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――巡士考太は家を出た。それまでは良かった。しかし何故か彼は、丁度塾帰りの夕日シホに遭遇してしまった。しまった、と彼が焦っても後の祭り。夕日シホが目敏く彼を見つけ、睨みつけて来た。そしてまるで象のようにドシドシと歩きながら若干蒼褪めている巡士考太へ近づく。
「考太くん! これから暗くなるのに、何処行く気!?」
夕日シホの怒声が近距離で受け止める巡士考太。しかし彼は肩を竦めて素直に白状する。
「あー、学校」
「なんで!」
「忘れ物して……」
「なら明日でも平気でしょう!!」
ごもっともな言葉を吐かれてしまい、グゥの音も出なくなってしまう巡士考太。しかし彼は諦めることは出来ずに前を向く。
「いや、どうしても今日必要なんだ」
真剣な顔で言うと、夕日シホも少しだけ引き下がるような雰囲気になる。しかし諦めてはいないようであった。それもそうであろう。クラスメイトが行方不明となって三日と経っていないのだから。
「本当に今日必要なの?」
「あ、ああ」
「本当に?」
「うん」
「本当に本当?」
何度も念を押して聞いてくる夕日シホに辛抱強く頷き返す巡士考太。しかし半分、これ以上聞かれたら怒鳴り散らそうとしていた。しかし夕日シホは彼のその言葉を聞いて一言「じゃあ分かった」と口にした。良かった、そんな思いが零れたのも束の間であった。
夕日シホは再び口を開く。
「私もついて行く」
「はえ?!」
まさかの展開に巡士考太は目を丸くした。キョトンとする夕日シホ。しかしすぐに顔を赤くして「わ、私も忘れ物したから!」とどうみても嘘と見える嘘を口にする。
ワタワタ、と慌てる夕日シホに今度は巡士考太の方がキョトン、としてしまう。顔を赤くする夕日シホはそっぽを向いて「安心して!」と声を上げる。
「今日お母さんとお父さん、会社の会議でいつもより遅いの! だからバレっこないわ!!」
尋ねた訳でもないのに夕日シホは答える。きっと焦っているのであろう。目をグルグルとさせながら、一人挙動不審な行動を取る。そんな夕日シホを目にしながら、巡士考太は風船が割れたような弾け笑いを口にした。
「ぷ、あははは! なんだよ、お前!!」
「ち、ちょっと、笑わないでよ! もう!! 私が荷物置いて戻って来るまで絶対に居るのよ! 居なくなってたら容赦ないわよ!!」
ぷんぷん、と真っ赤な顔で怒る夕日シホに巡士考太は手を振って「りょーかい」と口にする。その言葉に安心をしながら、夕日シホはバタバタと駆け足で自宅へと向かい荷物を置きに行った。
巡士考太はそれを目にしながら手を振って送り出したのである。しかしその後、夕日シホの弟がついて来るとは思わず、再びキョトンとする巡士考太がいた。




