27話 蟲蟲大行進
「アス君、3階層に出る魔物はナニかな」
「【ブルークロウラー】と【グリーンクロウラー】ごく稀にレア種の【ゴールデンクロウラー】でしゅ」
図鑑のページを広げて見せてくれる。青虫、緑虫……芋虫ですね。
体長1メートルから大きなもので3メートル、木の上から下を通る獲物に向かって落ちて来る事がある。
糸を吐いて獲物を搦めとる。
レア種の【ゴールデンクロウラー】の糸はシルクのように滑らかで且つ防刃性能があり高額で取引される。討伐証明部位は角のような触角、素材として使えるのは糸袋か。
がさりと下生えをかき分けてゴブリンが顔を出す。春階層では全階層にいるゴブリンですが2、3匹ならリュート1人で瞬殺します。
「チョコチョコ鬱陶シイナ」
じっと爪の刃を見つめるリュート。流石に刃こぼれが見られるようだ。一応毎晩手入れはしてるんだけど鉄だからねえ。街に戻ったらもう少し丈夫な黒鉄製あたりあれば買ったげよう。
少し進むと桜に似た薄いピンクの花をつけた木があった。蕾は花びらより濃いめの薄紅色が綺麗だ。
「オネーしゃん、あれは【アップルトレント】でしゅ」
またまた図鑑を広げて見せてくれるアス君。其処には林檎の木に枝の鼻とうろの目がついた【アップルトレント】の絵。えーっと【チェリートレント】にそっくりなんですが?
焚き木にすると良い香り、肉を燻すと美味しい燻製ができる、とな。説明文も同じやんけ。まあチップ変えたら色々な燻製できるか。
《エリアサーチ》で木と【アップルトレント】を見分けながら伐採しませう。
【アップルトレント】は近づくと枝を鞭の様にしならせて攻撃して来る。以下同文…
【チェリートレント】より少なめで6本ほど伐採しました。
伐採中にもぞもぞ這い出てきた【ブルークロウラー】はレイディが「バチュン、バチュン」と潰してましたね。まあ、頭じゃなく胴狙ってくれたので触角と糸袋は問題なく回収出来ました。
「エル!」
突然リュートがウエストに腕を回し、抱き抱えられたと思ったら後ろに跳躍する。
「え、ナニ?」
咄嗟のことで抱き抱えられたままボーゼンとしていると、さっきまで私が立っていた場所がボコッと陥没した。
「落シ穴のヨウダ、大丈夫カ?」
背後から抱き締められたまま耳元で尋ねる声が耳をくすぐる。
「あ、うん、ありがと、だ、大丈夫」
走り寄るアス君が心配そうに見上げてくる。
「大丈夫でしゅか、顔赤いでしゅ」
い、いやこれは、リュートぉ〜お願いだから耳元で囁かないで下さい。
わたわたするエルを見て、ふっと微笑むリュートをアスが驚きの表情でみた。
(兄様が笑ってる。娼館にいた時みたいなウソの笑顔じゃない、本当の笑顔)
半獣形態でも同族のアスには兄の微妙な表情の違いは見分けられる。
娼館から逃げ出した後も呪いの所為でいつも辛そうにしていたのに、自分を安心させるため無理矢理笑おうと歪んだ笑みを向けたリュート。
(お姉さん、ありがと)
「さ、行きましょう!」
「オネーしゃん、そっちじゃないでしゅよ」
進行方向を90度ほど方向を間違えて進み出すエルにアス君が声をかけた。
3人と1頭は現れる各種クロウラーをスパッと両断、トスッと一撃ち、バシュッと一潰ししながら進んで行く。
進行方向に周りより一回り大きな木があった。雰囲気は 某電機メーカーCMのモンキーポッドのような木だ。風もないのに枝が揺れて……ぞわってした。よく見ればモンキーじゃなくクロウラーの木でした。
枝にいっぱい青や緑の芋虫が…毛虫よりマシか?
