神アルマの眷属としての『死』の力だ。ヒロアキとカリンを狂わせた奴の力に、俺は頼らなければならないのだと。


「KYUWA!」

「GYUWAAAA!」


全方位から間髪入れず襲ってくる魔物たちを、破壊衝動のままに次々と破壊していく。

身体の限界を超えて引き出された身体強化によって地面を滑るように移動しながら一撃を入れるたび、数匹の魔物が肉片を散らして舞い上がっていった。


「KU······」


圧倒的多数の魔物が一人の人間に蹂躙されている状況を見て、数匹の魔物が逃げ腰になり始める。攻め腰の体勢から徐々に、徐々に後退る体勢に変わった。


「KU······WAA!!」


突然、鳥形の魔物が声を上げ、翼を広げ勢いよく飛び立とうとする。そうはさせるか、と視界に収めた俺は鳥に向かって走った。

焦った鳥は風の刃を翼から飛ばしてくるが、動体視力も強化されているのか、今の俺には止まっているように見えた。


風の隙間を縫うように刃の全てを紙一重で躱し、鳥に接近してその首を掴む。膝を上げ鳥の首を潰し、完全に息の根を止めておいて、鳥を別の魔物たちの中心に投げつけた。


鳥の着地点からクレーターが広がり、その衝撃波で逃げようとしていた魔物たちを消し飛ばす。ガラスを割るような断末魔と同時に、散らばった肉が雨あられと跳ねた。これで一石二鳥だ。


そして、残りは一体。


「KKKKKK······」


空中から地面に着地すると、目の前にいるカマキリ型の魔物はカタカタと口を鳴らした。

逃げても無駄だと本能で察したのだろう。地球のカマキリとは比較にならないほどの黒い巨鎌を掲げ、じわりじわりと接近してくる。


「遅い」


漆黒のオーラを侍らせながらカマキリに急接近し、細い脚を足場にしてその体を一気に駆け上がる。そして、俺の胴体ほどもある頭が視界を満たした瞬間―――


「最後、か」


―――カマキリの頭を掴み、俺の頭にぶつけた。

破裂したカマキリの頭部から得たいも知れない液体が漏れだし、俺の頭にぶっかかる。

同時に俺の頭蓋骨も割れる寸前の感覚がして、地震のような痛みを感じ、宙を縦に回転しながら地面に着地した瞬間、力が抜けて崩れ落ちた。


「······痛い」


頭を押さえ、うずくまる。脳を揺さぶり、全身を侵食するように駆け巡る激痛に、俺はしばらく耐えていた。

それだけではない。

魔物を屠った腕の数、地面を蹴った脚の数だけ、折れていた骨が治癒される痛みまで同時に全身を揺する。


およそ人が耐えられるものではないだろう激痛。

それに対して無様な叫び声は上げないまでも、俺は意思を口にした。


痛いと言うから人は痛いと感じるのだ―――だが、痛いものは、痛い。

無理に耐えて痛みに敗北するよりも、弱音は口にした方がいい。何せ、俺はこれから無限の激痛に見回れることになるのだから。


「ぐっ……う……」


パキ、ゴキッ、と硬質な音がなり、痛みが少しずつ静まっていく。身体が小刻みに震え、額に脂汗を流しながら土を握りしめた。

こんな痛みをこれからずっと感じることになる。それでも、俺は後悔はしていない。俺にはこの力しかないのだ。平凡以下の剣術と、魔法適性ゼロの俺には。


事態は、とても複雑だ。

転生前のことと、転生後のこと。俺はそれを両方果たさなければならない。


「……」


大分痛みの引いてきた身体を引きずりながら、ゆっくりと立ち上がる。

空を見上げると、沈みかけの太陽から吹いた冷たい風が、伸び気味な前髪をそっと巻き上げた。


……奇しくも、日本で電柱の傍から立ち上がった時と同じ光景だった。


きっと、あの時から始まっていたのだろう。そして今から、また始まるんだ。血みどろの腕を空に上げ、何かを掴むように拳を握る。

といっても、満たされるものは何もない。胸に満ちているのは虚無だけだ。膨れ上がった激情はすっかり静まり、不自然なほどに安らかな気分になる。


「殺す」


地球でヒロアキとカリンを殺した男への復讐。


「殺す」


死んでからもヒロアキとカリンを惑わし狂わせた暗黒神への復讐。


「……殺す!」


そして、その全てを引き起こし、シズクを殺した俺への罰。


初めて覚えた明確な感情だった。ラノベ好きのオタクだった天川イチルはここにはもういない。

目的を果たすためならば、敵は殺す。邪魔者は殺す。例え、どれほど知った人間だろうが、殺すべき人間は殺す。為すべきことは単純だ。


「……もう少しだけ待ってくれ、シズク」


これからの全ては、俺のやり残した復讐の為に。


「ア、ハハ、ハハハハハハ!!」


天へ届けとばかりに、最後に上げることになるだろう哄笑を、俺はしばらくの間放ち続けていた。


◆ ◆ ◆

□SIDE シン


「がっはぁっは……」


“魔界”の地下に位置する、洞窟の一つ。突如空間に現れたシンが、小さく落下して地面に叩きつけられる。小さい衝撃で血反吐を吐きながら、シンはいずれ歪まぬ瞳で洞窟の奥を見た。


