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校舎への侵入は、以前に鍵が壊れて閉めることが出来ない用具室近くの窓から入った。電話があるはずの職員室は二階に存在し、二人は校舎内へと入ると頷き合って二階へ上った。それから渡り廊下を渡って職員室へと向かう。幸いその道中で双子に遭遇することは無かった。しかし同時にその遭遇できない理由に顔を渋らせた。苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべながら廊下を走る二人。
職員室の隣に隣接されてあるパソコン室の側を走り抜け、二人は息を切らしながら職員室へ辿り着く。
「中に入ろう」
「あ、ちょっと待って」
中に入ろうとすると夕日シホが待ったをかけた。思わず彼女の方に視線を向けてしまう。
「……ん?」
「あの、さ……。先、入ってて」
そう言って彼女は赤い顔でチラチラと職員室前に設置させられているトイレを見る。それに対し巡士考太は察し、静かに頷いた。
「分かったよ」
「うん。すぐに戻るから!」
「いや、ゆっくりしてろ」
「だ、駄目だよ!!」
そんなやり取りをしながら二人は別れる。巡士考太は先に職員室へと入室。咄嗟に「失礼します」と言葉を出してしまうのは教育上仕方がないであろう。自分に嘲笑いながら、彼は手短な教師の机に置いてある電話を手に取ると、受話器を耳に押し当てた。
――しかし、聞こえてくる音は一つも無かった。無音である。まさか、巡士考太は隣の、そのまた隣の電話にも受話器に耳を当てた。しかし聞こえてくる電子音は無く、無音であった。巡士考太の顔が徐々に蒼褪めていく。
「そんな……、そんな馬鹿な事って!」
そんな呟きを零しながら一度、夕日シホと合流しようと思った彼の耳に彼女の悲鳴が聞こえた。
「シホ!!?」
巡士考太の悲痛な声が職員室を響かせた。
*
トイレを終えた夕日シホが手を洗いトイレから出た。
「「『シホ』お姉ちゃん、あーそーぼー」」
彼女は聞こえた声に恐怖した。咄嗟に身を翻して走り出す。先ほど通ったパソコン室を通り過ぎ、渡り廊下ではなく、その先にある階段を駆け下りようとする。しかし彼女は恐怖のあまりに足が思うように動けなかった。
足がもつれる。夕日シホの口が「あ」という形となる。反射的に階段の手すりに手を伸ばすものの、それは空を切って彼女の身体は宙に投げ出された。
夕日シホの身体が階段を転がる。転がり落ちる。
「きゃああぁあぁあああぁあああ!!」
痛みを緩和するための悲鳴が飛び出される。けれど最後の段になり彼女は勢いよく頭を階段の角にぶつけてしまう。脳震盪が起きたのだろうか。彼女は痛みに目を大きく開いたものの、すぐに目を閉じてしまう。まるで眠るように息をついてしまったのだ。
それを見ていた双子は酷く残念そうな顔を浮かべた。
「あーあー」
片割れが落胆した声を上げた。
「壊れちゃった」
「つまんなーい」
愚痴る双子。そんな双子の前に、彼女の悲鳴を聞いて駆け付けた巡士考太がやって来る。
「シホー!!」
動かなくなってしまった彼女の名を叫ぶ彼に、双子は顔をキョトンと見合わせて不思議がった。