「あ、オネーしゃん、あしょこ金色」
アス君の指差す方向に金色の芋虫、なんか他よりでかい気がする。
【ゴールデンクロウラー】は欲しいが、周りの青と緑が邪魔だ。遠距離攻撃でピンポイントで金をやったとしても回収する為に木の下に行くともれなく青と緑が落ちてくるだろう。
「アレ位、問題ナク倒セルト思ウ」
「僕も頑張りましゅ」
「Gyawa!」『あたちがんばるなのヨ』
なんて逞しいの、うちの子達。立派になってヨヨヨ。
では作戦たてましょう。
まず私が木の周りにC型に幅2メートル深さ1メートルの溝を掘ります。一箇所だけ通り道を残し、そこからレイディに【クロウラー】を釣って来てもらう。そこで出てきた【クロウラー】をリュートとレイディにやっつけてもらう。
私とアス君は溝の外から遠距離攻撃で仕留めましょう。
「何か質問は?」
首を横に振る二人。
「じゃあ行くね《溝掘り》」
ゴゴゴゴゴゴ、ボコボコンと地面が凹んで行くのを眺めていると、綺麗にC型に溝ができた。
「じゃあ位置について、レイディお願いね」
「Gyua!」
レイディがトットットと徐々にスピードをあげ、木の周りをぐるっと一周すると、ボトボトッ、ボトンと【クロウラー】が落ちて来た。レイディの足の速さに追い付けず地面に落ちていく。
落ちた【クロウラー】達はモゾモゾと這いながらレイディを追ってくる。こうして樹海が広がっゲフンゲフン。「殺さないで〜〜」とか言いたくなった。ハッいかんいかん。
アス君はクロスボウを放つと次のボルトをセットしつつ《ウインドカッター》を唱える。
私は《氷の矢》で木の上の【クロウラー】を落としつつ(落ちた時には凍りついいている)ミスリルの槍で戦士の武技《スラッシュ》で見えない刃を飛ばして這い寄る蟲を切りとばす。
リュートは両手の爪で無双してました。
そしてレイディは溝の内側で爪攻撃乱舞。結構いい感じ、これならすぐ終わるかなって思った途端レイディが鳴き声をあげた。
「Gyuwawaa!」
【クロウラー】達が一斉に糸を吐き出した。レイディは間一髪糸を避け溝を飛び越える。
次々に吐き出される糸は溝に落ちこちら側には届かな…ありゃ、余裕で届くじゃん。4、5匹集まって溝に向かって糸を吐き出す。見る間に糸は重なり合い橋のようになっていく。すると今まで動きを見せなかった【ゴールデンクロウラー】が枝からぼとりと落ちた。
【ゴールデンクロウラー】の糸は他より丈夫な筈。射程も長く溝のこちら側に余裕で届き、他のクロウラーの糸を補強するように重ねて吐き出した。完全に橋と化した糸の上をモゾモゾ這い進み、その後ろを他のクロウラーもついてくる。このまま渡られればまずい。
「範囲魔法行くから下がって」
みんなに指示を出すと溝から少し離れた位置で構える。
「《凍りつく吹雪》」
極寒の風とともに氷の礫が【クロウラー】達めがけて吹き抜けると、ピキピキッと凍りつきはじめる。
氷の礫自体に殺傷力はないが【クロウラー】の体表面に張り付きしっかりと凍らせた。
【クロウラー】達はあっという間に凍りつき動かなくなるがこの時点では死んでないのでみんなでトドメを刺す必要がある。すでに20匹は倒していたので残り30匹ほどだろうか。凍らせたせいで剣が滑る為ザクザクと突き刺していく。全部で50匹はいたが、時間にしては10分ほどに戦闘だった。解体する前にこの氷溶かさないとな。
「オネーしゃん!」
アス君に呼ばれ振り向くと【ゴールデンクロウラー】からミシリ、ミシッと音がする。青や緑より一回り以上大きいから上手く凍らなかったのかも。
槍を構え近付こうとした時、【ゴールデンクロウラー】の背中がぱかりと割れた。
出て来たのは茶色と金色の斑らの羽根を持った蛾【ビックモス】だった。
「芋虫の次は蛹だろ…」
私のツッコミはリュートの一撃に紛れ誰にも聞こえなかったようだ。
羽化したばかりで動きの鈍いうちに一刀両断とはリュートも容赦ないです。まあ鱗粉に毒があるので早々屠ったのは間違いじゃないですが。
アス君が図鑑をめくり
「これは【ゴールデンビックモしゅ】でしゅね、口吻が討伐証明部位みたいでしゅ。羽根から採れる鱗粉は毒でしゅが薬の材料になるみたい」
ではサクッと解体して先に進もう。
降下階段の手前には子ボスは【ジャイアントモス】だったので木にたかっているところを遠距離からアス君と《ファイヤーボール》で燃やしました。飛んでないけど火にいる春の虫、お粗末!
