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二次元泥棒

作者: 鯣 肴

 カチッ、ウィィィイィンンン!

 トトントタァァン、フゥゥゥゥンン!


 起動したPC。仕事帰りの俺は、趣味の小説カキカキならぬネット小説カタカタの為にPCの電源を入れ、


 ガギガチガチ、クリッ。

 カチカギキチ、クリッ。


 フォファン!


 立ち上がったPC。ウイルスソフト起動完了。よし、今日も、書き進めるぞ! 目標4500文字。三話分。これだけ書いて連投すれば、それなりの反応(感想:なんでもいいんで反響ください。そうすればいいか分からなくなりつつあります。)か、評価(ポイント:沢山ほしい。ざっくざくになる位に。)が欲しいところ。


 大丈夫、だってストックもある。だから今日三話投稿しても、トコロテン式にストックの数は減らずに一定。別に少し無理して出しちゃってもいい。ストック数は五十話程度。非常用に小話も五話程度ある。


 だけど油断なんてしない。だからってサボっていたらストックなんて知らないうちに無くなることを知っているから。


 更新の途切れが縁の途切れ。


 どれだけいい話(私の書ける話のレベルの中での比較ではだけど……。)を書こうとも、ブックマがつきやすくなっていた環境は、リセット……。


 継続は、話の面白さに勝る、らしい。


 だから今日も今日とて、サボらず積み上げる。夢のブックマ1000に向けて。その前に100いかないと、だけれども……。


 カチカチ。


 その為に立ちあげるブラウザ。


 ところが――――、チャラリン、チラリラリンラーン、ジラリン、ジラァリィラン! ジララジラリラリィィン~テヒィトゥティテヒィトゥティ! チララチラララ、チララチラララ、チララチラララ……――!


「ザンネンデスガ、オシラセデス。アナタガキノウマデニカキタメタオハナシ、『ばかわいいばかはいい なんかたくさん』。トッテモオイシソウデス。ワタシニハワカリマス。ヒロインガバカバッカリ、イヤニナルクライバカバッカリダトイウノニ、ソレガトチュウカラナニカクセニナッテクル。ダレモカレモガペッタンコナオンナノコデアルコトモ、トッテモスバラシイデスネ。バカツンデレ、バカクーデレ、バカツンドラ、バカS、バカネチネチ、バカカシコブリ。バカカワイガリ。バカアマアマオネエチャンロリ。アァ、フゥ……。コノセカイニハイッテ、ワタシをイジッテホシイクライデス。ロリジャナイノニロリィノガイイデスネ。コレカラモガンバッテクダサイ!」


 どういう訳か、突然現れた、顔の部分にモザイクの掛かった、奇術師か、魔術師? そんな風の2Dの解像度の低い、一昔前のポリゴン絵だが、かなり丁寧に作られたらしいそれがブラウザの代わりにウインドウを立ち上げ、現れていた。


 音声までついている。抑揚のない機械音声、性別もどちらよりか分からない感じのものである。『ワレワレハウチュウジンデアル』的な、感じの。


 右上に×印はない。


 だが、問題ない。キーボード入力でそんなの消してやればいいだけだ。クリックして、ALTキーに加え、F4キー。これで事足りる。


 いつでも終わらせらられるのだ。その後で、いつも唯突っ立ってるだけのウイルス○○さんに後で久々に仕事してもらえば何一つ不都合なんてない。






 さて、何て返事をしようか?


 これは悪戯かウイルス。どちらにせよ、何か変なプログラムを私のPCに入れられているのは確か。でも今のところ、変な感じはない。


 裏でウイルス○○さんに、少々早いが働き始めて貰うことにしたが、今のところ都合の悪い異常は何も出ていないのだから。


 それに、この文章……。もしかして、感想欄に書くつもりの内容だったのではないか? そんな気がする。こいつは間違い無く、人力で動いている。つまりこのプログラムの先にいるのは、私の作品『ばかわいいばかはいい なんかたくさん』の非常に貴重な熱い読者、ということだ。


 にしても、こいつ……。分かっている。私の伝えたいことを非常にその通りに受け取ってくれて、ハマってくれているようだ。ぺったんこが好きというところから、どんどんどんどん、素が、やばさが漏れ出してきているが……。Mだこいつは、それも小さい子に、大人ぶった中身の小さい感じの子に、甘やかしてもらいたかったり、罵ってもらいたかったり、……構って欲しがっている。


 ……。


 こいつ、何か、やばい。だが、思わず、そうそう、そこがいいのさ、と首を縦に振りそうになる。こいつのコメント、胸にくるのだ。


 カチカチカチ――――! 用意された入力欄に私は文章を打ち込んだ。


 【ありがとうございます。最近なかなか感想貰えないので、このような感想をいただけるとは幸いです。リビドーが漏れ出てきている感じが実にいいですね。これからも宜しくお願いします。それと、こういったイタズラは今度から止めて、感想は感想欄でお願いしますね! 貴方のその熱い思いは、ここだけのものにしておくのは勿体ないですからね。】


