溝に吐かれたゲロリン
「くっさ!」
まただ! また同じ場所にゲロが吐いてある!
早朝、会社への通勤途中にある少しお洒落な喫茶店。その店と歩道の間にある排水溝に、――今日も見つけた。
蓋のグレーチングに、カッピカピに乾いてこびりつく嘔吐物――。
近くを歩いただけで、鼻にツンと異臭を感じる。
――臭い! 犬の小便よりも臭い!
独特の甘酸っぱい臭いに思わず顔を背けた。……いや、甘酸っぱいじゃない、――酸っぱ臭い!
人間が物質の臭いを感じる仕組みは、物質の粒子が飛び散っているからだと医学分野の参考書に書いてあった。つまり、薔薇からは薔薇の粒子が、焼き肉からは焼き肉の粒子が、そして……ゲロからは……ゲロの粒子が飛散しているのだ!
誰のものとも分からない嘔吐物の粒子が街に飛散し、それを吸引してしまったと考えると、
気持ち悪さよりも、強く憤りを感じてしまう――。
体調が悪くて我慢できずに嘔吐するのなら仕方がない。だが、いつも同じ場所に吐いてあるゲロは、そんな「具合の悪い人」のものでないのはあからさまだ。
おおかた……飲み過ぎた大人の仕業だ。
……情けない。酒に弱いのであれば、飲むなと言いたい。子供じゃあるまいし、二十歳を越えた大人であれば、それくらい自己統制ができてしかるべきだ。
だいたい、掃除する人の気持ちを考えたことはあるのだろうか。喫茶店の前に嘔吐物があれば、これは明らかに営業妨害だ。芳しいコーヒーの酸味と香りが……ゲロの酸味と遇い交わってしまい、「酸味って……なに?」と、コーヒーを片手に途方にくれてしまうだろう!
この街は……ゲロ臭い! 街全体がゲロ臭い!
これからのクリスマス、忘年会、新年会シーズンが思いやられてしまう。
――そうだ! 酒を飲み過ぎて吐くようなモラルの欠片もない大人からは罰金を取ればいいのだ!
一度や二度ならず、故意であるかのように同じ場所で嘔吐を繰り返す奴の証拠画像を撮影し、市役所か警察の相談窓口へ提出すれば、一万円以下の罰金、もしくは一年以下の懲役。
……十日間の禁酒。
……顔画像をSNSで公開。拡散。炎上。露出。
――痛い思いをさせてやれば、それに懲りて思いとどまるだろう――!
見るがいい……カッピカピのゲロを。立ちションよりも、よほどたちが悪い。ここの周辺は、いつまでも酸っぱ臭いままだ。
私が市会議員になったら、まずはこの問題を取り上げ、対策を取るよう議会で進言しよう。――ゲロ臭いこの街を、観光地としてふさわしい「美しくていいオイニーのする街」へと変えてやるのだ――!
つづく
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