4階層の階段部屋でお昼にする。お昼は作り置きのサラダとオムライス。チューブ入りのケチャップがあればハートを描きながら《おいしくなーれ》の呪文唱えるのにぃ。はっ、メイド衣装は私よりアス君の方が似合いそう………ふっ。この妄想で飯は3杯はイケ、げふんげふん。
何事もなく昼食が終わり食休みです。アス君は熱心に図鑑を見ていた。
「一緒に見せてね」とアス君を膝の上に乗せて後ろから抱き込む!イヤッホウーイ!コレしたかったんだよね~。アス君は抱き上げた時びっくり顔でしたが素直に膝上に収まりました。ほんのり赤らんだ頬がまた可愛い。
「4階しょうに出るのは【レッドセンチピード】や【ビックマンティス】で小ボスは【フォーブレードマンティス】でしゅね。」
春階層のモンスターって虫ばっかりだなぁ。虫系は素材あんまり良いのないんだよね。しかも大量に現れるし。
【レッドセンチピード】は体長1~2メートルのムカデ、討伐証明部位は牙。この牙に噛まれるとビックリするくらい腫れる、あと痒い…まあ麻痺とか致死毒よりましか。使える素材はない。
【ビックマンティス】は体長1.5メートル程の蟷螂。討伐証明部位は右鎌。蟷螂系や蜻蛉系の羽は薄くてもそれなりに丈夫なのでガラスがわりに窓に使用される。鎌は武器に加工されることもあるが余り丈夫ではない為、どちらかと言えば使い捨ての農作業用だ。
【フォーブレードマンティス】は体長2メートルでその名の通り鎌が4本ある。討伐証明部位は右の大きい鎌。
「【ウォールナットトレント】もいましゅよ。」
なんなんでしょう、このスモークウッドな品揃えのトレントは。桜、林檎、胡桃ときたらあとは楢か橅の木か?意外性をついてウイスキー樽…は無理だな。
「え~っと、5階しょうで採れる『除虫草』で作った『除虫香』を使うと虫系モンしゅターが寄って来にくくなるんだって」
虫系モンスター避けの『除虫香』の調合方法がふっと浮かんだ。しかし香炉持ってないから作っても………ってやっぱりインベントリにあったか。
まあ『香』系は他にもモンスター避けの『魔除香』や反対にモンスター寄せの『魔寄香』、アンデット避けの『幽除香』とかもあるしな。
しかし5階層で採れるってとこにイケズを感じる。6階層から夏階層なんだよね。どうも夏階層は【昆蟲層】ではなく【爬虫類層】のようだ。
今回は2人の実戦経験積むのとステ上げ目的もあるから倒しながら進むけど、次に採取目的で来るとき用に『除虫草』は採取しておこう。
5階層はボス階層なのでボスについて書いてあるかな?
「5階しょうは【レッしゃースパイダー】や【ポイズンタランチュラ】でしゅね。あとは【オークトレント】」
はい、来ました、楢の木ですね。
どんなけ燻製作らせたいんですか?肉も魚もオッケーですね。
ああ、プロセスチーズがあれば燻製チーズ作れるな。鮭は無理だが鱒は手に入るかな。
【レッサースパイダー】は巣を貼るタイプ【ポイズンタランチュラ】はどちらかと言えば蠅とり蜘蛛タイプで巣を張らずピョンピョン飛んで襲ってくるやつだ。うん、どっちも嫌だ、カンダタではないので助けない。
ボスはランダムで虫系かトレント系、もしくはゴブリンキングが出るようだ。できればトレント系が良いな、素材採れそうだし。
さて、5階層までの予習は終了、そろそろ出発しますか。
3階層の獲得品
ヒール草11本、マナ草28本、リポ草34本、ゴブリンの耳5、アップルトレントの鼻枝6本、アップルトレント6本、ブルークロウラーの触角19本、ブルークロウラーの糸袋19個、グリーンクロウラーの触角33本、グリーンクロウラーの糸袋33個、ゴールデンクロウラーの触角1本、ゴールデンビックモスの口吻1個、ゴールデンビックモスの羽1対、ビックモスの口吻1個(羽は燃えた)
魔石
ゴブリン5個、アップルトレント6個、ブルークロウラー19個、グリーンクロウラー33個、ゴールデンビックモス1個、ビックモス1個




