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あの頃の気持ちをもう一度  作者: わんこ
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プロローグ

「部長、これなんですか?」

目の前には会社の印鑑が押された一枚の紙。その一番上には一際目立つフォントで…

「見ての通り、異動命令だが?」

と書かれていた。


ははは。

………え?俺なんかした?


◇ ◇ ◇


「いってきます。」

そんな言葉を誰もいない部屋に残し、いつもと変わらない今日が始まる。

変わらない道、変わらない風景、変わらない仕事。

やる気に満ちていた気持ちは遠くもない昔に置き去りのまま。ただただ、課せられた事をこなす毎日。

営業の仕事につき3年目と言うこともあり慣れてはきたが、これといって前向きに取り組むこともなく、日々は過ぎていく。


(はぁ、今日も満員電車で始まって満員電車で終わるんだろうな…)

そんなことを思いながら駅への道を歩んでいく。

自分は何のために生きているんだか分からない。何がしたいんだか、何をするべきなんだか…。

電車に揺られながら約30分。職場の最寄り駅に着く。ここから歩いて10分もすれば勤務している会社だ。

うちの会社はまぁ、それなりに大きい。大企業とはいかないまでも、中の上くらいの規模はある。

福利もしっかりしているし、休みもまぁ、他に比べれば取れてる方だと思う。給料は営業成績にもよるが一人暮らしには充分だと思う。


そんなそこそこの会社のそこそこ玄関をくぐり、自分の部署へ行く。

「おぉ中嶋。おはよーさん。」

そう言ってデスクから手を挙げているのは石谷直己。

同期で入社し成績はうちの部署では常にトップ。うちの部署の平均点を上げてるやつだ。お陰でこっちは謎の説教をちょこちょこ受けるはめに…!

ただ残念。見てくれは眼鏡にそばかす、豊満なほっぺ!天は二物を与えなかった!(笑)

まぁ、それが客にとっては気楽に話せるみたいで成績がいい理由の1つになっている。実際、気さくな上気遣いもできる男女問わず人気者だ。

「今日ずいぶん遅かったな。なんかあったんか?」

席に座るやいなや話しかけてきた。

「いや、会社にいる時間を一秒でも少なくするために電車を一本遅らせただけだ。」

「んだよ、まだ部長にねちねち言われたの気にしてるのか?」

気にしてるわ!何時間食らったと思ってるんだよ!?

「も~やだ。も~辞める。」

「またまた、そんなこと言ってちゃっかり3年も続けてるんだからさ。これからもよろしくな!」

何てことないやり取りだが、こういった時間は結構好きだ。

「おっと、うわさの部長来たぞ。」

うちの部署は部長が来たら朝礼が始まる。特に決まったわけではないが暗黙の了解というやつだ。

「あぁ、みんなおはよう。早速で悪いんだが中嶋。あとで私の所に来てくれ。話があるんだ。」

「はぁ、分かりました。」

(まだねちり足りないの!?朝っぱらから最悪のスタートだわ。)

だがここは営業マン。鍛えぬかれた表情筋はちょっとやそっとのことではビクともしない。さすが俺。


朝礼が終わったので、早速ねちられに部長のところへ向かう。

「部長、話ってなんですか?」

「あぁ、なんだ、ここじゃちょっとな、場所を変えようか。」

なんだ?ずいぶんと歯切れが悪いな。ねちり過ぎたことを反省してんのか?

「はぁ、分かりました。じゃあ、ちょっと会議室空いてるか見てきます。」

「あぁ、頼む。その間に書類準備しておくから、空いてたら声かけてくれ。」

「分かりました。では失礼します。」

さては誰かにパワハラか何かでチクられたな?ざまー見やがれ。怒られるやつの気持ちが分かったか!

もちろん表情筋はビクともしない。


「部長、会議室空いてたんで取っておきました。」

「おぉ、分かった。今行く。」

部長と共に会議室に入る。

さあさあさあ!謝ってもらおうか~!言っちゃうよ?俺感情の赴くままに言いたいこと言っちゃうよ~?

「まぁ、まずは座りなさい。」

「はい。失礼します。」

きたきたきたー!こいよ。ほらこいや!

「早速なんだが、中嶋君。焼きまんじゅうは好きか?」

…………は?

「焼きまんじゅうって、あの団子みたいのに味噌つけて焼くあれですか?」

「そうそれだ。いや~、私はあれが好きでたまらないんだよ。」

「はぁ、まだ食べたことないんで分からないですけど…。」

「何だって?それはもったいない。是非食べて見てほしいんだがな。」

そう言いながら、部長は手持ちの書類の中から一枚の紙を取り出した。

「部長、これはなんですか?」

あれ?このシチュエーションはテレビのなかで見たことがあるような。

あれあれ?なんかよく分からない汗かいてきたぞ?

え?嘘だよね?あれは作り物の世界限定の産物だよね?まさかリアルにそんなことがあるわけ…

「見ての通り、異動命令だか?」

あった。

俺は今、非現実を味わっているらしい。だってあれだもん。面白いもん。

「ってなわけで、明日から勤務場所変わるからよろしく。いや~、正直こんなドラマみたいなことやるとは思わなかったわ~。なんか疲れたわ~。」

捨て台詞にしては、心の声丸出しの部長が部屋から出ていく。

俺は紙を見続けている。


ははは。

………え?俺なんかした?

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