現実
夕方、店を出るとクドーが待っていた。
「あ、待ってたんだ」
私を誘い出す方法を思いついたのだろうか?
どんな手を使ってその気にさせてくるのか、少し楽しみだ。
「……色々考えてみたよ。 そして手っ取り早く君をその気にさせる方法を思いついた。 これを見てくれ」
クドーはスマホを手渡してきた。
街中の動画か?
辺りは粉塵に包まれ、視界はかなり悪く、撮影している場所がどこなのか検討もつかない。
「再生してみてくれ」
言われた通り再生してみる。
すると、スマホから悲鳴のようなものが聞こえてきた。
「えっ…… 何よこれ……」
手ブレが激しく、撮影してる人は何かから逃げているみたいだ。
途中振り返ると、後ろを走っていた男から血が噴き出た。
「……クソッ」
撮影している本人の声だ。
戦争ものの映画か?
私はそのシーンを見て動画を止めた。
「何の悪ふざけ? ムードのムの字も出てないけど」
「その動画は戦争の様子だよ。 実際に僕の国で起こっているね」
……!
じゃあ、さっき血を噴いて倒れた人って……
私は急に吐き気を覚え、その場に嘔吐く。
「君は平和な環境で育ってきたから、戦争というものを知らない。 この動画のようなことが今から地球で行われるんだ」
嘘でしょ……
てか、こんなの完全に脅しじゃない……
それでも、私の浮かれた気分は完全に冷めていた。
「……明日はバイトがないから、戦い方を教えて」
「この前の雑木林に来てくれ。 場所はロシアンブルーが案内するよ」
夏休みも気がつけば10日が経過していた。
私は自転車で雑木林に向かっていたが、踏み込むペダルはやけに重い。
「はぁ、想像してた展開と全然違うんだけど」
内心クドーがデートに誘い出してくれるのを期待していた。
そして、私を説得するために私の願望を全て叶えてくれる。
しかし、その妄想は霧散した。
昨日の動画で現実に引き戻されてしまった。
雑木林に到着し、自転車を脇に止める。
まるで私を待っていたかのように、ロシアンブルーが行儀よく座っていた。




