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「「こっちだよ」」
双子が声を揃えて切羽詰まって彼女の名を叫ぶ巡士考太を呼んだ。しかしその顔に笑顔はなく、子供っぽい好奇心的な顔であった。
双子の声を聞いて巡士考太がやって来る。その顔は青白い。
「シホ!」
双子はツィ……ッ、と階段下を指さす。巡士考太が階段の手すりから階段下を覗かせる。そして目の前の光景にギョッとして、膝から崩れ落ちた。しかし自分を奮い立たせて彼は階段から転げるように降りて行く。眠るように倒れる彼女の後頭部からは血がジワジワと溢れ出していた。巡士考太は、自分の服が血で汚れることなど気にする事なく、近づいて手を伸ばす。
「シホ……!」
まだ温かく、柔らかい肌に巡士考太は彼女が先ほどまで生きていたのだ、と理解する。だからこそ、今この状況が受け止め切れずにいたのだ。双子は足音も無く階段を降りていた。動かなくなった夕日シホの側にいる巡士考太を不思議そうに見つめていた。
「どうして泣いているの?」
片割れが口にする。しかし巡士考太は答えない。
「悲しいの? なんで?」
もう片方が訳が分からない、といった風に尋ねてくる。巡士考太は彼女の頬を二、三度撫でると双子に視線を向けた。その顔には涙の一滴がツゥ……と頬を伝っていた。
「大切な……、大切な奴だったんだ」
彼がポツリと零した言葉に首を傾げる双子。しかしそんな事など気にする事なく、巡士考太は続ける。
「今更、気付くなんて……。何時もお節介ばかりで、五月蠅い奴なのに」
「好きなの?」
「なの?」
双子が更なる答えを求める。その言葉に一瞬目を丸くする巡士考太であったが、すぐに悲しそうな顔を浮かべ、ゆっくりと頷いた。
「そうだな……。そうかもしれない」
そう言って笑う巡士考太は最後に「馬鹿だろう?」と口にする。その意味に双子は何となく理解して、言葉を噤んだ。双子は顔を見合わせて、双子ならではの会話を行う。
「……」
「…………」
無言なのに何かの会話をしているように見える光景を流し目で見送りながら、巡士考太は再び眠る彼女に手を伸ばした。先ほどまであった体温が失われつつあった。それにグッと涙を堪えながら、しかし涙は次々と溢れ出て、巡士考太は涙を無くすように唇を強く噛んだ。彼の口元に血が滲む。
双子はそんな彼の様子を見つめながら、一つの提案を口にする。
「僕たちに勝ったら、シホお姉ちゃんを生き返らせてあげるよ」
ニッコリと優し気な笑みでとんでもない提案を口にした双子に、巡士考太は目を見開いた。しかし彼は彼女が生き返る、その言葉に慎重な考えなど一つも湧く事なく、固い言葉を口に出していた。
「分かった」
そう答えた巡士考太に、双子は心の底から嬉しそうな顔を浮かべた。




