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勇者が倒せない!  作者: お終い
第一章
4/12

また勝てなかった

「メ~~」

 なんと二人の目の前に現れたのは一匹の幼い子ヤギだった。

 現れたのが人間でなくヤギだった事に二人は驚いてしまい、固まってしまっている。

 恐らくどこかで群れからはぐれて、群れを探しているうちにこんなところまで来てしまったのだろう。

「メ~~」

 エサもろくに食べてなかったのだろうか、所々骨が浮き出ていたり鳴き声にも元気がない。

 ハーデスは「次来た奴を倒す」と言ったが、流石にこんな衰弱したヤギがやってくるなんて予想もしていなかった。だからキューちゃんはこの子ヤギを保護してあげるつもりらしい。

「待てぇい!!」

 キューちゃんが子ヤギに近づいた時に、ハーデスの珍しく迫力のある声が響いた。

「俺は次来た奴と闘うと言った。それは例え衰弱した子ヤギだろうとも例外ではない!」

 ハーデスはここぞとばかりに子ヤギと闘おうとする。流石にハーデスも今までずっと勇者と名乗る人間としか闘ってこなかった。正確には一方的にやられてた、だが。

 ハーデスはヤギ相手なら勝てるとでも思っているのだろうか、それとも勝てはしないまでもいい勝負が出来ると思ってるのか。どちらでもいいが、流石に優しい心を持つキューちゃんは止めに入る。

「仮に闘ったとして衰弱した子ヤギに勝って嬉しいですか?」

「もちろん!」

 予想道理の答えが返ってきてしまったキューちゃんは、大きく溜息をついた。

「じゃあどうぞ闘ってください。でも決着がついたと私が判断したら止めにはいりますからね」

 ハーデスはキューちゃんの方を向いて小さくうなずいた。

 子ヤギとハーデスは一定の距離で構えをとる。

「始め!!」

 キューちゃんの合図でハーデスはマントをひるがえして子ヤギに向かって行く。

「メェェェェェェェェ!!」

 子ヤギもハーデスに向かって行く。

 そして子ヤギの突進が先にハーデスにヒットした。

 ハーデスはその突進で後ろに吹っ飛び、あおむけに倒れる。ハーデスは勿論すぐに立ち上がろうとするが、それよりも先に子ヤギがハーデスに馬乗りになる。

 ヤギだが馬乗りになる。

 そして蹄でハーデスの顔を一発、二発三発。蹄でハーデスの顔をラッシュ、ラッシュラッシュ。

「ちょ…やめ…ひづっ…痛い…ごめ…すいまぜ…!! 死ヌ…」

 よほど衰弱しているとは思えないほどのスピードでラッシュ。心なしか子ヤギが笑っているように見える。

「キュ…止め…がっ…だっ…」

 因みにハーデスが呼ぼうとしたキューちゃんは既にこの部屋にはいなくどこかに行ってしまっていた。

 つまりもうこの場に二人の闘い、ではなく一方的ないじめを止める者などいないのだ。



 約三十分程してキューちゃんが大広間に二人の闘いの様子を見に戻ると、そこにハーデスの姿はなかった。代わりにハーデスらしきものが頭から地面に刺さっていた。

 体はだらんと力が抜けていて、着ている服やマントは所々破けている。

 キューちゃんは笑いをこらえながら、どこからか取り出したケータイでハーデスらしきものの写真を撮る。

 ケータイをしまったキューちゃんは辺りを見回す。どうやら子ヤギはバッジを受け取らずに帰ってしまったようだ。

 キューちゃんはハーデスの足を引っ張る。頭がすっぽりと地面の中に埋まっていて、キューちゃんの力ではびくともしない。恐らくハーデスの鋭い角が地面に深く刺さってしまっているのだろう。仕方ないからキューちゃんはタロウも連れてきて二人で引っ張る。するとズボッとハーデスの頭が抜けた。

「へへへ、ハロー」

 涙を流しながら面白いくらい生気のない顔をしたハーデスが現れた。

 ここでキューちゃんはまたどこからか取り出したケータイでハーデスの姿を一枚。

 既にツッコミをする気力すら失っているハーデスは、あおむけになったまま動かない。

 キューちゃんも、流石のハーデスも衰弱した子ヤギに負けるとは思ってなかったのだろう。

「クゥ~ン」

「元気だせよ」とでも言うかのように、ハーデスの頬をぺろぺろとタロウは舐める。

 キューちゃんはハーデスが埋まっていた穴を埋めている。

 やはり穴はかなり深くて、全部埋めるには少し時間がかかるようだ。

 約一時間程でキューちゃんは穴を埋め終わったが、ハーデスは一時間前と全く同じ体勢だ。

「とりあえず起きて下さい、今日はたまたま調子が悪かっただけですよね? 流石に最弱魔王のハーデス様でも…あっ!」

 キューちゃんだって本当にハーデスの事が嫌いだったらお付きなんてやってないし、本当は優しい心の持ち主であるキューちゃんは主が凹んでいたら励ます。最悪の場合二週間くらいこのままの場合があるから。

 それでも口が滑ってしまう事がある。

「最弱だって最弱、ははは。ヤギにも負けるんだから最弱で当然か」

 余計落ち込んでしまったハーデスにどう接していいのか分からなくなってしまったキューちゃんは、とりあえずハーデスの頭をなでてあげる。

「はは…はははははは……」

 ハーデスの乾いた笑い声が広い広い部屋に響いた。

「今度は私も特訓につきあいますよ」

 キューちゃんはハーデスの事をポンポンと優しく叩いた。

 ハーデスはどうやら拗ねてしまったようだ。

 キューちゃんがいくら話しかけても、うじうじとしているばかりで立ち上がる事もしない。こうなったハーデスは恐らくてこでも動かない事を知っているキューちゃんは、しばらくこのまま放置しておくことにした。

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