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ルール追加により、桃袋愛海の中に存在した威勢が風化してしまう。残酷なほどに生き生きとする様子を見せていた。ゲーム開始の歌を唄い始める双子。それを見て、桃袋愛海はいろんな物を飲み込んで後ろを向いた。
「いーろーはーに、ほーへーと!」
「うーえか、しーたか、まーんなか!!」
双子が交互に歌う。そして揃って「「さあ、どれ?」」と桃袋愛海に尋ねる。しかし、先ほどまで数秒で答えていた彼女が答えを渋った。悩んでいるのだ。
新しく追加されたルールにより、下手をすると負ける可能性が高い。例えば鬼が上と下を桃袋愛海が通れない、もしくは越せないほどの高さ、低さにしたらその時点で負けが決定である。しかしだからと言って真ん中を選んだとしても、それが無事通れるかどうか分からない。これは心理戦も兼ね備えているゲームなのだ。
回答に悩ませる桃袋愛海。すると双子の片割れが「はやく~」と急かす。彼女の心臓はバクバクと激しい音が鳴っていた。滲み出る汗を拭い去りながら、彼女は目を開いた。
「真ん中!」
彼女は答えを口にする。未だに心臓はバクバクと音が鳴る。振り返る足が震えていた。完全に彼女が前を向き直った時、彼女は鬼が作った光景に目を見開く。
双子は言う。
「「さあ、渡って見せてよ」」
それは真ん中に作られた一つの線。その光景に真ん中は存在していなかった。零に等しい。息を呑まされる桃袋愛海。これは完璧なる彼女の負けであった。彼女は歯を食いしばり、目の前の光景を憎々し気に睨みつけた。
そんな時、夕日シホの弟が声を張り上げた。
「こんなの反則だ!」
しかし双子は即座に「「違うよ」」と口にする。
「でもそれがルールだ」
「ルールは破れないよ」
その答えに、巡士考太も桃袋愛海、夕日シホも頷く。確かに、パッと見れば反則に見える行為。しかしルールが追加された今の状況ならば話は変わって来る。だからこそ、読みを間違えた桃袋愛海に敗因がある。けれど庇ってくれた夕日一の心に、彼女は救われたのだろう。彼女は微笑みを浮かべ「ありがとう」と口にした。
気付けば彼は先ほどまでの悔しさを取り払い、優しい顔を浮かべていた。それは子供に優しく接する保育者のような顔であった。桃袋愛海は言った。
「私の……、負けね」
潔く負けを認める大人な彼女。目を瞑り、肩を竦める。双子は「「残念だったね」」と口にする。
「ええ」
「じゃあ、罰ゲームだね」
「ね!」
元気のよい双子は、負けたことで傷心する桃袋愛海になど気にも留めずに告げてくる。そういえばそうだ。確かにこのゲームの序盤で双子は罰ゲームがあると言っていた。巡士考太はいったい何が起こるのであろうか、と首を傾げた。
双子がニコニコと酷く楽しそうに笑う。それが何だか気持ち悪く、不気味であった。
「「『愛海』お姉ちゃんは、『真ん中』だから真ん中を貰うね!」」
…………え?
巡士考太は一瞬、何が起こったのか分からなかった。しかし徐々に理解していく。
双子が揃って人差し指を差し向けた瞬間であった。桃袋愛海の胴体が真っ二つになったのだ。真っ赤な血しぶきを上げて左右に上と下が倒れる光景に、三人は唖然とするしか無かった。
クスクスクスクスクス、双子の笑いが嫌に耳についた。




