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東方開拓都市イスカの民話集

灯無しの屋台

作者: 笹本廉太郎

ロイが酒場で安酒をちびちびと煽っているいつものような夜の事だ。

後から入ってきたエリックがどかっと隣の席に座り込み、聞いてもいないのにべらべらと話し出した。




イスカの街の中央市場から一本入ったところにあるノギス広場にはいつも沢山の屋台が軒を連ねる。

屋台の中身は肉や魚を焼いたのだの、その日とれた果物を絞ったジューススタンドなんかの簡単な食事がメインだ。

朝から晩まで、軽食気分で腹を満たせるそれはイスカの街でも人気のあるスポットで、朝は市場目当ての商人たちで、夜になると腹をすかせた冒険者や仕事を終えた職人なんかでごった返す。


また、この広場の屋台にの店先には魚油を灯したランプがぶら下がり、扱う食べ物の匂いと合わせてなんとも言えない雰囲気を醸し出すのも特徴であった。


さて、広場の南の入り口から見て左に7列目の奥の方、だいたい広場の西端に位置する場所にその屋台は現れるのだという。

あるのではない、現れるのである。

7列目にならぶ屋台は 豚串屋、どぶろくを出す酒屋、雑穀を秘伝の出しで煮込んだと評判の粥屋、生魚をこんがり焼いて塩を降ったのが自慢の焼き魚屋、この辺でとれる木の実を乾燥させてつまみにしたナッツ屋、小麦の薄い生地に果物なんかを巻いて出すクレープ屋と並んでいる。

一列で飯・酒・デザートまで揃うので、広場では人気のエリアなのだが、ある特定の日だけ魚屋とナッツ屋の間に屋台が現れるのだという。

屋台は広場の地面に固定されて動かせるはずはないのに、

魚屋の店主もナッツ屋の女将も各々4番目と5番目に屋台を出す権利を買っていると言っているのに、どうしたことかその間に黒い天幕で覆われ、ランプをともさない麺屋が出るらしい。


この麺屋、小麦の平麺をとろみのある野菜と牛や豚の骨を煮込んだ出汁に浸して食うのだが、天幕の中に人はおらず、火の灯っていない軒先のランプに灯をともし、代金を卓の上に置くと真っ暗で調理器具もなさそうな暗闇からスッと熱々の麺が出てくるのだそうな。


ただ、この麺味は絶品なのだがこれを食べると翌日何かしら怪我をするとの噂もある。

噂の始まりは冒険者ギルドの受付の男で、麺を食べた翌日にギルドに持ち込まれたジャイアントスコーピオンの解体中、うっかり毒針に触れて救護院送りになったとかいう話だった。

他にも、麺に舌鼓を打った町の伝令係が速駆け中に足をくじいただとか、鍛冶屋の親父が腕に火傷を負ったとかそういう噂が流れている。


ところで、冒険者は以外と飯にこだわるやつが多い。

普段が夜営だったり、いつ死ぬかわからない業種なのでことさらうまいものを食おうとするのだろう。

そんなやつらにこの話は丁度良すぎた。

アホと勇者の境目にいるような連中が味を確かめ、麺のジンクスに立ち向かおうとしてこぞって広場に押し寄せたのだ。

でも、誰も屋台を見つけられず、その間にもこの麺の味とジンクスは広まり続けた。


「で、だロイ。

俺に酒をおごるついでにジンクスがマジか試してみないかい?」


エリックはそういうと ドン! と音をたててどんぶりを卓の上においた。

どんぶりの中には、冷えて油の浮いた汁にでろでろに延びた麺が浮いている。

こいつ、先週洞窟から異郷の神像を持ち帰ったばかりでは?と思いエリックをよく見ると、上着のポケットから賭場のロゴの入った紙切れが覗く。

どうやら有り金スってきたらしい。またか。


「いや、ちょっと冷えたけど多分旨いって。」


食事の持ち込みをしたエリックを店の奥から店主がぎろりと睨む。

どうしても酒が飲みたいんだとエリックの目が訴える。

ロイはひとしきり悩んでから…


フォークで麺をからめとると、エリックに酒1杯分の小銭を叩きつけ、ゆっくりと麺を口に運んだ。











屋台から酒場まで旅をした麺は冷えてのびきり、とても不幸な味がした。



これがジンクスの不幸なのかは誰も知らない。

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