32話 初ダンジョン探索を終えて
8月中にアップしたかったけど間に合わずです。
2017.09.03 誤字とゴブリンウォーリアーの耳の数修正。
2017.09.09 ゴブリンの耳38→35に修正。
リュートにはゴブリンナイトの戦利品の剣を渡した。コックローチのトドメを刺したあと、心置きなくポイできる。
氷漬けにしただけでは絶命しないとは、やはり【G】の生命力恐るべし!
「エルは休んでていいぞ」
そう言われたがさすがに見てるだけというのもよくないので、ミスリルの槍に風魔法を付与してトドメを刺すのを手伝うことにする。
風魔法を付与すると穂先に見えない風の刃が作られ槍が直接対象にふれないのだ。
アス君は討伐証明部位の触覚と魔石を取り出す係をかって出た。
「コックローチの外殻はよく燃えるので着火剤として需要があるしょうでしゅ」
全長70センチの【ブラウンウイングコックローチ】が20匹、全長1メートルの【ヒュージコックローチ】が30匹いたようだ。【キングコックローチ】はなんと2メートル。
そんな数のコックローチの外殻をインベントリに収納したくない。誰が着火剤にするの。そんなので熾した火で調理したものとかやだよ。
「じゃあ、俺達のマジックバックに分けて入れるか」
「しょうでしゅね」
「ちょぉっと待ったぁぁ」
相談してる2人に待ったをかける。インベントリの中を探して大きな麻袋を取り出した。
マジックバックに2人がコックローチの外殻をぎゅうぎゅう押し込むのは……やだ。
コックローチが入ってたバックを、入ってたバックおぉ…そのまま使い続けるなんてぇ、あ、考えただけでダメです。
麻袋に《空間拡張》を付与して2人に渡す。
「これ使って、これなら口が大きいから袋に接触せずに入れられるし、後で焼却するから」
「……コックローチに触れたバックも嫌なのか」
嫌です、ものすごく嫌です。たとえ中の品物同士が触れることがないとわかっていてもコックローチが入っていた鞄を2人が持っていると思うだけでも嫌です、御免こうむります!
2人はため息をついてから麻袋を受け取った。
そしてトドメ刺しと回収作業を開始する。
ガコッ
最後の【ヒュージコックローチ】にリュートがトドメを刺すと不意に大きな音がした。
見ると部屋の最奥の壁が一部、扉のように開いた。
「階段部屋に続く通路でしゅか?」
「みたいだな、さっさと戦利品回収してしまおう」
「あ、宝箱でしゅ!」
さっきまで何も無かったところにいかにもな宝箱が出現した。罠もなさそうだし開けることにする。
『ミスリルのロングソード』と『ミスリルのバックラー』『風の腕輪』が入っていた。
結構いいもの入ってるのね。あ、そろそろ吸収が始まったようだ、さっさと吸収されてしまえぃ。
リュートがジト目でこっちを見る。
「まあいい、全部回収しなくても。そろそろ行こうか」
「うん」
心を読まれた気がする。でもここから早く出たいからいい。
先頭からリュート、アス君、私、レイディの順で通路を進むと、いつもの階段部屋より倍以上広い空間に出た。その空間の真ん中には青く輝く【転移水晶柱】があった。
「どうする、先に進むか」
昼食後階層ボスに挑んだので今は午後3時前。
「探索期間は3日の予定と伝えてあるし、今回はこれで戻りましょう。なんだか疲れたもの」
そう、肉体的疲労ではなく精神的疲労がっ。そしてお風呂に入りたい!