「はぁ……、は、ぁっ……ぁ」

「やれやれ、致命的過ぎて声も出ないようね。これまた手酷く、やられたわね……」


微弱な光に浮かび上がる端正な顔立ち。年は十四歳ほどの、地球でゴシックロリータと呼ばれる種のドレスを着た少女はシンの心臓当たりの位置に空いた大穴と、そこから流れる膨大な量の血をみて顔をしかめる。

ぜーぜーと息も絶え絶えになりながら、シンは無理やりに作った笑顔でそれに答えた。

その様子にやれやれと首を振って、少女はシンの体に手を当てる。


「《弱化》」


少女の体から漏れ出る鈍い闇色が少女の腕を伝わってシンに流れ込む。すると、シンの胸から流れ出ていた血はすぐに流れを止めた。

それを確認した後、少女は懐を探り、いくつかの薬瓶を取り出し床に置く。いずれも最高品質と称される高級な薬品。それらをためらいもなく少女はシンの体に振りかけた。


「……っああ! ……はぁ、はぁ……。…………あー!失敗したっす……」


途端息を吹き返したシンは、少しの呼吸の後、子供の駄々をこね始める。


「……治癒が始まった途端元気になるなんて、のんきな人ね。叫ぶのはいいけど、また傷が開くわよ?」

「だってー。あとちょっとだったんすもん……っ、て!」


注意した直後に胸を押さえ痛みに悶え始めたシンを見て、案の定だったと少女は小さくため息を吐いた。心臓に風穴があいた状態でよく話せるものだ、と。もしくは、相当悔しかったのかもしれない。


そう少女が考えていると、タタタッと何かが駆けてくる音が聞こえ、続いて幼い少女の声が洞窟の中に響いた。


「シン――――――!!! 大丈夫なの――――――!!!!」

「ちょ、マロル、落ち着ぐふっ―――――!!!」


大声を上げて駆けてくる少女を目にすると、シンは焦った表情で、ゴシックロリータの少女は嗜虐的な表情でその行く末を見守る。

直後シンの胸に小さな涙目の少女が飛び込み、シンは広がる胸の傷の痛みに顔をしかめながらうめき声を上げた。


「シン、シン! 大丈夫なの? 大変なの? シン、シンー!」

「大丈夫よ、マロル。シンはもう治ったわ」

「そうなの? でも、シン死にそうなの」

「大丈夫よ、こう見えてもシンはかなり元気だから」

「そうなの! よかったのー!」

「……シエル……あんた悪魔っす……よね……うっ」


無垢なマロルに向けたシエルの微笑みが、シンには悪魔の微笑にしか見えなかった。そうしてそのまま気を失った……ふりをする。結構余裕そうなシンだった。

そのあとしばしの間空白の時間が続き……シンは仮面の奥の口を開く。


「……彼は、今どこにいるっすか……?」

「方向が分かっているのかわかんないけど、ちょうど王国の反対側を通ってるわね。……結構早い。あと調子だと、あと数日でロスティクス勢力圏にまではたどり着くでしょう」

「そうっすか……」


落胆したようにシンがため息を吐くと、胸の中のマロルがシュンとして再び涙を浮かべた。


「ごめんなの……あの時、助けられたらよかったの……」

「いやいや、マロルはそんな心配しなくていいんすよ。そもそも、まだ本調子ではないじゃないっすか。もし今マロルに何かあったら、それこそ取り返しつかないっすよ」

「そうね。マロルは出る必要もなかったわ。実際、あなたが胸を揉まれるだけで被害はゼロだしね」

「やっぱあんたは悪魔だ! ってか、心臓もぎ取られたのは胸をもまれるってのに入るんすか!?」


荒ぶるシンを見てケケッと笑うシエル。もう駄目だとシンは涙目になった。

いつもの空気が戻ったことを察してか、マロルも無垢な笑顔を浮かべる。


「で、どうだった?」

「まあ、ダメだったっすけど……」


シエルの問いに、シンは肩をすくめる。

そう、ダメだった。永遠の生命エネルギーを内包する存在には出会えた。だが取り逃がしてしまったから。


「でも、次はあるっす」


生きてさえいれば、いくらだって目標は叶えられる。次さえあれば、夢はかなえられるのだ。

胸の痛みがひいていくのを感じながら、シンは立ち上がった。


「まあ、しばらくは傷の治療に専念するっすか」

「やったーなの! しばらくはだらだらなの!」

「まあ、旅で疲れてるし、多少は……いいかしらね?」


マロルに抱き着かれ、シエルからの咎めを逃れられたと安心してシンはほっと息を吐く。

同時にシンは、笑う仮面にそっと手を置き……何かを、ずっと呟いていた。

解放せよ(リリース)》······肉体を滅ぼすほどの身体強化。身体を渦巻く“死”の反発によって、肉体の限界を超越した動きを発揮することが出来、加えて相手に“死”の概念を打ち込むことで自分の耐久を遥かに超えた敵の装甲も貫くことが出来る。


( ・ω・)<分かりやすく言うとヒ◯アカのワ◯フォーオール


( ・ω・)<めっちゃ身体能力を強化できる代わりに、その反動で身体も壊れる


( ・ω・)<無茶苦茶な“再生能力”を持つイチル君だからこそ使える諸刃の刃


( ・ω・)<普通の人なら発動した時点で身体が爆裂して死にます


( ・ω・)<現時点のイチル君ではこれが限界

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