07話 獣魔召喚で楽ちん旅
「君に決めたっ!!《魔獣召喚》!」
目前の地面というか地上の10センチほどの空中に光る魔法陣が展開する。直径3メートルほどの円に複雑な魔法言語が幾何学模様のようにビッシリと描かれている。淡い黄色の光が魔方陣より上がるとキラキラと光の粉が乱舞する。ひときわ眩しく発光したと思ったら、魔方陣が消え一匹の魔獣が現れる。
「Gueeee、Kyuu~~Gryu」 バサッ、バサッバッサバサ…
巨体を揺らし翼をはためかせ、威嚇するように後脚立ちになる、振り上げた前脚の鋭い爪が空を掻く。
『御主人~全然呼んでくんないからあたち寂しかったのなのヨ~』
見た目を裏切る気の抜けるセリフ……おおっと、飛びついて来たのは全長5メートルはあるグリフォンだった。不思議生物キターー!
『ご無沙汰なのヨ』
頭を寄せて来たと思ったら私の胸にスリスリ、あ、かわええ。
この世界のグリフォンはややずんぐりむっくりしてて可愛い。絵師さんの趣味かもしれないが、前世でやってたドラゴンズオンライン(ポーン三人連れてボッチでやってた、オンラインゲームの意味ないって)のグリフォンと比較すると前後に縮めてデフォルメした感じ。
飛行型従魔で人気がある(人気があるがテイム高難度)のは貴族令嬢はペガサス、貴族子息はワイバーンなどだ。グリフォン?身体は獅子で頭は鷲の彼らはペガサスよりさらに高難度である。ペガサスは飛行能力は高いが戦闘能力が低い、ワイバーンはブレスによる遠距離攻撃タイプ。グリフォンは飛行能力、魔法による遠距離攻撃、そして地上戦における物理攻撃力とかなり高ランクモンスターだったりする。ただ、うちの子ちょっとトリ頭な個体だったりする。
エレーニアがグリフォンをテイムできたのは幸運というか偶然というか。強いモンスターをテイムするには相手を瀕死の状態にしてから契約しなければならない。こちらの方が上であることを示すためだ。グリフォンを瀕死で寸止めするのは非常に難しい。私は去年の夏、ある事情である人とたまたま行った先でグリフォンに遭遇し、その番のグリフォンを狩ったら巣に卵が有りまして、どうしようか悩んでると孵化しちゃったの。目と目があった瞬間恋の花は咲かなかったがインプリンティング……懐かれたのでテイムしてみました。
でもグリフォンって頭は確かに鷲で羽もあるけど、身体はライオンなのに卵生なの?胎生じゃないの?と誰かに突っ込み入れたい。
『御主人ここどこ?学院違うなのヨ?わかんないけど御主人と一緒だからいいなのヨ、なでて、なでて~なのヨ』
っていいんかい!さすがトリ頭、ふむなでなでしちゃる。頭の羽毛はスベッスベ、喉元グリグリグリ。
『キャワ~~』
「レイディ、お手」
あ、この子の名前はレイディです。右前足をポス、と手のひらにのせる。ちゃんと爪は立てない。躾はバッチリ。
「お代わり」
左前足をポス。おお、かわええのう。わしゃわしゃわしゃと顔中もみくちゃにしちゃった。
「よーしよしよし」
『キャワワワ~~なのヨ、ぎゅーきゃーみゅ~~なのヨ』
ムツなゴロウさんのように撫でてやると意味はわからないが喜んでいる。さっきからレイディとの会話は念話だ。契約した時点で従魔と主にはパスが通る。実際は「Gauuu、Gyuryuryuryu~~」とか唸ってます。
『はふ~、御主人のなでなで最高なのヨ』
グリフォンなど高位のモンスターになると額に魔石の角が無いんだよ。高位の種族や、個体は角化した魔石は再度頭に戻ると言うか吸収されると言うか見えなくなる。解体すると頭蓋の前頭葉の部分に魔石があるけど。
これは魔石が弱点になるから高位のモンスターは魔石を隠せるよう進化したと言われている。モンスターは魔石を盗られると絶命する、力を失う、昏倒するなど、色々だが弱体化するのだ。
レイディは図体はデカイが中身は子供、というか甘えん坊である、両親をヤッタのはエレーニアなので多少引け目もあったせいで甘やかしてしまった。生後半年ともなれば身体はすでに大人に近いのだが、グリフォンに育てられていないから野生がないというか…今更仕方がないけど、可愛いしいいか。
インベントリから解体済みの角兎肉を出して見せると、お座りしてハッハッハッと短息呼吸、あ、ヨダレってもう犬じゃね?
