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21話 バレてました

 

 

 

 次は商業ギルドに行こう。アルカさんに場所を教えてもらった。

 ここもイチニより立派だ。護衛は立って無いので扉を開けて入る。スケールは大きいが造りは似たようなものだ。

 受付のお姉さんにポーター登録について尋ねると1番ドアから入るように言われた。

 中には恰幅の良いおじさん職員がいた。


「いやあ、最近はポーター登録せずモグリが多くてねえ、困ってるんですよ」


 なんて言ってた。ポーター登録料は年2千ウル、雇主との売買資格が得られる。

 ポーションや食料を余分に持ち込みチームに売ったりするのね。

 あとはポーターも身を守る為戦うこともあるので素材を得ることもあるが、冒険者では無いので素材の売り先は商業ギルドになる。

 商業ギルドでの買取税率は10%になる。冒険者が売却金を分ける事もあるがどちらも10%なので損得は無い。

 ちなみにギルドメンバー以外の一般の税率は20%と割高だ。


 アス君が用紙に記入するところを後ろから覗き込む。

 リュートが問題なかったのアス君も判定球はクリアできると思うのだけど、終わるまではちょっと心配。

 街に入る時は荷馬車に隠れていたからチェックは受けてないので二人もその辺りは知らない。


 アス君は判定球に手を置く、青い光が見えた。自分が息を止めていたことに気付き大きく吐きだす。

 ああ、良かった取り越し苦労ですんだよ。


 あのスラムでの生活で盗みをしなかった二人はえらい、凄いよ。




 名前:アス・年齢:8歳

 出身地:シーデ村、北方連合国

 拠点(登録地):ウェイシア王国、クロード領、エオカ支部

 

 ポーター(ウェイシア王国) 登録:春の第二月


 賞罰:ー




 無事登録完了です。

 嬉しそうにギルドカードをみるアス君の頭を撫でるとにっこり微笑んでくれた。く~っ、ゴチです。


 ついでに自分の5級登録もやっとくか、2国目は半額の5千ウルですんだよ。

 もし3ヶ月以内に4級登録するなら1万5千引いて3万5千ウルで出来ると。

 ふーん、まあ必要ないな。




 名前:エル・年齢:16歳

 出身地:ディヴァン領、オルフェリア王国

 拠点(登録地):オルフェリア王国、デュナン領、イチニ支部

 

