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「いーろーはーに、ほーへーと」
代り映えのしない歌が始まる。しかし誰も止める者はいない。いやむしろ、止めてしまってはいけないのだ。巡士考太は目を閉じて歌を聞く。もはや二戦目までの経験など何の役にも立たないことなど分かり切っていたからだ。三戦目は追加ルールに乗っ取って潜り抜け出来ない張り方も出てくるからだ。
だから巡士考太の中で出す答えなど一つしか無かったのだ。
「うーえか、しーたか、まーんなかか?」
歌が終わりを告げる。巡士考太は後ろを向いたまま目を開ける。
「上」
そう告げ、彼は振り返る。最初に目に飛び込んできたのは双子の『なわ』である。双子が張っていた張り方は斜めであった。まるで滑り台を横から見たような図である。そして次に増えた鬼の『なわ』を見た。しかしその光景に彼は息を呑んだ。体育館の二階から、血塗られた桃袋姉弟が下半身を無くし上半身だけの状態(こちらは姉の方)と、足首を無くし棒立ちをしている状態(こちらは弟の方)が居たからだ。思わず声が出そうになる。しかし彼は無感情で、血の抜けきった白い顔をする彼らを視野に入れながら、言葉をグッと飲み込んだ。そして巡士考太は目の前に張られている『なわ』を見つめた。
確かに双子が言う通り、『なわ』はキラキラと光っていた。しかしそれは体育館の照明に反射されて光り輝いているだけであった。巡士考太は二人が張った『なわ』が一つしか無い事に疑問を持った。もう一つが見当たらない。しかし目線を落として床を見て見ると、どうやら床に一直線に『なわ』が無造作に置かれてある事が分かった。そのテキトーさに思わず笑いたくなってしまうが、彼は笑っている場合ではないと顔を引き締める。
「「さあ、どうする? 考太お兄ちゃん」」
挑発するように尋ねてくる双子。それに巡士考太はニヤリッと笑って見せた。不敵な笑みを見せる彼の姿に、双子は目を丸くする。内心では気でも狂ったのではないか……と、思ったほどである。それほどまでに双子の中では衝撃的な返しだったのだ。
巡士考太が「上」を選択したのは、もともとこのルールにある大きな穴を発見した時からだった。
巡士考太は不敵な笑みを浮かべたまま、言葉を口にする。
「準備するから待ってろ」
そう言って彼は背を向けて用具室へと入って行った。中は埃っぽくてゴチャゴチャしていた。しかし彼はすぐにそのお目当ての存在に気が付くと、それを手に取り悠々と用具室を後にした。
そう、このルールの穴は『道具を使ってはいけない』という所だ。コレがあるのと無いのでは大きな差が生まれる。そして今回、巡士考太が持ち出してきた物は棒高跳びに使用する棒であった。
彼は助走と共に棒を飛ぶ寸前に叩きつける。棒は撓り、巡士考太の身体は宙を飛んだ。そしてそのまま彼の身体は二階を軽々と越えて体育館の床に見事着地したのだ。
足が反動で痺れる物の、なんのそのであった。巡士考太はゲームに勝ったことを知り、素直に喜んだ。その光景を唖然とした表情で見上げ、見送っていた双子は、やがて嬉しそうな顔を浮かべ「おめでとう」と口にする。
いつの間にか張られていた『なわ』も、居たはずだった桃袋姉弟もいなくなっていた。残されたのは双子と彼の三人だけ。巡士考太は近づいて来る双子を見つめ、念を押すようにして尋ねた。
「勝ったぞ。本当にシホは生き返るんだろうな?」
「「もちろん」」
――でもね?
そう声を上げると、巡士考太の表情がまるで石のように固まった。彼は大きく目を見開き、自分の身に起きていることに理解が追い付いていないようであった。双子は嬉しそうに脈打つソレを大事そうに抱えた。巡士考太の口元から血がツゥ……ッ、と流れる。膝から崩れるようにその場にしゃがみ込む。いや、ほとんど倒れているのに等しい格好であった。
双子は困惑している彼に対し笑みを浮かべながら答える。
「だって生き返るにはね」
「考太お兄ちゃんが仲間になるしかないんだもん」
「「ねー」」
顔を見せあい笑い合う双子に、巡士考太は自分の浅はかさを思い知らされる。抜き取られた胸の鼓動を見つめながら、彼は遠くなる意識を繋ぎとめることも出来ずに眠りについてしまう。それを見守っていた双子は煌々とした顔を浮かべる。
「やっと仲間が出来たね、お姉ちゃん」
「そうだね! 新しくお兄ちゃんが出来たね!!」
「楽しくなるね!」
「そうだね!」
「「ああでも、ちゃんと約束は果たさないと」」
双子はそう言ってクスクスと笑う。そうして双子はバタバタと忙しそうに階段で寝っ転がる夕日シホの元へと向かった。
――夕日シホは後日病院で目を覚ます。しかし彼女の中にあの夜に起きた出来事は全く覚えていなかった。
彼女が登校するまでに元気になった時、隣の空席を見て首を傾げるのであった。
「なんで此処、空いてるんだろう?」
彼女の中に巡士考太の記憶は抹消されていた。それは双子の好意だったのかどうかは、もはや誰にも分からない。
何故なら双子は今、幸せだからだ。
「ねーねー! 考太お兄ちゃん、いろはやろう! いろは!!」
「あ~? もう飽きたわソレ。なんかもっと違うやつやろうぜ?」
「えー、例えばー?」
「う~ん?」
「「考太お兄ちゃん!!」」
新しい仲間を入れたお陰で、双子は漸く二人だけの空間から解放されたのである。今までずっと二人だけの寂しい空間で生きて来た二人にとって、巡士考太の仲間入りは最高に嬉しい事であった。
双子は笑う。それはそれは幸せそうに。漸く手に入れた宝物を二人で分け合いながら、夜の学校を三人で仲良く遊び歩くのだ。