 ……。我ながら、何をやっている。打ち込んでいる。甘すぎだろう、甘々だ。寧ろ、私は、舞い上がっている。寧ろとかじゃない、舞い上がっている。


 まあでも、いいじゃないか。


 はは。


 あれだけ望んでいた感想が、こんな悪戯みたいな形であるとはいえ、貰えたのだ。だから、


【ということで、私は執筆に戻ります。】


 そう打ち込んで、その割り込みウインドウを閉じようとするが……、


 カタカタ、カタカタ、……。あれ……? 消え……ない……。






 大量のコメントウインドウが電子音声と共に浮かんでくる。


「オット、アナタ、ワタシノハナシキイテイマシタカ?」


「ケセマセンヨ」


「ワタシハ2Dドロボウ。ネライハアナタノショウセツデス。『ばかわいいばかはいい なんかたくさん』。コノサクヒンハヒジョウニスバラシイ。ズットズットヒタッテイタイ」


「ソシテヒトリジメシタイ」


「トイウコトデ、アナタガトウコウサイトニアゲテイルブンモ、マダコウカイシテナイブンモ、ワタシヒトリノモノトシテミタイノデス」


 そして、


「トイウコトデイタダキマス!」


 そう聞こえたかと思うとPCの電源が切れた。


 私は呆然とするしかなかった。






 やがて我にかえった私はPCを再び立ちあげる。


 カチッ、ウィィィイィンンン!

 トトントタァァン、フゥゥゥゥンン!


 ガギガチガチ、クリッ。

 カチカギキチ、クリッ。


 フォファン!


 一見以上は無い。


 ウイルス○○がちゃんと、あのウイルスを検知して消してくれていた。そうやってちゃんと消せるなら、起動の地点で阻害して欲しかったが……。まあでも、ウイルス○○さんが仕事してくれていたら、あの素晴らしい熱量の感想は得られなかっただろう。


 カチカチ。


 ブラウザを立ち上げるが、ここでも以上は無い。


 そして、投稿サイトを開くと――――私の渾身の連載中小説「ばかわいいばかはいい なんかたくさん」が、消えている、だと……。


 駄目だ。バックアップにも残っていない。それにまだ公開していなかった分も……。


 あぁぁあああああ、くそぉおおおおおおお! 公開済み80話12万字も、ストック分50話7万5千文字も、小話5話7500文字も、全部全部……、消えている……。


 何だこれは……、何だというのだ……、どうしろというのだ……。


 暫く椅子の上で、ぐるぐるぐるぐる、座る部分を回しながら、自分も回りながら、狼狽えて、


 もう、駄目だ、寝よう……。


 そのまま私は、()()()()()()()()()()()()()()()()眠りについ……た。






 !?


 目が覚めた。


 夢……かぁ。何だ。驚かせやがって……。


 椅子の上から倒れこんだなら、ベットの上はおかしい。今頃床の上だ。でも、椅子は倒れすらしていないし、この通り、私の体はベットの上。


 時間は?


 午後11時11分、か。


 そういえば、今日の分、まだ一話分も書いてない。


 やるか!


 カチッ、ウィィィイィンンン!

 トトントタァァン、フゥゥゥゥンン!


 ガギガチガチ、クリッ。

 カチカギキチ、クリッ。


 フォファン!


 立ち上がったPC。ウイルスソフト起動完了。よし、今日も、書き進めるぞ! 目標4500文字。三話分。そして、ストック分からところてん方式に三話分投稿。


 カチカチ。


 立ち上げるブラウザ。


 そして、開く小説投稿サイトのマイページ。


 あれ……?


 そこには『ばかわいいばかはいい なんかたくさん』なんて小説、痕跡すら無かった……。そして、あらゆる不祥事に対して包み隠さず対応し、その対応を公開する運営が、私の書いたその小説が盗まれたことについて、何一つ書いていなかった。


 ネット上のBBSやSNSで調べてみても、同じような話は全く上がってすら、微塵すらなかった……。


 何、だと……。


 私はPCをそっ閉じし、再び布団にダイブした。


 エタってやる、泥棒め、くそぅ……。


 結局、もう、僕にも事の真相は、分かりはしない……。

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[良い点] >公開済み80話12万字も、ストック分50話7万5千文字も、小話5話7500文字も、全部全部……、消えている……  私なら寝込みます(笑)リズムが良く、軽快な感じ。勢いもあるところが、いい…
[良い点] ミザリーよりも嫌なファンです。 やめてほしいですよね笑
[良い点] 面白かったです! 特に擬音がいいですね! 最近は静かなパソコンが多いので、解らない人もいるかもしれませんが、自分には臨場感のある再現でした。 [一言] たとえ、一人? でも、そこまで熱心…
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