 5級(オルフェリア王国) 登録:春の第二月

 5級(ウェイシア王国)登録:春の第二月


 賞罰:ー




 せっかくだからインベントリの中の色々を売ることにする。

 グリーンウルフとか、角熊の肉とか……角熊皮のこと思い出したらムカついてきた。

 木造でしかもだいぶ朽ちたボロ家屋の下敷き程度なら怪我はひどくて骨折くらいだと思う。

 あのオッさんは死んでないよ、判定球青かったもん。


 去年の夏にママンと行ったダンジョン素材もいくらか出したので100万ウルほどになった。

 二人のびっくりお目々が可愛かったよ。


 さて、お昼を食べたら午後は勉強の時間にしましょう。机と椅子いるな、筆記用具も。食後に買い物に行こう。



 お昼は屋台になりました。二人は前を通るたびいつか食べるんだと話していたらしい。そんなこと聞いちゃうとオネーサン屋台ごと買いたくなるでしょうが、もう。

 串肉を頬張る姿も可愛かったよ。アス君の口の周りについたタレを拭いてあげました。ゴチです。





 宿に帰ったら早速アス君に魔法の勉強の為にノートとペン、鉛筆はないのでつけペンになる。

 文字の練習用に四角いボードに砂を貼って使うのもあるけどアス君字はかけるから必要なし。


 アス君には【初歩の魔法第1巻】を読んでもらう。これはエレーニアが5歳の時にもらった本。教科書系、ガッツリインベントリに入ったままです。


 リュートは裏庭で爪の扱いを練習をすると出て行ってしまった。


 何気なく窓の外を見るとリュートが見えた。

 なんというか、空手の型の様な感じで突きやら蹴りやらを放つ。

 流れる様に繰り出される所作は舞踏の様でもありちょっと見とれてしまった。

 ただ、10分もすると疲れたのか速度が落ちてきた。

 国境を越えたのが3ヶ月前で、それから獣形態でもほとんど動けなかったんだから無理しないほうがいいのに。


 少し休憩してから再開した。右手突きから、振り上げ、左手を右上から斜め下、左から横薙ぎ右下から斜め上、身体を回転させながら切り上げ、蹴りを放つ。

 着地と同時に片膝をつき肩で息をするリュート。やっぱり無理してる。もう。


 不意にリュートが振り向きこちらを見上げ目があった。


 ………ふっ


 !


 ちょ、爽やかに微笑まれてしまいました。思わず回れ右をして窓から離れる。


 人形態になったのは一瞬で、しかも裸だったことに気をとられ顔はちゃんと見てないけど、絶対イケメンだと思う。

 虎顔でもキリッとしててイケメンだけど。


 店でナンバーワンだったらしいし。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 1時間があっという間に過ぎた。

 身体が思う様に動かない。

 エルがくれた魔道具のおかげで呪が抑えられ、半獣形態なら十分動けると思ったが甘かった。

 ここ数ヶ月殆ど動いていなかったので筋力が落ちている。


 裏庭にある井戸で頭から水をかぶる、そのままブルブルと頭を降って水を飛ばす。


 たまたま出会った人族の少女、初めて会ったのにどこか懐かしさを感じた。

 本当なら人族なんて信用できない、仕事以外には近づく事もしない様にしていたのに、彼女には気を許してしまった。

 まるでもう何年も付き合いのあった幼馴染の様に。

 アスもたった1日ですっかり懐いてしまった。


 人間(帝国)は俺たちを攫い奴隷にした。今度は俺達が人間(エル)を利用してやる。

 最初はそんな風に思ったが、彼女の近くにいると心が凪いで温かくなる。

 それにちょっとお人好しすぎて吃驚する。

 放っておくと騙されて売り飛ばされるんじゃないか(美人だしスタイルもいいし)と思ってしまう。

 俺はどうしたいんだろう?

 娼館から逃げ出して半年、アスに辛い思いをさせてきた。

 エルを信用してもいいだろうか。

 楽しそうにするアス。エルに裏切られたらアスは?

 俺が決めなければ。

 アスを連れてシーデ村に戻る……

 戻りたいのか俺は。


 閉鎖的な獣人族の村に。

 毛色の違う俺達兄弟を遠回しに見てる村人の住む村に?

 アスには言わなかったが親父は賊と戦い殺された。俺たちを逃す時間を作る為に。

 村の連中は助けてくれなかった。それどころか俺達を囮にした。

 唯一優しかったクレル(隣の娘)も無事かどうか解らない。


 母さんはアスが生まれてしばらくして亡くなった。あの村にもう家族はいない。友達もいない。


 あの村に帰る意味はあるのか。


 獣神様、俺はどうすればいいんですか。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 リュートが部屋に戻って来た時、まだアス君は真剣に本を読んでいる。

 リュートは疲れた様に床に座り込んだ。

 お茶の用意をしよう。果物あるし、さっき生クリーム買ったからクレープでも焼くか。

 カロリー足りてなさそう。

 窓際のカウンターでクレープを焼き生クリームを泡立てる。スキル《高速撹拌》であっという間にホイップ完成。クレープの焼く匂いにつられたのか、アス君が本から顔を上げこっちを凝視してた。


「ちょっと休憩にしようか」

「お手伝いしましゅ」


 アス君が本を閉じて寄ってきたので皿をテーブルに運んでもらった。

 テーブルにカップを出し紅茶をいれる。今度個人用に柄付きカップ買うかな、どれが誰のカップかわかる様に。


「…ウマイ」

「甘いでしゅ」


 桃とクリームのクレープ、喜んでもらえて何よりです。私だけナイフとフォーク使いですが二人は手掴みです。まあクレープだし。

 食べ終わるとアス君が「お片付けお手伝いしましゅ」と言うので、食後のお片付けを一緒にした。

 こんな楽しい『お片付け』ならいくらでもできますわ!

