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禁じられた遊び  作者: noll
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1

 巡士考太は、空席となった右斜め前の席を半ば睨みつけるような形で見つめていた。その席の持ち主はつい先日、放課後の学校で忽然と姿を晦ませた桃袋愛男(通称モブ男)の席であった。未だ警察からもコレと言った進展は無く、学校側からも音沙汰が無かった。けれどあの事件以降、学校全体が何だか緊迫した空気に包みこまれていた。

 巡士考太はそんな毎日を窮屈な思いで過ごしていた。まるで折に入れられた動物のような気分。全員の大人が、自分たちを監視しているような気配。それが巡士考太には堪らなく嫌であった。

「それで、此処の場合には、先ほど説明した公式を当てはめて…………」

 先生の声が嫌でも入ってくる。本来ならばモブ男がちょっかいを掛け始め、クラスが賑やかになる所。しかしその肝心なお調子者でクラスでは有名であったモブ男がいない。だからだろうか。巡士考太には、酷く教室が閑散としている気がしてならなかった。何だか息苦しくなる気がして、巡士考太は全てから逃げるように机へと顔を伏せた。

 ――何処に行ったのであろうか、モブ(あいつ)は。

 そんな唐突な疑問が巡士考太の中で湧きあがる。第一にモブ男は学校内で行方不明となったのだ。ならば犯人はもしかして学校の人間……? そこまで彼が考えを巡らせていると、ふと顔を上げ目の前で教鞭をとる先生を見つめた。先ほどと変わらず、黒板をガリガリと白いチョークで書き込んで説明をしていた。静かにその背中を睨みつける。

 ――まさか、先生が? いや、そんな馬鹿な…………でも。

 嫌々と首を振っても、脳裏に浮かび上がる疑惑を簡単には拭い去ることが出来なかった。巡士考太は、悶々とする考えの中、一つの結論に辿り着いた。

 ――少し調べてみるか、この学校の事を。

 そう思い立てば、すぐさまノートの端に自分へのメモを残す。そうして周囲を見渡し、変わらない重い空気の教室に嫌気が差し込むと、巡士考太は再び机に突っ伏して眠りの体制へと移る。

 けれどそれも数分で終わりを告げる。

「こら、巡士!」

 先生からの野次が飛ぶ。ポツリと彼の口が動き、声にならない言葉が紡がれる。

『五月蠅いな……』

 しかしこの呟きは周囲の誰にも聞こえることは無かった。

「なに寝ているんだ、巡士! 今は授業中だぞ!!」

 決まった言葉しか言わず、教卓の前で憤慨する先生。そんな彼を巡士考太は静かに見つめ、欠伸を噛みしめながら「すみませーん」と謝罪を口にする。すると少しばかり教室内にクスクス、という笑い声が漏れ出る。それに少しばかり笑みを交えて先生を見れば、先生も呆れながらも「気を付けなさい」という言葉一つに、再び教鞭に取り掛かった。それを静かに見届けると、今度はノートを取るようなポーズで寝始める巡士考太。

そんな彼をギョッとした眼差しで左隣の席にいる幼馴染の夕日(ゆうひ)シホが見つめていた。小声で「考太くん!」という呼びかけをしてくるも、彼は平然と無視を決め込み、夕日シホもまた、すぐに肩を落として諦めた吐息を口にした。


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