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ゲロ臭い街  作者: 矮鶏ぽろ
3/3

犯行現場


「そろそろ店を閉めますよ」

「なに?」

 まだぜんぜん飲み足りないのだが、時計を見るともう日付が変わっていた。いつの間にか店の大将は洗い物を始めている。


 明日も仕事だ。深酒をするわけにもいかないな……。

「じゃあ、おあいそ」

「あいよ! 一万八百円ですが、一万円でいいです」

「おお、そうかそうか」

 常連客の特権だな。だからこの焼鳥屋が好きなんだ。……しかし、今月はもう少し節約しなくちゃいけないな……。財布からいつの間にか万札がすべて消え去ってしまった。

 最後の鳳凰様が羽ばたいてレジへと吸い込まれる。

「ありがとうございました! またよろしく」

「ああ、ご馳走さま」



 帰り道は、あの場所を通って帰ることにした。


 ……今夜こそ、誰が吐いているのか見つけられるかもしれない。

 あの忌々しく腹立たしい常習犯を――!


 薄暗い道路の緩やかな曲がり道。現場付近には誰も見当たらない。もしかすると、もうすでに犯行に及んだ後なのかもしれない。

 

 そっとグレーチングを覗きこむが、暗くてよく見えない。街灯の明かりが暗過ぎると文句を言ってやりたい。街全体が暗いと犯行を助長させてしまい、治安が悪くなる。暗くて見えないのを逆手にとって、常習犯が毎晩のように犯行に及ぶのだ!


 イライラしていた気持ちが、ムカムカに変わってきた。

 暗くて見えないグレーチングからは、朝のような異臭は漂っていない。まだ今日は誰もここで嘔吐していないのだろうか? いや、そんなはずはない! もっと近づかないと臭いが分からないだけだ。


 少しかがむと、それは急に襲い掛かってきた――!

 慌てて口を押さえるが、込み上げてくる熱い思いを抑えきれなかった――。


 ゲロゲロゲロビチャビチャビチャビチャビチャー。ビチャビチャ。……ペッ。


 ま、まさか……。


 ま、まさか……。――俺が吐くなんて。うっ!


 ゲロゲロゲロビチャビチャビチャ〜。……ペッ。


 ……情けない。鼻からもゲロの臭いがする。……ペッ。

 罰金……もしくは、写真を撮られて拡散されることを考える。――とんでもない大失態だ! そんなことをされれば、……名誉棄損で訴えるだろう。


 コツ、コツ、コツ、コツ。


 ミニスカートの若い女性が、四つん這いになっている俺の背中を……さすってくれる……わけもなく……。汚いものを見る軽蔑の冷えた視線で、横を通り過ぎていく――ハンカチで口元を押さえながら――。


 なんか、……口も鼻も甘酸っぱい。……ペッ。



 吐いて少し楽になると立ち上がり、歩きだした。足が……フラフラする。たったあれだけのお酒で吐いてしまうなんて。

 ……もう若い頃と同じように飲み過ぎてはいけないなあ……。


 もし市会議員になっていたらと考えると、……大恥ものだ。恥か……。俺の吐いたゲロ……誰が片付けてくれるのだろう。


 明日までそのままなのだろう。そして歩道を歩くすべての人に、不快感を与えるのだろう。


 喫茶店のマスターに明日、謝りに行こう。そして掃除を手伝おう。俺は、常習犯とは違うんだ。

 善意のある一般市民なんだ――。それこそが、綺麗な街を目指す第一歩なのだ……。



「ただいま」

「おかえりなさい」

 トイレへ駆け込むと、残りの焼鳥を……また吐いた。……ペッ。


「あなた……今日も飲み過ぎたの?」

「――うるさい! 男には付き合ってものがあるんだ」

「はいはい。じゃあ先に寝ますからね」

 ……。

 水を一杯、持って来てくれたっていいじゃないか。……ペッ。




 次の日の朝、眩しい太陽の光に照らされて会社へ出勤する途中……。


 ――まただ! また同じ場所にゲロが吐いてある!

 蓋のグレーチングに、カッピカピに乾いてこびりつく嘔吐物――。


 ――酒を飲み過ぎて吐くようなモラルの欠片もない大人からは、罰金を取ればいいのだ!


最後まで読んでいただきありがとうございました!

皆様も飲み過ぎには注意して、美しい街づくりを目指しましょう! 感想、ポイント評価、お待ちしておりま~す。

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