「待て」
「Gyu~~」
悲しげに口を閉じると、うるうるの目を向ける。くっ、負けた…
「よし」
「Kyawa~~nn」
嬉しそうにひと鳴きしてから嘴で角兎肉を摘むとポイッて投げパックンと一飲み……
『御主人~、うまうま~なのヨ』
耳…はどこかよくわからないのでそのあたりを掻いてやる。ふかふか、もふもふ…ではないな。食べ終わったら頭をスリスリと擦り付けてくる。愛い奴じゃ。しかし踏ん張らないと油断すると吹っ飛ばされる。
「レイディ、西のウェイシア王国に行きたいの、乗せてくれる?」
『いいよ~、御主人と空のお散歩なのヨ、あたちにおまかせなのヨ』
騎乗用の鞍を付けるのが普通なんだけど、レイディは成長期終わって体格が決まるまで待ってたせいでまだ作ってないので直乗り。レイディは乗りやすいように屈んでくれた。翼のまえにまたがり首に手を回す。ディヴァン領の南の森沿いに飛んでから高度を上げ、エイデ辺境伯領に入るか。
馬車とかなら地均しされた街道が進みやすく、また街道周辺は領兵の巡回コースなので魔物が少なく安全なのだが、領境に門所があって入領にお金がかかる。特に身分証がないと割高だ。払ってもいいのだが国越えでさらに取られるんだよな。冒険者ギルドのカード持ってたらタダなんだけど。冒険者の移動は推奨されているから。
う~ん、貴族令嬢としては“それくらいの出費痛くもありませんわ、金を回すことも貴族の義務、入領費は税金でもあるのです、ここはちゃんと収めましょう”って思ってるけど前世庶民が出ししぶっている。“飛んで超えちゃえ~、空飛んだらワカンナイよ~”ってね。
その時になったら考えるか。とりあえず、『空の散歩』と洒落込みましょう。
グリフォンの離陸は基本助走がいる。基本と言う事は他にも方法があると言う事。それは魔法を用いた手法。グリフォンは風魔法が使える。優秀な個体は風の他にも雷、光、闇が使えるがレイディは今の所風と雷だけ、成長すれば上位の空間と重力を覚えるだろうが、そろそろもう1つ属性増えてもいいかな。う~ん、特訓するべきか?
羽ばたきながら風魔法で助走距離短縮、今回みたいな木の多い場所では羽ばたきにくいので私が重力魔法の《浮遊》でお手伝いをして飛び立つ。
この世界は1週間7日だが曜日の名前が違う。
日→光、月→風、火→火、水→水、木→土、金→雷、土→闇となっている。
これが基本の魔法属性でもあるのよね。そしてそれぞれに上位属性があり、
光→回復、風→空間、火→爆炎、水→氷雪、土→樹木、雷→重力、闇→時間となってる。
風の上位が空間とか光の上位が回復なのはいいが、雷の上位が重力とか闇の上位が時間とか納得いかないけど。ちなみにエレーニアちゃんは全属性使えます、秘密だけどね。インベントリが空間と時間の混合魔法ですから。まあ適性もないと使いこなせませんけど。適性がなくても訓練次第で少しは使えるようになることもある。
レイディも早く空間魔法と重力魔法使えるようになるといいね。(そもそもこの巨体が空を飛ぶのは翼の力だけでなく魔法の力も必要だ。じゃなんで助走が必要か、様式美というやつか?)
重力も使えるようになると飛行速度と距離が伸びるらしい。頑張ってレイディ。
『気持ちいい?御主人気持ちいいのなのヨ?』
「いいよ、レイディ」
『あたち、楽しいのなのヨ、御主人?』
私の反応が気になるのかしきりに話しかけてくる。愛い奴よ。かなりのスピードが出てますが風結界はってるのでそよ風程度にしか感じません。
道に迷ってもいけないので結局街道沿い…と言うか上空を飛んでおります。高所恐怖症ではないが鞍なしはひとつ間違えれば危険なのでいつでも《フローティングコントロール》を発動出来るように準備はしている。水面じゃないから、ココの下。
景色を眺めながら飛行を堪能したがそろそろ休憩をとってレイディを休ませよう。
馬車の10倍の速度だがレイディはまだ子供なので1時間毎に休憩が必要なのだ。無理する必要ない旅路だし。
レイディに降りるよう合図を送ると、人目のない森の中に降りられる場所を探す。
『あ、いいものみっけ、なのヨ』
ヒューーーーーーーッ、ドッゴーン! バキバキベキッ バッサバサ。
あ、角猪がレイディの前足に吹っ飛ばされて木に激突、木は耐えきれず折れた。その後何事も無かったように着地するレイディ。
レイディから降りて角猪を見ると首の骨が折れたようで即死だ。振り返るとレイディが“褒めて褒めて”って顔でこっちを見てる。
若い角猪なのかやや小さめの角猪だった。せっかくの獲物だし解体するか、いやそろそろ解体せずに食べることを覚えさせた方がいいかも。半分解体してインベントリに収納し残りの未解体の部分をレイディに示す。
「食べていいよ」
『御主人は?御主人も一緒に食べるなのヨ』
「ありがとう。でも私は今お腹すいてないから、レイディ貴方が全部食べていいのよ」
