宇宙船の操作
「やり方はいたって簡単さ。 左右のモニターに手を突っ込めばいい。 手の動きとアームの動きが連動するから、手を扱うようにアームを扱うことができる」
モニターに手を突っ込む……
当たり前のように言ってるけど、そんなことできるんだ。
「ちょっとやってみる」
私はクドーを押しのけてモニターに手を突っ込んだ。
まるで水槽の中に手を突っ込んだ時みたいな感触だ。
「うえ、なんか気持ち悪……」
「真ん中のモニターに頭を入れてごらん。 それで周りが見渡せる」
あ、頭も?
正直それは抵抗あるんだけど……
ええい、これも地球に帰るためよ!
私は息を止めてモニターに頭を突っ込んだ。
「わ、すごい!」
真っ暗な空間を照らし出すのは太陽。
直視できないほど明るく輝いている。
そして、渋滞している高速道路を走ってるみたいに、周りを隕石が飛んでいる。
「アームを隕石から離して、近くの隕石に捕まってみなよ」
私はアームを隕石から離した。
すると、フワリ、と宇宙船が宙に浮いた。
右を向いて、すぐ近くを飛んでいる隕石にアームを伸ばし、捕まる。
海の中を泳いでいるイルカに捕まって一緒に泳いでいく、そんな遊びに似てるな、と私は思った。
「結構楽しいじゃん」
ふと、地球にはない楽しいものがここにはあるかも知れない……
そんなことを思ってしまった。
ダメダメ、このままほんとに50年も一緒なんて絶対……
「クドー、次の離脱は私にやらせてよ」
「……できるかい? 失敗したらもう一周回ってこないといけないよ?」
「いいじゃない、こんな体験中々できないんだし」
無理やりクドーを納得させて、次の離脱まで漫画喫茶で時間をつぶすことになった。
私の頭の中にあるプラン。
それは、次の離脱をスルーして進路を変更するという方法だ。
そして、そこで大きな博打を打つことになるだろう。
もしかしたら私とクドーは死ぬかも知れない……
随分長い時間漫画を読んでいた気がする。
とうとう声がかかった。
「離脱の時間だ、こっちに来てくれないか?」
私はコックピットに入った。
「そう言えば、まだ名前を聞いてなかったよね? なんて名前なの?」
「……杏」
「アンズ…… じゃあ、早速離脱の方法を教えるよ」
離脱の方法は、隕石群から離れて、足元のペダルを踏んでエンジンをふかし、次の惑星まで飛んでいくというものだった。
「やり方は教えた通りだ。 まずはこの隕石群から抜け出そう」
「分かったわ」
しかし、言われた通りにはしない。
アームが隕石に引っかかったフリをして、離脱しないようにした。
「あれ、アームが離れないんだけど……」
「何してるんだ! モタモタしてたら離脱のチャンスを逃すよ!」
なんとか時間を稼ごうとするが、とうとう痺れを切らしたクドーが私を押しのけようとした。
「もういい、交代だ!」
私はそれに抵抗して、もみ合いになる。
そして、どさくさに紛れてエンジンのアクセルをふかした。
「……なっ!?」
宇宙船は、コリントゲームのように次々に隕石にぶつかっていく。
「きゃあああああああああっ」
その衝撃で私とクドーは気を失った。