第一章 旅立ち 第9部 熊と神
皆様、読んでくださりありがとうございます。
それでは第9部どうぞ^o^
目の前にいる『もの』を動物で例えるなら…熊が1番妥当だろう。
体長はおよそ5m程で二本足でしっかりと立ち、丸太の様な腕は大木を容易く凪倒せそうなくらい太い。
しかし、普通の熊では無いことはこいつの見た目から物語っている。
まず、頭部の額部分から出た一本の角、そして何より丸太の様な太い腕が地面すれすれまで長いという事。
ルースは『そいつ』から目を離せずに、ある一つの言葉が脳裏に浮かんできた。
(こいつは…強いな。)
そう、自分で脳に警報を鳴らした瞬間、後方のアリスから言葉が走る。
「ライオさん!ルース君!逃げなさい!」
アリスの声が響いた瞬間。
熊が四足歩行の体制を取り、凄まじい速度でこちらに接近してきた、とその時。
横にいたはずのライオが『ドン!』という凄まじい音と供に後方へ飛んでいった。
「ライオさん!!」
すぐ様アリスがライオの下へ駆け寄る。
「っぐ!……ってぇ。…あの……熊やろ…う」
「喋らないでください!今回復薬を飲ませますから!!」
ライオの言葉はよく聞こえなかったが恐らく今まさにこっち向かって走っているあの熊が何かしたというのはわかった。
再度熊に向き直り、刀を抜いて構えた時アリスから撤退の指示が出た。
「ルース君?!ダメです!あれは『モルトベア』といって今のルース君が勝てるレベルの魔獣ではありません!!引きなさい!!」
いつもの穏やかな口調とは違い、厳しい口調でルースに撤退を強制させようとするアリスに、モルトベアを視界に写したままルースが返す。
「確かに…あれが、大分ヤバイ相手なのはわかります。が、ライオがその状態なら誰かが時間稼ぎをして逃げる時間を作らないとダメです、このままだと追いつかれます。」
淡々と、しかし的を得ている返答をしたルースにアリスが少し迷った後、歯噛みをしてライオに肩を貸す形で立ち上がり、
「ライオさんを安全な場所へ寝かせたら、すぐ戻ります。…それまで絶対に無茶はしないでくださいね。」
絞り出す様な声に、ルースはチラりとアリスの方を見て頷く。
「仕掛けます、その隙に避難を。」
そうアリスへ向けて話した瞬間、ルースはモルトベアへ、そしてアリスはライオを支えながら反対方向へと進み出した。
◇
歩き出してしばらくした後、
「ライオさん。大丈夫ですか?」
いつも通りの姉の声にライオは全身を襲う痛みを堪えながら、姉の肩に支えられながらゆっくりと歩いている。
「…あぁ。…って!」
先ほどの回復薬でマシになったとはいえ、まだ襲ってくる痛みにグッタリしながら答えるライオは自身の怪我の状態について確認する。
(肋骨は……何…本かイッて…るな。右足も…か、つー…か全身全…部いてぇ。……とりあ…えず…生きてる…から…ツイてる方か…。)
ここまで満身創痍になったことで、モルトベアが自分に向けて放った一撃により、生きている事を安堵したライオ。
当たりどころが悪ければ死んでいてもおかしくないことに、自らの油断でそんな相手との時間稼ぎをさせて危険に晒してしまっているルースに罪悪感がでてくる。
「姉貴……ルー…スは?まだ?」
自分の弟からの、息も絶え絶えな口調に優しくアリスは返答する。
「心配ありませんよ。…今は私たちが離れる間の時間稼ぎをしてもらってます。大丈夫ですよ、ルース君なら。無茶をする様な子ではありませんし、危なくなったら彼も撤退するでしょう。それに、ライオさんを安全な場所に待機させたら私も助けに行きますから。」
その言葉を聞き、悔しさに涙を流しそうになる……が、今は自分が一刻も早く離れる事がルースを助ける事に繋がると思ったライオは痛む体に鞭を打ち、懸命に歩き出して行く。
(ルース…!!…すまねぇ!!すまねぇ!!)
その時……。
『グォオオオオオ!!!!!』
一際大きな獣の咆哮が鳴り響く。
その咆哮にルースに何かあったのか?とライオは危惧し、そこで足を止める。
そして木の幹を背もたれに立ち、
「姉貴……ここ…でいい、早く…ルー…スのと…ころへ。」
と、アリスをルースの下へ行ってくれと頼む。
そんなライオを優しく座らせながら頷き返し、
「…わかりました。少しの間ここで待っていてください。すぐ戻りますから。」
一路、来た道を戻るために走りだした。
◇
「はぁあああっ!!!」
モルトベアに向けて走り出したルースは、アリスとライオが逃げる時間を稼ぐ為、迷いなく刀を振り抜いた。
モルトベアは四足歩行の体制のまま自らの角で、ルースの刀を受け止める。
ガキィイイイン!!
