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図書館に入室した巡士考太は、市立図書館並みに静かな静寂さに正直不気味さを感じていた。しかし管理室の方から当番の先生が優しく朗らかに「こんにちは」と小声で話しかけてきたことにより彼の中にあった不気味さは軽減された。
「こんにちは、先生」
巡士考太は、今日の当番の先生である男性(見た感じ三十後半)に挨拶を返す。もちろん静寂さを破壊しない程度の声音で、である。先生はニコニコと笑顔で嬉しそうに頷くと、ふと彼の顔を見て不思議そうな顔をして首を傾げた。
「今日はどうしたんだい。何か探し物かい?」
実は巡士考太は図書室の常連客であった。その為に図書室の先生らとは顔見知りであった。なので先生は、何時もは真っ先に本棚に向かう彼が、自分の元へ来て立ち往生していることに疑問を持ったのである。巡士考太は、その言葉をまるで待っていたかのようにニコッと笑い「ええ、そうなんです」と零した。
「今日は何をお探しに?」
少しだけお茶目な先生らしい。先生は本の貸し出しする窓口から顔を出して小声で尋ねる。すると彼もまた先生と同じように小声でヒッソリと答えを返す。
「実はこの学校について知りたいんです」
「この学校……の?」
彼の答えた言葉に目を丸くする先生。しかし先生はすぐに彼が転校生であり、元から次女川の生徒でないことを思い出した。けれど先生の中で疑問が生まれ出る。
……例え知らないからと言って子供が学校について知りたいというであろうか?
そんな疑問を湧きだし、思わず先生は巡士考太に探りの眼差しを向けてしまう。それを感じ取ったのか、巡士考太は先生の探り目に困った顔をしながら口を開いた。
「実は社会の歴史で、学校をテーマにしたんです。だから何か詳しい資料とか、ありませんか?」
「あ、ああ、そういう事かい」
先制攻撃とばかりに出された言葉に、先生は一瞬目を丸くして固まってしまう。しかしすぐに復活。眉を下げて困り顔をする彼に探りを入れたことに先生は自分を恥じ、笑顔で対応する。
「それじゃあ、歴史関係でも、【地域】という分類に入るからそこを見て見ると良い」
「ありがとうございます」
彼は先生の親切な案内にペコっと一礼をして去って行く。そんな彼の背中男を見つめ先生は一人(熱心な子だ)と見送りながら思った。しかし同時に子供は元気よく外に遊ぶ方が似合っている、と思った。
巡士考太は、先生の元から去ると言われた通りの場所へ行き、本を物色し始める。そして彼はなぞるように、背表紙のタイトルを指で動かしながら見つめていると、ピタッと動かしていた指を止めて笑みを浮かべた。
「見つけた」
そう言って手に取ったのは古めかしい本であった。赤茶色のハードカバー。その本のタイトルは『次女川の歴史』と書かれてあった。