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先導する巡士考太と夕日シホは、背後から聞こえて来た絶叫に足を止めた。
「一!?」
その声は確かに彼女の弟である夕日一の声であった。後ろを追いかけてきていたはずなのに居ないのを見て、巡士考太は最悪の場合を考えた。しかしその前に、夕日シホの事が気にかかった。
「……シホ?」
「どうしよう、一が! 一が!!」
「落ち着けシホ!!」
「落ち着けられないよ!! 弟があの……、良く分からない子たちに捕まったんだよ!!」
目に見えて慌てる夕日シホ。しかしこのまま此処に居るのは得策では無い事は彼には分かっていた。彼は彼女を落ち着かせるように両手で彼女の肩を抑え込む。
「助けを呼ぼう。僕たちだけじゃどうにもならない」
「でも!!」
「もし戻っても、僕たちだけじゃどうすることも出来ないんだ!」
張り裂けるように言い放った言葉に、夕日シホは目に涙を溢れさせた。ポロポロと涙を流しながら、嗚咽を零す。そして巡士考太の服裾を掴み、肩を震わせた。巡士考太はまさかこんな展開が待っているなど露ほど思っていなかった数時間前の自分を殴り飛ばしたい心境であった。タイムマシンが存在するならばすぐに乗って過去に戻りたい、それが今の巡士考太の気持であった。
……しかし現実は空想を描いても、どうにかできるものでは無かった。彼は言葉を口にする。
「ごめん」
その言葉に肩を震わせていた夕日シホは顔を上げた。涙を流しながら目を丸くしている。彼は続ける。その顔は申し訳なさでいっぱいであった。
「ごめん、僕のせいだ。僕が君を……」
「違う」
即座に彼女は言い放った。気付いたら巡士考太もまた顔を地面に落としていた事に気づかされ、咄嗟に顔を上げた。彼女は泣いていたのにも関わらず、怒った顔でその場に立っていた。彼には訳が分からなかった。
「違うよ、考太くん。此処に来たのは私の意思だよ。考太くんのせいじゃない」
そして彼女は眉を下げて「ごめんね」と零した。
「勝手についてきたのは私たちだよ。だから考太くんが謝る事なんて無いよ。……でも、一」
夕日シホに再び涙が滲む。しかし彼女はそれを袖で荒っぽく拭うと力強く自分の頬を叩いた。パチンッ、良い音が鳴る。
「行こう」
叩いたことで彼女の両頬は赤く染まっていた。泣いていたのもあって鼻も赤くなっていた。しかし目は真剣そのものである。それにつられるように、巡士考太も徐々に自分を取り戻していく。彼女が手を握って来る。それに巡士考太は強く握り返す。
「行こう!」
「うん!」
二人は誓うように言い合うと、校舎へと走って行った。