『あい、このまま食べるなのヨ?御主人』
目で『ムイムイしてちょーだい』と訴えるも『こういうのも食べれるようになりなさい』と促した。
レイディと自分を結界で包む。私は木の根元に座り水筒を取りしひとくち。木の筒をコルクで蓋をした水筒の中にレモン水を作って入れてある。当然魔法で冷やしてからインベントリに入れているので冷え冷えだ。
半分とは言えピレネー犬ほどの大きさの角猪を啄む姿はかなりグロかったりするので、見ながら何かを食べる気にはならないよ。
インベントリからレイディ用の器と布を出しておく、5リットルは入るだろう器に水を入れた。
『うまうま~なのヨ、御主人』
食べ終わってバサバサ翼をはためかせながらコッチにすり寄ってくるレイディ。嘴周りが凄いことになってるので、すかさず水をあげると嘴をツッコんっでバシャバシャ飲んでいる。しばらくすると満足したのか顔を上げた。
『いっぱいなのヨ~、御主人』
びしゃびしゃの嘴を布で拭いてやる。これをしないと血塗れの嘴ですりすりされてしまうのだ。解体せず食べさせるとスプラッタな光景になるなぁ。
器の中の赤くなった水は捨て食べカスと言うか残飯?は放置する。他の魔物が寄ってくるだろうが私達はこの場を離れるまで結界の中だから問題ない。放置すれば残飯も誰かの餌になり森に循環する。野営地でなければ問題ない。野営地でこれやると結界内が生臭いから埋める。エコだよこれもね。かたづけ邪魔臭いとかじゃないよー。
レイディの食休みを30分ほど取る為木に持たれて座ると、レイディは横に来て丸くなる。頭を撫でると気持ち良さげに眼を瞑った。さっきのスプラッタがなければ癒しタイムなんだが。
エイデ辺境伯領まであと1時間も飛べば到着する。もうすぐ領境の門所につくからそこから領都へ直接向かうか。領都は東のウエイシア国よりだから日暮れまでには無理かも。今日はどこかで夜営して明日領都につく感じかな。一応領都についたらパパンに手紙出しておくかな。
そんな感じで明日までの予定を決めそろそろ出発しようとレイディの頭ををトントンと叩く。
領境の少し手前で森に向かい、そのまま高度を上げ進む。件の門所が見えたが降りる場所を探すのも面倒くさくてやっぱりスルーした。
ディヴァン領から続くこの森は魔獣の住処だがエイデ辺境伯領に入ると生態がやや魔物寄りになる為、猟師もあまり近づかない。森の奥に湿地があり、リザードマンの住処になっているが、リザードマンは縄張りを侵さなければ襲ってこない。
オルフェリア王国の北にある魔の森は北部山脈にかけて魔物の巣窟だが、此方はそれほどでもない。パパンや歴代のディヴァン侯爵の努力の賜物である。
日暮れが近くなって来たので夜営できそうな場所を探す。魔法&魔道具のおかげで水も蒔きも探す必要ないから他の旅人と被らない場所で、魔物のいなさそうな所を《エリアサーチ》で探す。街道から森に少し入った所にそれなりの空き地を見つけた。
今日はレイディもいるので大きめに《ストーンウォール》で壁を作り《ウインドバリア》で囲む。
夕食は角猪のステーキと乾燥野菜を使ったスープと朝焼きたてをインベントリに入れたホカホカ柔らかナンもどきだ。レイディには角猪のブロック肉とたんまりと水を出しておく。
「いただきます」
手を合わせてしまうのは前世の記憶の所為、命に感謝することは良い風習だと思うの、人目がなければ変に思われないし。
そういえば前世の記憶が覚醒してからずっとボッチ飯ではないだろうか………
(馬車で移動中、騎士二人は馬車の外で食べた)
寂しくなんかないんだからねっ!レイディもいるんだからっ!
レイディにも「まて、よし」をする。食後の片付けが終わると《ピュリフィケイション》で身体を綺麗にする。お風呂に入りたいな。塔を出て今日で3日目、明日はエイデ辺境伯領都に着いたら風呂付の宿を探そう。
今日はテントは無しだ。レイディが添い寝をねだったので毛布にくるまりレイディの身体と羽の間に入りぬくぬくで寝る。《ウィンドバリア》のおかげでテントなくても変わらないのだがそこは女の子ですもん、気持ちの問題です。
レイディと寝るのは冬場は暖かくていいけど、夏は暑いかもしんない。魔法でクーリングしないといけないだろうな。
--- 距離と時速について ---
◇徒歩・時速5キロで1日8時間として40キロ/日
◇馬車・時速10キロで1日8時間として 80キロ/日
◇レイディ飛行時・時速100キロで1日5時間位が飛行限度、1時間毎に休憩必要 500キロ/日
(成長により連続飛行時間延長、速度UPする)
◆アオ村から領境(門所)まで約500キロ
◆領境(門所)からエイデ辺境伯領都まで約200キロ
◆エイデ辺境伯領都からウエイシア国境まで約100キロ
ーーー追加説明ーーー
モンスターの魔獣と魔物の違い
魔獣→ケモノタイプ
魔物→ヒトガタタイプ