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正直、巡士考太はあの図書室の後はよく覚えていなかった。何となく地に足が付かない、浮ついた不思議な気持ちにさせられたからだ。謎の不快感というか、不完全燃焼というか……、しかしそれでいて双子の不気味な笑みや言動、最後には興味を引くような誘い文句。それら全てが彼の中でグルグルと埋めき合っていた。そんな彼の様子を窺い見るようにしていたのが隣に座る夕日シホであった。夕日シホは時折、先生の目を盗んでは「考太くん、大丈夫?」と声をかけていた。そして次には「もう、あの後どこに行ってたの?!」と小声で叱りつけてきた。しかし巡士考太は気にする事なく、ボー……と先生が呪文のように描く黒板を見つめていた。
――そうして授業は終わり、やがて下校の時刻へと変わった。
*
家に帰った巡士考太は、リビングの机の上に置かれてあるメモを見て静かに「ラッキー」と口にした。メモにはこう書かれてあった。
『考太へ
今日はお父さんもお母さんも夜勤なので帰ってきません。
戸締りはしっかりしてね。
ご飯は冷蔵庫の中です。
お母さんより』
この事から両親の帰りは朝だと決定された巡士考太は、まるで羽根を得たかのように軽やかな足取りで荷物を自分の部屋へと置いて行くことにした。
彼はランドセルを机に置き、嬉しそうに笑った。彼は六時には家を出よう、と思い至った。幾ら夏に向けて日が伸びようとも、五月はまだまだ日が落ちるのが早かった。
まだ薄暗い六時ならば、電灯の明かりもあり危なくないであろう。巡士考太は自分の計画ににんまりと笑い、少しだけ寝ようとベッドへと転がった。