願望
トレース機能を使えば私の願望を叶えられるに違いない。
そのために必要なものは……
「私なりの楽しく過ごせるものを集めてってもいい?」
「構わないよ」
駅の東口に最近できたばかりの、服と家電を混在して販売するショップがある。
私たちはここにやって来た。
「地球にはカラフルな服が多いね」
今欲しいのは洋服じゃない。
目指すは生活家電の売られているコーナーだ。
「あれよ! クドー」
お目当てはマッサージチェアだ。
「これは珍しい。 ちょっと座ってみようか」
一番端の椅子が空いていたので、そこに座る。
「えーと、これかな?」
ボタンを押すと、背中のローラーが動き始めた。
「な、何だか怖いな。 痛たタタタタタタタタタタ……」
クドーは肩たたきモードを選択したようだ。
「次行きましょ」
マッサージチェアを写メに取って、次にやって来たのは本屋だ。
「この漫画コーナーの棚を全部写メして欲しいのよね」
「マンガ?」
「文字ばっかりじゃなくて、絵がのってるやつよ」
「オーケー」
クドーが棚の写メを片っ端から撮り始める。
その間、私は素知らぬ顔をして雑誌を立ち読みしていた。
「店員には何も言われてないわね? じゃあ、最後の場所にむかいましょう」
最後にやって来たのはファミレス。
これで私の計画に必要なものは全て揃う。
さっきご飯は食べたばかりだったので、ウーロン茶を一杯だけ頼んで、ドリンクバーを撮りに行く。
「これでいい?」
写メにはドリンクバーがすっぽり収まっている。
この時、思わず笑みがこぼれてしまったが、端から見たらかなり怪しい人物だったに違いない。
「キーアイテムは揃ったわ。 見せてあげる、私の楽園を」
宇宙船に帰って来た時間は夕方過ぎだったが、私は作業にのめり込んでいた。
スマホを操作すると、マッサージチェアが部屋に現れる。
「すごいね、これ」
今日撮ったアイテムが次から次へと部屋に現れる。
漫画の棚、ドリンクバー。
こうして、私だけの漫画喫茶が宇宙船内に再現された。
そして、気づけば時間を忘れていた。
「やばっ! クドー、今何時? 母さん絶対怒ってるし」
すると、クドーはこんなことを言った。
「もし口うるさい母親がいなければ、本当の楽園だと思わないか?」
……えっ。
「僕の宇宙船にいればいい。 ずっと」