老兵は死なず
全ての路上での交通トラブルが当事者同士の実力行使によって「解決」されるようになった近未来のアメリカ。
都市と都市とを結ぶフリーウェイは無法地帯と化し、装甲板と重火器で巨躯を覆ったコンボイだけが爆音を轟かせて物資の輸送にあたる。
都市の外周部の住人たちはモヒカンのモーターギャングによる略奪に怯えながら、一方では立体テレビで最新の剣闘試合に熱狂している。
それこそが完全武装した自動車同士による殺人競技……すなわちオートデュエル!!
今回の『ゲームしようよっ!』はスティーブ・ジャクソン・ゲームズの『カーウォーズ』をお送りします。
小さな箱を開けると小冊子の薄いルールブック、チャートブック。切り抜くのが面倒くさい大量の自動車、バイク、残骸、地雷といった紙製のコマ、紙製の定規、無地のものを含んだ大量の地図などが入っています。
白地図に鉛筆と定規で適当に競技場らしいものを書きつけてやり、車両シートにルールブック記載のデータを写してやれば、プロのオートデュエリストへの登竜門、「アマチュアナイト」の開幕です。
いつもの6面体サイコロを握りしめ、自分のクルマに装備された50口径機関銃で他の連中をハチの巣にしてやりましょう。
戦闘ゲームですので、ルールは厳密。
1秒間は1ターンで、それが10のフェイズに分割されています。
クルマのスピードが速いほど行動順は早く、1ターン内で行動できるフェイズ数も多くなります。
大半のクルマは前面に武装を付けてありますので、相手が自分の前面に位置しているフェイズにしか射撃ができない。
つまりトロトロ走っていると攻撃のベストタイミングを逸すると言う事ですね。
でも、むやみやたらにスピードを上げれば曲がる際のマニューバー(戦闘機動)の難易度が上がり、
スピンや最悪の場合、横転を引き起こします。
状況に応じたスピードコントロール即ち加減速こそが重要になってきます。
また先ほど書きました様に敵の武器と自車との間で射線が通らなければ撃たれませんので、お互いの機銃の死角に入るようにグルグルと回り合う事となります。
その有様はまさにドッグファイト!
やむを得ず撃たれる際には自車の無傷な方向を相手に向ける「肉を切らせて骨を断つ」戦術も車両にダメージが蓄積してくれば有効です。相手に延々と尻につかれれば、タイヤをスキールで泣き叫ばせてのブーツレッグターンで反転反撃もあり。
そう『カーウォーズ』の車両シートには車両のどの向きにどの装備が付けられて、どれだけ装甲板が貼られているのか細かく記されています。
じりじりと各所の装甲板が削り取られ、タイヤがバーストし、パワープラント(この世界ではシェールガスは見つからず、ガソリンは超高級品なのです)が炎上、最後には爆発していく。これがこの世界での戦闘なのです。
もちろんドライバーやコパイロットもパーツの一部です。車載武器の掃射を浴びれば、たちまち無残な姿に変えられてしまうことでしょう。
初めての戦いを終えた感想はいかがですか。
勝利者となったドライバーには賞金と経験値、名声値を増やしておきましょう。
この『カーウォーズ』はボードゲームでありながらTRPGの様にも遊べるという作りになっています。
公正な進行役さえいればオートデュエルに限らず、
「君はフィラデルフィアまで闇血清の輸送を請け負った。報酬は7000ドル、ただし車の修理は自分持ちで報酬は成功払い。道中ではバイカ―ギャングのコリガンズが暴れまわっているが、連中のリーダーには2000ドルの賞金が掛けられている。血清が劣化するまでに修理に充てられる時間は1回だけ、道中での車両の購入は不可。」
なあんてシナリオを組むことも可能です。
D&Dの戦闘遭遇シナリオのご先祖様の一つかもしれませんね。
「アマチュアナイト」を何度かプレイすると、自分のクルマに不満が出てくるはずです。
ゲットした血塗れの賞金でカスタマイズしていきましょう。
射線を上手く曳けずにイライラしたプレイヤーは機関銃を後部にもつけたがるでしょうし、
攻撃力不足に悩んだプレイヤーは機関銃を無反動砲やロケット砲に置き換えるかもしれません。
それ以外にもルールブックには地雷投射機だのオイル噴射機だのレーザーだのと愉快なオプションがてんこ盛りです。
パーツが増えれば増える程楽しいゲームですので、『アンクルアルバート自動車部品カタログ』と言うCATVの通販番組のノリでロールバーやエアスポイラーあたりから殺人兵器まで売ってくれる追加ルールまであります。これなんか読んでいるだけで楽しい。
そしてプレイヤー自身が経験値を上げてくると、オプションの変更や車両の買い替えでは我慢が出来なくなり、とうとうクルマのフルスクラッチに取り掛かる事になるはずです。
ボディのサイズ、パワープラントの出力、タイヤ性能、武装や装甲板の種類、設置場所。
全てを自由に選んで自分だけの車両を作り出す。これは難しく、そして夢中になる作業です。
パーツの値段、重量、設置スペース、全て限られている中で「最強」を作り出せ!