「そうだな、俺も爪が折れてしまったから、この剣だけじゃこころもとないし、戻ろう」
【転移水晶柱】を使うのに万が一離れたり移動できなかったら嫌なのでレイディに乗った状態で【転移水晶柱】に触れる。すると頭の中で無機質な女性の声で告げられた。
『現在選択できる柱は1階層のみです。転移しますか?』
『「「「はい」」」なのヨ』
一瞬青い光に包まれた。周りを見るが変化がない……ことはない。後ろに大きな扉があり外から光が差し込んでいた。3日前に入ってきた入り口だ。
「無事帰還だな」
「お疲れ様」
「お疲れしゃまでしゅ」
「Gyua!」
こうして3人と1頭の初めてのダンジョンは終了した。皆怪我がなくてよかったよ。
係の人にカードを渡し帰還手続きを済ませた。
「ギルドに行って依頼の処理をするかい?」
「できれば、……お風呂に入りたい」
「じゃあ宿をとりましゅか?」
「だがそれだとこれを持ったままだぞ」
リュートが手にした麻袋を掲げてみせる。
「ギルド、ギルドに行きましょう、すぐ行きましょう」
後ろでクスリと笑う兄弟を置いて、冒険者ギルドに向かって早足で進んでいく。
「え~っと、Fランクのゴブリンは1匹で50ウル、Eランクのアーチャーやメイジが1匹80ウル、街より安いでしゅね」
「まあ、街中と違ってダンジョン内のモンスターは驚異度が低いから。スタンピートとかで溢れ出した場合は値段が上がるようだ」
「んー、どちらかといえばレベル上げの為に倒すのかな。ダンジョンだと後始末もらくだし」
「あとはウォーリアーも80ウルか。パーティだと一度に5件依頼受注できるんだが、ここは数の制限とかあるのかな、それだとハニービーで5件になる。ハニービーは針が素材として使えるから1匹100ウルだ」
ボードの前で自分たちが倒したモンスターの価格を確認して行く。
「いや、そこは先に【ブラウンウイングコックローチ】【ヒュージコックローチ】【キングコックローチ】でお願いします」
「……そうだったな」
「……そうでしゅね」
ここの依頼ボード、というより値段表のようなものだ。ダンジョン村のギルドはモンスター討伐は直接カウンターに討伐証明部位や素材を持って行き、依頼として処理をするようになっているようだ。
ダンジョンのモンスター討伐価格は街と比べて格段に安い。
討伐証明部位が素材として価値があればまだいいが、ゴブリンの様に素材なんてないと気持ち程度だね。ハニービーは討伐証明部位の針が素材になるので少し値がつく。
カウンターも受け付けというより全て買取カウンターで高さが低く、1つ1つのスペースが広い。
リュートがギルドカードを職員に差し出したので後ろから私もギルドカードを差し出す。
「願いします」
「冒険者ギルドエオカ支部【四季ダンジョン】出張所、担当のカールです。討伐証明部位と売る素材があれば一緒に出していただけますか」
いくつかの討伐証明部位はアス君にあらかじめ渡してある。だが今回は【コックローチ】優先なのでリュートが麻袋をカウンターに置く。
「結構な量があるんだがいいか」
そう言いながら麻袋の中からコックローチの外殻を出して行く。
「【キングコックローチ】の触覚と外殻が1体、【ブラウンウイングコックローチ】の触覚と外殻が17体、【ヒュージコックローチ】の触覚と外殻が26体だ」
数が少し少ないのは間に合わなかったのと潰れて回収できなかったのがあったから。
次にアス君がゴブリンの耳を袋ごと置く。
「ゴブリンの耳が35体、他のも出していいでしゅか?」
「えっと、まだあるんでしょうか?でしたら出していただいても構いません、通常の依頼ではなくダンジョンでは制限はありませんので」
許可が出たのでアス君は他の小袋も出して行く。
「ゴブリンウォーリアー13、アーチャー11、メイジ10,ナイト3でしゅ。ハニービーは針が53本とクイーンハニービーが1本」
担当のカールさんの口が開いた。コックローチの量がすごいのとハニービーの針が入った袋がでかいのでカウンターがいっぱいになってしまった。
周りがざわりざわざわと騒がしくなった。
「まじ?あの細っこい優男に小娘とガキンチョが」
「あの娘コ、ほら、グリフォン連れた…」
「あんな娘がグリフォンテイムって」
「おお、お近付きになりたい…」
なんかゾワってした。アス君が振り返って睨んでるし。
細っこい優男ってリュートのことか。今人化形態だからやや服がダボついてるんだよね。
「ちょっと…計算しますのでお待ちください」
「あ、まだある…「エル」なに、リュート」
職員を引き止めようとした時リュートに肩を掴まれた。
「街でも商業ギルドの方が買取価格が良かっただろう、向こうも見てこよう」
「あ、うん、そうだね、じゃあ、ちょっと商業ギルドに用事があるので後できます」
「わかりました、ではこれを」
差し出された3番と書かれた札をもらい、隣の商業ギルドに行事にした。
ダンジョン素材の買取価格一覧があれば見せてもらおう。ダンジョン村の冒険者ギルドの買取価格は街より安いから、多分商業ギルドも街より安いだろうけど、冒険者ギルドよりましな気がする。どうせインベントリの中だから街まで戻って売ってもいい気がするけど。
ここの商業ギルドも門番的な人はいない。
ドアを開けて入ると割と人がいた。商人が買い付けに来ているのだろう。
受付嬢に商業ギルドカードを渡しつつ声をかける。
「ダンジョン素材の買取価格表とかありませんか?」
「そちらのホールの壁面に提示しております」
おりょ、目の前でした。
おお、素材品名の横に木札の値札が桁ごとに変更できるようになってるのか。値段の変動に対応できるようになっててすごい。
「オネーしゃん、ウォールナットトレントが1本10万ウルもしましゅよ」
「本当だ。チェリートレントでも8万アップルトレントは9万ウルもするのか」
「トレント多めに伐採したし売っちゃおうか」
トレントがものすごい高値で取引されている。結構な本数とってきたんだよね。
「あんた、そこの嬢ちゃん。チェリートレントがあるのか、ならワシに売ってくれんか?」
「いや、お嬢さん、わしは8万2千だすぞ」
「見せてくれんかトレント、良いものだったらもっと出すぞ」
商人のおじさん達がわらわら寄ってきた。
リュートが前に出て盾になって遮ってくれたが、勢いがすごくてアス君がしがみついてきた。
トレントは大きいので持って帰って来るのが大変だからかな?
