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勇者が倒せない!  作者: お終い
第一章
2/12

ゲロッた

 魔族と人間、この世界に住む二つの種族。この世界を征服しようとする魔族とそれを阻止しようとする人間達。

 魔族を支配する三人の魔王と一人の大魔王、彼ら倒す為にやってくる強者を勇者と呼ぶ。

 人間の王達の設けた試験に合格して初めて『勇者』と名乗る事ができる。のだが、「そんなめんどい事やってらんねーよ」と言う人間も少なくはない。因みにその試験の合格率は約二割、故にそんな人が沢山いるのだ。そんな彼らは『自称勇者』として魔王たちに挑んでくるのだ。

 自称ではない本物の勇者の力はものすごく、剣技だって並の者なら十秒と耐えられない。足腰も強く、素手での勝負だってそう負けることはないだろう。

 比べて『自称勇者』は剣技も並、足腰も並、一般人Aくらいのレベルだ。人によっては並以下もいる。本物の勇者よりも自称勇者の方が魔王城にやってくる数が圧倒的に多い。


 そんな自称勇者にすらワンパンで負けてしまうようなヘボ魔王であるのが、ハーデスである。

 彼は体も強くなく、剣技は素人並、そして魔術の威力は低い。そして極め付けがメンタルがびっくりするほど弱いのだ。

「今回も負けましたね」

「ちょ…! 踏まないでキューちゃん」

 この日も自称勇者にワンパンで負けた魔王三人衆の一人であるハーデスは、お付きのキューちゃんからお仕置きを受けていた。

 魔王ハーデスのお付きの者であるキューちゃん。彼女はサキュバスという種族の魔族である。サキュバスと言うのは男性の精を奪う事で有名な夢魔だが、彼女は処女である。それに最近BLにもはまってきているサキュバスらしからぬサキュバスなのだ。

 因みにキューちゃんと言うのはあだ名であって本名ではない。ハーデスが「サキュバスだからキューちゃんね。」と勝手に決めてしまったのだ。彼女も最初は嫌がっていたのだが次第に定着していった。


 落ちこぼれの魔王とBLが好きなサキュバス、凸凹どころかボコボココンビの二人はいまだに無勝。慣れというのは怖いもので、ガラスのハートであるハーデスも黒星の数が四桁を超えたあたりからいちいち凹む事はなくなった。

「全く…ハーデス様は何年魔王やってるんですか…?」

「…六百五十年」

 魔族の寿命は人間なんかよりよっぽど長い。それに普通は人間よりも体は丈夫なはずだ。

「なんで勝てないんですか……」

 それが分かれば苦労しないんだけどな、と思ったハーデスは立ち上がってから勇者が忘れていった剣を拾う。

 この魔王の弱さに驚いた勇者たちは何かしら忘れ物をしていくことが多い。以前家族写真を忘れていった勇者がいたが、それを見つけた時は何とも微妙な空気になった。ハーデスはキューちゃんと話し合ってその勇者に写真を返しに行くことにした。勿論ちゃんと変装をしてからその勇者を見つけ出して返した。

 因みに魔王業を続けて三百年程経った頃である。

「そろそろ…勝ちたいなぁ」

「もう五百年くらい前から言ってますよ、そうやって

「なんで勝てないんだろうな」

 このままでは会話がループすると思ったキューちゃんは話題を変える。

「そう言えばそろそろタロウのエサの時間ですよ」

 キューちゃんはそう言うと奥の部屋に戻っていった。

 タロウと言うのはこの二人が飼っているペットだ。ケルベロスの子供である。大きさはキューちゃんの膝あたりまでで、体長も一メートルないくらいだ。そしてふさふさの黒い毛が生えている。

 すると奥の部屋のドアが開いてタッタッタと顔が三つある子犬が走ってきた。後ろではキューちゃんがエサである羊の肉を持って小走りでタロウを追いかけている。正確には羊の死骸を持っている、だが。

 尻尾を振りながらハーデスの周りで走り回っているタロウは、それはそれはとても可愛らしくてハーデスもメロメロなのだ。

「おーよしよし、ご飯の時間だぞ~」

 ハーデスはキューちゃんから羊の死骸を渡してもらい、ポンと放り投げる。なぜ羊を楽に投げられる筋力があるのに勝てないのか、という質問はおいておこう。

 タロウは元気よくカウカウ! と吠えてから空中で自分の倍近くの大きさの羊を三つの口で器用にキャッチする。


 ~タロウのお食事シーンはあまりにグロテスクなのでお見せすることは出来ません~


「カウカウ!」

「よ~しタロウ、お腹いっぱいになったか。口の周りに血がついてるぞ~」

 自分の倍近くある大きさの羊の死骸を骨までペロリと平らげたタロウは、ハーデスに口の周りを拭いてもらっている。

 お腹がいっぱいになったタロウは満足そうにその場で眠ってしまった。


「もう寝ました?」

 そう言ってキューちゃんはタロウが寝たことを確認する。

 タロウは何故かキューちゃんには懐かないのだ。キューちゃんがタロウに触ろうとすると大概三連続で噛まれる。反対にハーデスが触ろうとすると、タロウの方からよってくる。

 何故そうなのか分からないが、ずっとこんな感じなのだ。

「あぁ、俺達も食事にしようか」

「しようかって、作るの私なんですからね」

 そうやって文句を言いつつも、彼女は毎回ちゃんとやってくれる。


 料理を作る彼女の後ろ姿を見ながら、ふとハーデスは思った。とても些細な疑問だ。

「キューちゃんてさ、なんで処女なの?」

「なっ!?」

 普通の女の子が処女なら喜ぶ人もいるだろうが、彼女はサキュバスなのだ。そこが問題なのである。

 驚いたような声を上げてからキューちゃんは黙ってしまい、黙々と料理を続ける。

「チ○コ見たことないの?」

 しつこいようだが彼女はサキュバスなのだ。もし彼女がサキュバスではなかったらハーデスの発言はただのセクハラだ。いや、サキュバスでもセクハラなのかもしれないが。

「………」

 キューちゃんは黙々と料理を続ける。

「チン○見たこと無いの? ○ンコだよ?」

 何を連呼しているんだと言いたくなるだろう。

「なにさっきからチ○コチ○コ連呼してるんですか!」

 どうやらキューちゃんも同じことを思っていたらしい。

「チ○コくらい見たことありますよ! ゲ…ゲロッたけど……」

 BL好きなのにゲロッてしまうとはどういう事だろうか、とハーデスは思いつつも素直にハーデスは謝っておく。


 数分してキューちゃんは料理を完成させ、ハーデスの元へ料理を持ってやってきた。

「げっ、これヒトキノコ入ってるじゃん。俺ヒトキノコ食えないんだけど」

 まるで人が立っているように生えているから『ヒトキノコ』。色は人らしからぬ緑色だが。独特の香りと苦みがあり、好みが分かれる。

「知ってますよ。さっきちょっとイラッとしたので入れました」

 目が笑っていない笑顔の彼女を見たハーデスは、もうセクハラはしないと改めて心に決めたのだ。

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