 隣で皿を拭くアス君、手と一緒に尻尾が揺れてます。


 リュートは疲れたのか獣形態で横になっている。半獣形態でも回復量が追いつかないのかな。追加のアイテム作ったほうがいいかな。


 アス君は夕方まで魔法の勉強をした。

 リュートはまだ休んでいたのでアス君と二人レイディのところで少し戯れる。

 アス君はまだ少し怖そうにしていたが一緒に抱き着いたり、ワシャワシャしたり結構激しくスキンシップを試みた。レイディは2日も厩舎の中だから退屈してる。明日の午前中は依頼を受ける事にするか。


 夕食は食堂がいいと言うので昨日とは違うメニューを食べた。

 食後1時間だけ勉強してお風呂に入って就寝です。

 お風呂から出るとリュートが真剣な顔で「話ガアル」と言って来た。なんだろう?





「明日カラ依頼ヲ受ケルノダロウ?」


「そのつもりだよ」


「パーティナラメンバーノ能力ヲ把握シテオクベキダ。ステータスヲ見セ合ウベキジャナイカ?」


 え、ステータス?見せ合うって、マジで?

 どうしよう?ステータス見せちゃうと貴族ってバレるよ。


「………」


「………」


 沈黙が続く中、アス君が不安そうに私達の顔を交互に見る。

 先に口を開いたのはリュートだった。


「…エルハ…貴族ダロウ?」


「え?」


「娼館ノ客ノ多クハ貴族ダッタ。貴族ニツイテ色々学ンダーーー



 人は生まれながら魔法の素質を持つが強い力を使える様になるには、幼い頃からの鍛錬が必要だ。

 故に『貴族』は幼い頃より師に習い鍛錬する。そしてある一定の年齢に達すると『学院』に通い研鑽を積む。

 平民でもそこそこ魔法を使える者はいるがそれなりに年齢がいった者が多い。

 それは幼い頃より勉学に時間を費やせないから。

 持って生まれた才能もあるが、成人の年齢(16歳)に達する時点で高レベルの魔法使い、もしくは魔術師となる者はほぼ『貴族』なのだ。


 オルフェリアでは少し事情が異なるが、高位貴族ほど幼いうちから優秀な師を着ける事が多い。

 ただ平民が無料で通える学校もあるので、国民はそこそこ魔法が使える。


「エルハ『マジックバック』ト見セカケテ、『インベントリ』ヲ使ッテイタダロウ?、シカモカナリ大キイ」


 商業ギルドで驚いていたのは金額じゃなくて取り出した素材の量か。


 リュートの言葉を聞きアス君が潤んだ目でこっちを見上げる。

 うううっ、潤んだ目とへにゃった耳のダブルコンボは強烈です!


 二人の事情は聴いたのにこっちは話さないのって不公平だよね。でも…嫌われちゃう…

 リュートを見るとリュートも真剣な目でこっちを見ている。

 初めて二人に会った時なんだかとても懐かしく感じた。

 初めて獣人(ケモ耳)に会ったからじゃない。

 長く離れていた仲間に会えた様な、そんな懐かしい感覚。


 ええい、なる様になれ!


