第一章 旅立ち 第7部 雷と炎
読んでくださる皆様、ありがとうございます。徐々に伸びているPVを励みにがんばって行きたいと思います!!^o^
翌朝、ルースが集合予定の時間より少し早めに指定の場所に着いた時、すでにアリスとライオの2人が到着していた。
「すいません。お待たせしました。」
「いえ、私たちも先ほど到着したばかりですから。」
どうやらアリスとライオもすぐ前に到着したばかりらしい、しかし2人ともまだ集合時間には余裕があるのに早い到着である。
ルースが、そんな風な事を言っていると『ルース君もですよ?』と言われて返されてしまっていた。
「さて、それでは行きましょうか。」
アリスがルース達を促したのを合図に3人は街道へと進み出した。
◇
村から討伐対象のマーリーアントが出没する位置までは約1日程かかる。
順調に行けば明日の朝には戦闘が開始される予定なので、それまでの道中は軽いピクニック気分である。
そんな空気に後押しされてか、ライオはルースにタイミングはここだ!と言わんばかりに質問してきた。
「なぁ、ルース!【戦神】…って言うか、お前のじいちゃんってどんな人だったんだ?!」
「なんだ突然?……あぁ、ライオはじっちゃんのファンだっけ?」
「っ!! そ、それはいいだろ?!男なら誰だって強い人に憧れるもんだ。今はもういないとしても、あの人は俺の憧れだからな!」
「そんなものか…?んー、まぁ一言でいうなら……無茶苦茶な人、だな。」
「あ、確かに。あの人が戦場に出ると味方は必ず勝つんだけど、ものすげー暴れまわるから後が大変だって聞いたことあるな。」
「戦場で暴れるだけなら、まだかわいいもんだよ。」
遠い目をしながらそんな事を言うルースにライオが『何があったんだ?』と尋ねると。
「まぁ私生活は別段に特別な事はなかったな。さすがにそこでも暴れまわる程変な人じゃなかったし。だけど、今も鮮明に覚えてるのは……俺の修行中のじっちゃんだ……。」
「修行中のか?!やっぱり鬼みたいに厳しいのかよ?!」
「鬼?…そんな生易しいものじゃなかったさ…あれは、悪魔か邪神の様だった…。」
修行中のラースについて語り出すと、ルースに加えライオも段々と顔を青ざめさせていき、我慢できなくなったライオが
「すまん!!もういい!もういいから!悪かった!」
と、言ってくれたのでルースは思い出すの止めにした。
ルースの顔も若干青い気がするが、最後に締めくくる。
「でも、小さな頃からずっと修行漬けの日々だったからな。どれくらいかわからないけど、そこそこは強くなってると思う。まぁ師匠が【戦神】だしな。」
「修行の内容はあれだけど…、そこについては羨ましく思うぜ!」
「まぁな。というかライオにも質問していいか?まだ実際知り合って間もないんだ、どれくらい強いかとか色々と、な。」
「おお!!いいぜ!ドンドン聞いてくれ!!」
ふむ、では早速と言わんばかりにルースはライオについて質問をする。
「まず、今日最初に思った事なんだがアリスさんもライオも何で武器を持ってないんだ?今日は討伐だろ?」
1番気になっている質問をぶつけてみた。
すると、ライオはビックリした様子でルースを見た後、前を歩くアリスに視線を送ると既にこちらを見ていたアリスが歩く速度を調整し、ルースの隣に並んで歩くようになり、アリスが逆にルースへと質問をする。
「ルース君は、【拳の一族】という名前を聞いたことはありませんか?」
「【拳の一族】……ですか?あ、そういえば祖父から聞いたことあります。無手だけであらゆる敵を粉砕することができる一族……ていうか、アリスさんとライオが【拳の一族】なんですか?」
「なんだ、ルース知ってたんじゃねぇか。俺も姉貴もニーベルグって名乗ったのに知らねーのかと思ったぜ。」
「【拳の一族】っていう名前をじっちゃんから聞いた事あっただけだから、知らないも同然だな……というかライオ、俺もクェーサーを名乗ったのにじっちゃんの事に気づかなかったのは誰だよ。」
『そりゃそうだ』、とライオはポリポリと頬をかく
「ですが、ニーベルグ家は分家ですからね。知らなくても無理はありませんでしたが。」
「分家……という事は本家もあるんですね。」
「本家の話はいずれまた……。それよりもルース君にライオさん。」
突然名前を呼ばれた2人は揃ってアリスを見る。
「お互いの事をよく知りたい、と思うなら……1度試合をしてみてはいかがですか?」
◇
その夜、目的の場所まで残り少しとなった地点で本日の野営の準備を始める。
アリスは慣れた手つきでテントを組み立てて行くが、ルース&ライオの2人は初めての野営に少々苦戦しながらもなんとか、テントの設置と煮炊きの準備を進めていた。
3人で火を囲んで座り、本日の晩御飯であるパンとシチューの様な煮込みスープを他愛もない会話をしながら食べているとアリスが
「お昼に提案した試合ですが、あまり明日に響く様な激しい物は禁止します。お互いに力を使い果たして明日の討伐に支障が出る、なんて笑えませんから。」
それについては、ルースもライオも同意した。いくらなんでもそんな事をしたらアリス1人に迷惑をかけてしまうし、何よりこの依頼はここまでに到着する間にできるだけ、ルース達2人で完遂する様にと言われているからだ。基本は実践形式の修行という意味合いだろう。
