雨の檻
目の前の彼は、いつも少年だった。
物心ついた頃にはいつも一緒だった、隣の家の男の子。
同じ年の幼馴染み。
いつも前だけを向いていて、彼の周りはきらきらと眩しくて。
いつも一緒にいるのが当たり前で、
当たり前じゃなくてもよい気がしてきた学生時代、別々に過ごす時間も増えてきて、それでも家に帰れば居ることも多い…
お互いに側に居ることが当たり前で、空気のような存在。
「あ…、雪…」
ふと目を遣った窓の向こう、大粒の雪が地面を白く染め上げていた。
「マジかよ?! オレ今日夕方からバイト…!」
「多分…その頃には溶けるわ…道路には積もってないもの…」
「どおりで寒いわけだよなあ…つか今頃また雪とか!」
「春分の日なのにね…とんだ春の一日ね…」
窓の外が妙に明るかったのは、雪の白さだったのか、雨とばかり思っていたから、全く気づくはずもなく…。
「蒼太が来た時は降ってなかったの?」
「ん?俺? んー、普通に雨降ってた。雪になるとは思わなかったな」
カシャカシャと楽器を手入れする蒼太は、背を向けていてこっちを見ることはない。
時折会話する以外、響くのは、金属や布地のこすれる音と雨音くらい…とてもとても静かで、優しい時間。
窓の外に映る大粒の雪。
柔らかく、時に激しく、地面に叩きつけ、染め上げる、積もる雪。
いずれ雪は雨に変わる。
積もった雪は、溶け、染み込み、大地を潤していく…。
積もり、溶け、染み…
やがて何処へいくのだろうか…
いつも側に居た蒼太…
特に面白みのある人間でもない私に懐いてくれる。
優しさも積もる…。
積もり、溶け、染み…
居ることが当たり前で、空気で…
居ないことが考えられない…そんな存在…
「未琴、少し寝る。時間前に起こしてな」
目の前の彼は、まるで少年のように、きらきらしている。
でも、目の前の蒼太は、いつから少年でなくなったのだろう…