「隠してたのは、その、恥ずかしかったのもあって……

 実は公衆の面前で婚約者に婚約破棄されまして……

 しかも冤罪かけられて幽閉されそうになって……逃げちゃった」


 テヘペロってか。


 二人のびっくりした顔、可愛いです。


 その後ある程度正直に話した。

 自分が侯爵令嬢だって事、冒険者に憧れていた事、国を出奔した事、追いかけて来られないために名前や髪の色を変えている事など。

 前世の記憶については、これは言うと頭のおかしな人に思われそうなので今のところ内緒だ。


 とりあえずしばらくは逃げ回、ゲフンゲフン。色々な国を見て回りたい、世界を知りたいと思っている事を話した。

 二人はジッと聞いてくれた。


「僕、僕も知りたいでしゅ、世界。あ、でも一番は兄しゃまの呪いを解きに大きな神殿に…」


 最初は意気込んでたアス君がだんだん小さくしぼんで行く様子に、たまらず抱きしめた。


「オ、オ、お姉しゃん?」


「うん、うん、アス君いい子だよ、お兄さん思いでいい子だよ」


 驚きでピンとたった耳に頬摺りしてしまう。


 ぐいっ


「離セ、エル。アスカラ離レロ」


 私からアス君を奪おうとするなんて!


「リュート、ヤキモチは見っともないよ?」


 半獣形態でもわかるくらい、表情がキョドるリュート。耳がピクピクして髭がピンと立つ。


「ダ、ダレガヤキモチヤクカ!」


 ガルルルゥと唸るリュート。


「僕、お姉しゃんと一緒に冒険者したい。お金稼いで兄しゃまの呪い解く。ねえ、兄しゃま」


 あ、アス君が離れちゃったよぅ。


 リュートがアス君の頭をくしゃくしゃに撫でた。


「ソウダナ、借リモアルシ、一緒に冒険者スルカ」


 リュートの言葉を聞いて心の奥がぽわッとしてホッとする。


「いいの?リュート」


「ソレハコッチノ台詞ダ。エルハイイノカ。俺達ハ獣人ダ」


「全然!あ、帝国は人族至上主義だけどオルフェリア王国は違うからね、ウェイシア王国もそうなんだけど、帝国が近いせいかちょっとな人も多いけど、私は違うから」


 アス君とリュートが顔を見合わせクスリと笑う。


「わかってましゅ、お姉しゃん、しゃい初から僕の耳や尻尾見ながらニアニアしてましゅよ」


「えぇっ」


「アア、ナンダカ触リタソウナノヲ、感ジタ」


 おうふ、バレてます。


「いいですよ、お姉しゃんなら。ショーカンのお客みたいな気持ち悪い感じしないでしゅ」

「ア、アスく〜ん」


 思わずぎゅっとしてスリスリ。


「く、苦ち…」

「オイ、加減ヲシロ!」


 あ、リュートに引き剥がされてしまった。もふりたりない。


「じゃあ、獣化したリュートで我慢する」

「ナンダソレハ」

「あのふかふかの白虎もふりたいって思ってたんだ」

「ク、オマエ16ダロウ!慎ミッテイウノハナイノカ」


 ふとリュートを見る。リュートは18歳。途端に一瞬だけ人化した裸の青年の記憶が蘇る。


「……あ」


「本当ニ貴族令嬢ナノカ、俺ノ勘違イノヨウナ気ガシテキタ」


「す、すみません。自重します」


 熱を持つくらい顔赤くなってます。半獣形態のリュート見てるとつい忘れてしまう。


 クスクス笑い出すアス君につられ、プッと吹き出すリュート。

 しばらく部屋が笑いで満たされる。

 ひとしきり笑った後、リュートが改まる。


「エル、感謝スル、俺達ヲ拾ッテクレテ。借リハ働イテ必ズ返ス。パーティメンバートシテヨロシク頼む」


「これからヨロシクお願いしましゅ、お姉しゃん」


 頭を下げる二人に私も頭を下げる。


「こちらこそよろしくお願いします」


 頭をあげるとリュートが笑う。


「本当、エルは貴族ッポクナイヨナ」


 中身庶民の日本人の記憶が勝ってますもんで、すんません。




元の作品は少年だったが、青年のリュートなら無条件にエルについていかないはず…

ということでこんな感じになりました。

でも軽い。そこのところは理由ありってことで。

元作がそろそろネタバレにはいるのでそっち読んでるひといたら想像容易いかも。

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