チェリーやアップルとかこのスモークチップシリーズトレント(勝手に命名)は【四季ダンジョン】の固有種で人気があるらしい。
なんかホールが大変なことになってる。
冒険者ギルドの討伐は1体20メルなのに。移動しないモンスターだから安いんだよ、ダンジョンから出て来ることないからね。
「なんの騒ぎだ、これは」
「「「あ、所長」」」
突然現れた50代の男性、在りし日のショーン・コ◯リーのようなシブメンだ。
受付嬢が説明を買って出た。
「こちらのお嬢さんがトレントを売りに出すとおっしゃったもので皆さんが…」
シブメンが近寄ってきた。
「商業ギルド【四季ダンジョン】出張所、所長のコナリーだ。あんた冒険者か?本当にトレントを持ってるのか?」
所長のコナリーさんは疑わしそうに私をみるので、2枚のギルドカードを見せる。
「冒険者で商人ですよ。お疑いならトレントの現物お見せしますが」
顎に手をあて考えるコナリーさん、シブメンだ。
「わかった、じゃあ現物倉庫に持ってきてくれ。ああ、エル?といったか?そっちがよければ競り形式で売らないか、その方がいい値がつくぞ」
「初値をこちらでつけていいなら」
「解った、どれくらいで運び込める?」
「今すぐにでも」
「ふっ、聞いた通りだ、トレントが欲しいやつは競りの参加手続きをして1時間後に2号倉庫に集合してくれ」
「「おお」」「「解った」」
集まっていたおじさんたちがバラバラと散って行く。ムウ、できる男かも。
「エル、付いてきてくれ」
コナリーさんは奥の廊下をズンズン進んで行くので、慌てて3人で付いて行く。一番奥の扉を開けるとイチニにもあった買取カウンターだ。
「ハッシュ、ちょっと一緒に来てくれ」
「なんだコナリー」
ハッシュと呼ばれた30歳後半くらいの男性が現れた。
「こいつは査定人のハッシュだ。ハッシュ、このお嬢さんがトレントを競りに出す、2号倉庫に行くぞ」
「へ、こんなお嬢さんがトレントだって、冗談…じゃねえのか」
ハッシュさんに向かってニッコリ微笑む。
「見かけで判断しゅるのは失礼でしゅ」
アス君がハッシュさんを睨んでるし、リュートも微妙に殺気を放ってる。いやリュートの対象はハッシュさんでなくコナリーさんにむいているような?
「なんかボウズ達もただもんじゃなさそうだ。さすが獣人と言ったところから」
ははっとコナリーさんが笑い、2人の頭を乱暴になでた。嫌そうにするアス君が可愛いっす。
リュートはパシンと手を払いのける。
「子供扱いはやめてくれ」
コナリーさんとリュートの間に立ってオロオロしてしまった。どうしたのリュート?なんだか不機嫌?
「おい、こっちだ」
ちょうどいいタイミングで通路を奥の扉を開けてハッシュさんが呼んだ。
「リュート?行こう?」
不安そうな顔をしてしまったのか、一瞬リュートが私の顔を見て眉をひそめ「ゴメン」と小さく呟く。
「悪かったな」
コナリーさんはリュートにそう言ってハッシュさんの方に歩いて行った。
「エルは年上がこ…いやなんでもない、行こう」
2号倉庫と呼ばれた場所はテニスコートほどに広い。トレントは高さ5~8メートルはあるからな。
「何本くらいあるんだ?そこの扉が外と繋がってる。荷車ごと入るからこの辺のど真ん中に置いてくれ」
ハッシュさんが真ん中をさして言う。
「幹はそことして、腕枝はどうします?」
「腕枝は腕枝だけ固めて並べてくれ」
「わかりました」
倉庫の真ん中にいくとハッシュさんとコネリーさんが変な顔をする。ああ、外に取りに行くと思ってるのね。マジックバックから取り出すふりをして先ずチェリーから出して行く。10本あるし半分出すかな?
ズゥン……ズゥン……ズゥン…
「お、おい、一体何本あるんだ?っていうかそのマジックバックどんだけ入ってるんだよ!」
ハッシュさんが慌てたように言う。
あ~、そっか。一度に出すと値崩れするかなぁ。
リュートはコナリーさんに嫉妬か?