なので、この後のルースとライオの試合もあまり全力でやると意味ないのか、などと思っていると
「試合は手抜きなしでお願いします。」
と、言われてしまった。
手抜きはダメだけど、激しいのはダメ。中々線引きが難しい所だ。
そんな会話を続けているうちに、ルースとライオは食事を終え、軽く食休みを取った後、テントから少し離れお互いに向かい合って立っていた。
(やっぱり無手…か。)
こちらを、鋭い目つきで見据えてくるライオを見ながらこの状況でも変わらず素手で相対する事に少し戸惑いを見せる。
(いくら手抜きはダメって言っても、丸腰の人間に刀抜くのは…な。)
これが、試合ではなくただの殺し合いであるならルースは迷いなく刀を抜いて構えていただろう。
そんな考えをなんとなくで読み取ったライオは、
「ルース!刀使わねぇと怪我するからな!!」
張り上げた声に劣らない程の大きさの魔力の奔流が、ライオの体から溢れていき、そしてライオがさらに声を上げた瞬間、
「火之剛腕!!」
ライオの両腕が真っ赤な炎に包まれた後、しばらくすると炎の中から赤い丸みを帯びた手甲を装着したライオの腕が現れた。
(っ!……なるほど、創造武具か。)
創造武具とは、自らの魔力を任意の形に押し留め、それにより武具を精製する方法である。この方法は修行をすれば出来るものではなく、完全に血継により使い手が産まれていく。故に、使用者が非常に少ない。しかも、
「属性まで付いてるんだな。」
創造武具は武具を精製する際に、魔力を別口で精霊へと渡す事で属性を付与された武具をも精製する事が出来るのである。
が、これは自分に本当に適した属性だけしか武具を精製できず、属性付与付きの創造武具を精製できる者は稀にしかいない。
(創造武具と……属性付与か。確かに、ドーレルでトップに立つと豪語するだけはあるな。…だけど)
スラリと腰に差してある刀を抜くルース。刀身から柄に至るまで漆黒で染められた愛刀を右手に構え
(俺も、負けられないんでね……!)
そう心の中で呟いた瞬間、ルースはライオへと向かって地面を蹴り出す。
それと同時にライオもルースに向かって突進して行く。
振り下ろされる刀と、突き出される右腕。
互いの武器が音を立てて接触した瞬間、試合が始まった。
◇
「オラオラオラぁぁぁ!!!」
手甲を装着した両腕を的確に振り回しながら、ライオはルースへと攻撃を続けていく。
幾度か手甲と刀がぶつかり合った後、ライオがルースから距離を取りしゃべり出す。
「どうした?ルース。守ってばかりじゃ俺に勝てないぜ?」
現状、ルースはライオの攻撃を受ける事に徹していた。攻撃してくるライオの癖などを観察していたのだが、露骨にやり過ぎたのか距離を取ったライオは攻撃をしてこなくなり、会話をする時間となった。
「ま、そのうち反撃してやるよ。」
「なんだよそのうちって、それよりその刀!すげーなー!俺がこんなに打ち合って溶かせなかった武器なんて初めてだぜ!」
(なんだ溶かすって!壊すじゃないのかよ…。)
ルースの愛刀である『黒爪』は特殊な金属同士の合金でできているため、滅多な事では折れないし、砕けない。しかし、ライオとの初撃の打ち合いの際、受けたことのない手応えに反射で刀身に魔力を流した状態で戦っていた。
これにより普段の数倍近い、耐久性を愛刀に持たせる事でライオが言う様に溶けなかったのか、と思った為念を入れてさらに魔力を送って強化しておく。
…そのまま、にらみ合いが続く中でルースが動く
(そろそろこっちからも攻めるか……)
おもむろに刀を上段に構え、素早く振り下ろすと三日月形状の斬撃〈閃〉がライオを襲う。
「はぁああああ!!!」
縦、横、縦、縦、横と不規則に刀を振り続け、〈閃〉をライオに向けて量産していく。
「おぉっ??!!」
素っ頓狂な声を上げ、〈閃〉を躱し、受け流しながら避けていくライオにルースは
(〈閃〉じゃダメか……。)
と、次の手をどうするか考える。
(序の型は多分、全部止められるか避けられるな。…かと言って試合形式なら他の型は危なすぎて使えない。)
そんな風に考え込んでいながらライオの方を見ると、次は何が来るんだ?みたいな表情で楽しそうにしていた。
(……まぁなら、こっちも同じ様に戦いますか!)
ルースは目を閉じ、刀を水平に持って左手を刀身に添えながら自らの魔力を〈ある精霊〉に渡しながら、その属性を刀に纏わせていく。
バチっ!!
バチチチチチチっ!!!
一瞬の間、その後にルースの持つ刀に青白い雷が纏いだし、ルースは目を開けてライオを見る。
そこには最初少しビックリした様子のライオが居たが、すぐ獰猛な笑みを浮かべながら構え出した。
「はっ!!お前は〈雷〉かよ!」
「まぁな。」
ルースもバチバチと音を鳴らしながら雷を纏っている愛刀を両手で構える。
そしてどちらともなく突進する2人、まるで試合の最初の光景の様に激突する。
◇
それから1時間、お互いに決定打を与えられぬままアリスから終了の合図が響くまで2人は刀と手甲、雷と炎をぶつけ合いながら笑っていた。
そんな2人を見てアリスは
「ライオさんにとっても、ルース君にとっても実り多い試合になったみたいですね。」
と、つぶやきながら2人を見守っていた。
属性のくだりはもう少し後にキッチリ書こうと思います。
お楽しみに!!^_^