甲高い音が鳴り響く中、刀と角で打ち合った両者はすれ違いざまに位置を向き直し、お互いを睨み合う。
(…硬ってぇ、一応魔力で強化してるのにな……)
ライオみたく打撃系の技でもあれば硬くてもある程度有効だったなと思うが、無いものはしょうがないなと右手に持つ刀に〈雷〉を纏わせていく。
(だったら、切れるまで試すだけだっ!!!)
再びモルトベアに向かって行くルース。それをモルトベアは、今度は2足で立ち上がり両腕を、ルースが間合いに入るタイミングを見計らって振り下ろしをする。
ドォォオン!
振り下ろされたモルトベアの腕が地面を抉り、ルースを圧殺した…様に見えたが、ルースは当たる直前にモルトベアの頭上へと飛び上がり、今度はルースが刀を振り下ろす。
ブシュウ!!
刀がモルトベアの肩と腕を裂き鮮血が吹き出る。
が、ルースは見た目程の手応えが伝わってこなかった故にさらに攻撃を続けて行く。
「はっ!」
返す刀での切り上げを行うが、こちらも手応えが薄く一旦距離を取り離れるルース。
だが、目の前の空間の一部が歪み、次第に視界にどんどん広がってくる光景を見て、反射的に半身で避けると後ろにあった木が音を立ててへし折れた。
(っ!……これか!ライオが食らったのは!……魔力の圧縮弾って所か!)
モルトベアは口をいっぱいに開けながら、さらに次弾をそこから繰り出してくる。
一撃当たれば昏倒する。
そんな攻撃の雨の中、避けながら間合いを詰めようとするが、思う様に進まず防戦一方になるルース。
(…っこのままじゃマズイな。ジリ貧でこっちが先に当たる確率のが高い。)
中距離型の『紫電』を織り交ぜながらも防戦になっていることにいずれはこちらが先に力尽きる事を予感したルースは、周囲に他に人間がいないことを確認し、ある手段に出る。
(今なら誰もいない……か。しょうがないな。……やるかっ!!)
直後、
全身へ自身の魔力を隅々まで行き渡らせるように展開する、ルース。
その膨大な魔力に、攻撃を繰り出していたモルトベアの動きが止まり、その隙にさらに魔力を練り上げる。
そして……、ルースは〈ある存在〉へと語りかける。
◇
(おい、起きてるんだろ?)
『……我を呼ぶか、ルース。』
意識の中の奥の奥、そこではルースと青白いローブで全身を覆い、腰に刀を差した青年が対峙していた。
(ああ、ちょっとばっか手こずってるんでな。宿代だ、力を貸せ…。)
『…相変わらず、雷を統べる我に対して不遜な言動よ…』
言葉とは裏腹に薄く笑みを浮かべ、青年はルースへ右手を差し出す。
『我の後を重唱しろ。出来るな?』
(…これが初めてでもあるまいし、当たり前だ。)
そうだな。と青年が言った後、ルースは青年から差し出された手を握る。
そして…
2人が重ねて口を開く…。
『我、契約者へと任ずる……』
(我、精霊王へと命ずる……)
『我が雷の力を継承し……』
(汝が雷の力を継承し……)
『神異を放ちて』
(神異を放ちて)
『我と汝の、敵の尽くを打ち払え!!』
(我の汝の、敵の尽くを打ち払え!!)
◇
一瞬のうちに今までのやり取りを終え、ゆっくりと目を開くルース。
体に感じる力を確認し、そして刀を収めた後、力強くそれでいて落ち着いた声で、名を呼ぶ。
「『神衣 建御雷神』。」
その刹那。
バチバチバチバチ!!!と音を立てていき、モルトベアを見るルースが……。
白い雷『そのもの』となっていた。
そのルースに反応するかの様にモルトベアが雄叫びを上げる。
『グォオオオオオ!!!』
モルトベアがルースに向けて魔力弾を放とうとするが……
バチっ!
白い雷光となったルースが一瞬のうちに間合いを詰め、モルトベアに向けて右の手刀を斜めに振り下ろすと………。
肉が焦げた匂いと供にモルトベアが肩から両断され、崩れ落ちる様に倒れた。
「……神衣 解除。」
白い雷から何時もの自分の体に戻ったルースは、ふぅとため息を付きアリスとライオが逃げた方角へ歩き出す。
と、そこへアリスが息を切らしながら戻ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ……ルース君!!」
「アリスさん?!ライオはどうしたんですか?」
すぐさま辺りを見回し、モルトベアを探すがいないことに気がつき一度深呼吸をした後、口早に話出した。
「ライオさんは今、安全な所で休んでいますので大丈夫です。それよりルース君は大丈夫ですか?怪我は?モルトベアはどうなりましたか?」
まくし立てる様に質問するアリスにルースは苦笑いを浮かべなからも、体をズラして後方が見える様にすると、両断されたモルトベアが転がっているのを見てアリスは絶句する。
数瞬、アリスが惚けているとルースが『ライオの所へ行きましょう』と言ったので、アリスも我に返りライオの下へと案内するのだった。
今回はルースのバトルでしたがいかがでしょうか?
まだまだ拙いですが、これからもバトル満載で書いて行こうかと思います^ - ^