高価なパーツを適当につけても実戦では何の役にも立ちません。
軽量で強力なレーザーはスモークで減衰されてしまいますし、全周攻撃可能な砲塔武器に頼れば敵は砲塔を狙い撃ちしてくるでしょう。
相手の後ろに回り込んだ?相手の意表を突くためにクルマの後部にこそ一発必殺の重ロケットを配備するプレイヤーもいるはずです。
操縦性を無視して、よたよた走るクルマは地雷原やオイルの撒かれたマップではカモです。
戦場マップの広さや障害物、ライバルたちのセッティングとの相性、全てを要素に入れて作った(筈の)クルマ同士の戦いが始まるのです。
皆で予算を決めてのバトルロイヤルも楽しいですし、
10万ドルをポンと出して車両台数無制限のチームマッチもOK!!
この『カーウォーズ』のサービス精神は物凄いものがあり、ルールブックはコンパクトで安価。
それでいて追加ルールが出るたびに、それぞれ過剰な程のインパクトがありました。
武装コンボイやヘリコプターは出てくる、ギャングと自警団との市街戦は始まる、キャラクターのクローン技術まで出てきます。
ただ安価ゆえの難点もありまして、紙製のマップの上で角度定規を当てながら厚紙のコマを動かすのが結構つらいのです。
内容物の外観まで気を配った現代のゲームと対抗するのは、ちと酷かもしれません。
その昔、ゲーム仲間の理系人間が「PC上で動かそう」とコードを書いてくれました。
現在ならEXCEL上で動く『カーウォーズ』なんてことも可能な気もしますし、
ゲームではリアルタイムで動く3Dモデルが当たり前になっていますが、
当時の事ですからグリッドマップの上でちゃんと戦闘機動通りに表示されるクルマと言うだけでいたく感動しました。
自作の戦闘マップも記憶しておいてくれるし、これで『カーウォーズ』は10年戦えると思ったものですが、この身内プロジェクトは戦闘機動の処理途中で開発終了になってしまいました。
その原因はたった一つのルール的処理。
「車両同士が猛スピードで正面衝突した際、どこに飛んでいくか分からないので」
ふむふむ
「衝突した車両のコマ同士をゲーム板から3インチ以上持ち上げてから落として位置を決める」
なんじゃ、そりゃあっ。って思った方もいると思います。
アナログゲーム的にはイージーで問題ない解決法なんですが、理系人間これをエミュレートする方法を真面目に考え始めてしまった訳です。
幸か不幸か本人の専門が流体とかそっち方面、それぞれコマの大きさが…3インチ以上の高さの振れが…とか始めると止まらない。
「正規分布に乱数で味付けして適当にそれっぽくする」なんて妥協策は却下されてしまいました。
その後、我々の『カーウォーズ』は元通り紙のマップの上で紙のクルマを動かすゲームと言う事で落ち着きました。
コマが持ちづらいと言う問題の解決策はコマに厚紙のゲタを履かせて上からピンを刺すと言う、なんともアナログな方法で。
……
昔はこんなゲーム風景が……と書いてきた今回の『ゲームしようよっ!』ですが、
『カーウォーズ』はアメリカ版『CarWarsClassic』として今でも入手可能です。
ルールの肝心な部分はチャートブックになっていますので、英語でもプレイ可能な…筈。
アメリカ本国では第6版が発売間近ですし…どれだけアメリカ人はクルマ好きなんでしょうか。
今すぐ米Amazonのカートに入れちゃいましょう。
クルマのミニチュアは様々なサイズで大量に出回っていますので、マップを拡大印刷してお好みのミニカーを使ってバトるのも楽しいですよ。
あなたも10台撃破の《ダブルエース》を目指して戦い抜きましょう。




