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“不死の無能”の神域超越《クロスオーバー》  作者: 大岸瑠璃
第一部 一章 異世界召喚編 追憶の復活
1/17

プロローグ『序章・絶望の淵から』

第一部(今のところ全十二章)までのブロットは完成済みです。

■SIDE ???


突き込んだ抜き手を、力を込めて引き抜く。

すると、瓶を抜いたワインのように紫色の血が辺りをビュッと舞い、黒い巨体が地に頽れる。


死屍累々。


この場を表すならば、この言葉が最も当てはまるだろう。

踏みしめる大地には紫と赤の血が入り混じり、筋骨隆々の身体に風穴を開けた魔物が散乱している。

無論、その中で息をしているものなどいない。辺りには、口から洩れるか細い息だけが小さく聞こえていた。


「何が、あったんだ……?」


俺の顔は、きっとひどく薄汚れひどく歪んでいるだろう。

目の前の光景を夢だと思いたい。放り出して目から逸らしたい。

激痛の後の虚無感と鼻を刺すような血の匂いがそれを現実だと示し続けているが、頭がそれを理解したくないからなのか妙に現実感を感じなかった。


何がここで起こったのか、全くわからなかった。


行き所のない感情を解放しようと口を開いたが、出てきたのは叫びとは程遠い掠れ声と、消化しきれていない胃の中の汚物。

地面に手をついて、喉からこみ上げる生命の混合物を必死に吐き出す。吐き出したものもその場の空気と混じり合って、喉はご開帳状態だった。

頭が真っ白に染まって、視界は真っ黒に染まる。


耐えられない、信じられない、これは夢だと、そう思いたくなる。


ほんの数時間前と現在の状況の差異。

必死に立ち上がるも、目の前の惨状が変わるわけもなく、また膝をついてしまいそうだった。

さっきまで息をしていた生物が、今は歪に息を引き取っている。それを見た瞬間、やっと理解した。


「……俺だ……き、ぉこった……」

俺だけが、生き残ったんだ。


理解した瞬間、世界が遠のいていく。

同時に、意識が覚醒していく。これは変えようのない現実なのだと、いまさらになって。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


頭を押さえ、逃げるように目をつぶる。

これは、夢だ。たちの悪い悪夢なんだ。きっと目を覚ませばふかふかのベッドの上で冷汗をかきながら起き上がっている。

そんな思考を置いてけぼりに、無我夢中で足を動かす。


「ぐぅ……ァァア!」


しかし、体が動かない。辺りに充満する死体の怨念に引っ張られるようにその場を動けない。

いや、違う。俺をそこに留めているのは死体の怨念なんかじゃない。


彼女が無事かどうか――それを確認するのが怖いだけだ。


――イチル君?

「―――――っ!?」


鈴の音を転がすような声が聞こえた気がする。

きっとこれは幻聴だったのだろう。記憶の奥に染みついた彼女の声。


だからこそ、振り向いてはいけなかったのだ。


「―――ぁ」


ポツリ、と口から零れるような声が漏れた。

血の絨毯に誘われ、そして沈んでしまった体を見てしまったから。

目を逸らそうとしても、視線は磁石で固定されてしまったかのように動かない。

体に歩み寄り、跪き、その手をしっかりと握った。


きっと、自分ではどうしようもなかっただろう。


冷え切った手が、もう握り返してくれることはない。


その冷気が広がるように、意識も冷え切っていく感覚があった。

臭いも歪さも、今となっては吐き気を催すだけの苛立ちに過ぎない。


だけど、それでも――――


「――――俺は、無力だ」


―――今だけは、泣きたかった。


◇ ◇ ◇


これがその序章だった。

キミが絶望して、立ち上がって、道を切り開いていく物語の始まりだった。


キミは失うだろう。大事なものを、道のどこかに落としてしまうだろう。

私の力は、そういう力だ。


でも大丈夫。

拾っていけばいい。例え失っても、元来た道を戻ればそれは必ず落ちている。

失くして、戻って、拾って、また落として。


そうやって、キミは成長していけばいい。

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