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禁じられた遊び  作者: noll
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 放課後の校庭は何だかとても寂しかった。残っている者など少なく、皆、自分の家へと帰ってしまったようだ。

そんな中、両の手で数える程度の人数の中、一人の少年が誰の輪にもかかわらず、黙々と「なわとび」を操っていた。緑色の綺麗なゴム紐を振り上げ飛ぶ、そんな行動を無言でやる姿は酷く不気味であった。けれど、すぐに少年は何を思ったのかふと縄を回すのを止め、不貞腐れたような顔で地面を見つめた。

「なーんか、上手く出来ない」

 そうポツリと口零した言葉は、突如として吹かれた風にピュウッとかき消されていく。少年は「ああ~」という言葉にもならない呻き声を上げると、再び「なわとび」の持ち手を握りしめ飛び始める。今度は飛び間に交差を交える。

 ヒュンヒュン、というリズミカルな風を切る音が少年の耳に届く。けれどすぐに「いて!」という叫びが上がった。縄を放り投げ、耳を擦る。どうやら交差した時に縄が彼の耳に当たったようだ。少年は静かに「ッチ、まただ!」と愚痴り、顔を歪めた。

 サスサス、と耳を撫で痛みを和らげようとする少年。しかし、痛みはそう簡単に収まることは無く、少年は苛立ちで爆発寸前まで追いやられていった。

 そんな時だ、学校のチャイムが鳴り響く。

 キーンコーンカーンコーン、学校お決まりのチャイムが耳に入る。放課後に聞こえるチャイムが意味するのは、完全帰宅であった。すると少年は(……もう、そんな時間か)と素直な感想を思い浮かべた。気付けば日も暮れ、オレンジ色の太陽が何処か悲し気に山へと落ちていくのが目に入った。冷たい風がピュウゥッと吹く。少年はその風に当てられ、先ほどまで熱かった身体が急に冷めていくのを感じた。

それに少なからず疑問に思っていると、少年は何気なく周りを見渡し始めた。するとどうであろうか? 少年は、自分以外誰もそこにはいなかった事に気づいたのである。

少年はすぐさま「うっそ、(みんな帰るの)早くね!?」という驚愕の声を上げた。けれど、その問いかけに応える者は誰もおらず、少年は一人寂しく夕焼け空を見上げ、途方に暮れた。

――時に彼は、ふと自分の両袖が引かれていくのを密かに感じた。(なんだ?)と素直に疑問を抱き何気なく腕の先を辿れば、そこには同じ顔が二つあった。思わず少年は息を呑み、目の前の光景を凝視してしまう。しかしすぐにハッと我に返ったのか二つの顔を睨みつけた。そして咄嗟に振り払おうとするも、その力は強くビクともしなかった。

「な!?」

流石のコレには少年も驚きの声を上げ、固まってしまう。バクバクという心音が耳の奥から聞こえてくるような気が少年にはした。徐々に心音が落ち着きを取り戻すと、それに倣って心に余裕が生まれ、冷静になっていく。そうして自分を落ちつかせて、改めて腕の先を見れば、そこにはキョトンとした何気ない顔が二つあった。少年は「……はあ~!」という安心の吐息を吐き出し、風船が萎むようにして力を失っていく。そうして一安心をしていると、一つの謎が生まれ出た。改めて少年は二つの顔を見つめる。

「お前ら…………、なんで?」

 “()()にいるんだ”そう問いかけようとした時、少年は思わず口を結んだ。何故かその問いかけをしてはいけないような気がしたからだ。彼の目の端で夕日がどんどんと沈んでいく。薄暗さが増していく中、丸い顔をしていた二つの顔が急に笑顔を見せた。にっこり、というよりかはニヤニヤとした悪い顔が混じった笑顔だ。なんだかそれが不気味で、少年は思わず「何が可笑しいんだよ!?」と声を上げていた。

 少年の言葉に少なからず驚いたのか、二つは驚いた顔をして、今度はふわりと笑った。

「ねえ、遊ぼう!」

 二つのうち、一つの顔がそう口ずさんだ。まるで歌うように言うので少年の目は丸くなる。脈略のない唐突の誘い文句に少年は「はあ?」と素っ頓狂な声を上げた。そして少年が困惑の顔で置いて行かれる中で、もう一つもふわりと笑って「遊ぼう!」と少年の腕を引っ張る。その勢いに負け、思わず少年の足が一歩前へと動かされる。二つの同じ顔が笑顔で少年を見つめる中、目を白黒し訳が分からないといった顔をする少年は、しばし唸り声を上げたのちに大きな頷きを行った。

「うっし! やってやろうじゃねえか!」

 少年の叫びが校庭を響かせる。その答えにふわりと笑っていた二つが、今度は太陽のような輝かしい顔でキラキラといった風に目を輝かせて喜んだ。

「「やった~!」」

 そうして嬉しさを溢れ出す二つを少年は静かに眺め、そして二つの顔が落ち着いた時。

「……んで? 何して遊ぶんだ」

 少年は二つの顔を覗き込むようにして問いかける。すると、それに反応し二つの顔が最初にしたようなニヤニヤといった悪い笑みを携え始める。

……風が吹き込む。二つの間に突如として吹き込む突風に、少年は咄嗟に目を閉じた。砂で目がやられないように、という自己防衛であった。妙に生ぬるい風を浴びながら、その風が治まったのを肌で感じた少年が目を開かせたとき、目の前は二本の紐に釘づけにされた。

二つの顔が変わらずニヤニヤと笑う。なんだか少年はそれがどんどんと不気味に思えてきた。しかし自ら「遊ぼう」という問いかけに「良いよ」という肯定をしてしまった手前、それを「やっぱり無しで」と言葉の撤回をすることが出来なかった。

半ば(仕方ない)と思いながら、少年が諦めを胸に秘めていると、目の前の二つが揃って口を開いた。

「「目を瞑って、そして選んで!」」

 突然の事で少年は思わず「は?」と声を上げた。けれど返って来るのは同じ答え。もはや何も言うまい、と思った少年はヤケクソの域となり目を固く閉じた。

 すると、何かが風を切るような不思議な音が聞こえた。ヒュンヒュンヒュン、その何かが風を素早く切るような音を耳に入れていると、今度は歌が聞こえてきた。

「いーろーはーにー」

「ほーへーとー」

「「上か、下か、真ん中か!」」

 ……言い終わると同時に風の切る音が止み、歌が終わる。そして「さあ、選んで」という問いかけを投げられ、少年は何故か異様な胸の動悸に襲われた。少年は答えるのを躊躇われた。そうして胸の嫌な動機に嫌な焦りを感じ始めた。汗がにじみ出る。その気持ち悪さに少年はこの場をすぐにでも逃げ去りたい状況にさせられる。けれど。

「ねえ、選んで!」

「選んでよ!!」

 まるで責めるような声が少年に飛ぶ。少年は歯を食いしばり、必死に考え抜く。そうして、口を開かせ閉じた目を開けた時、少年は目の前の光景に唖然とした――。


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