第一章 旅立ち 第6部 姉弟と孫
まさかの背後からによる討伐依頼に乗った!、発言から数分後同じくギルドのロビーにある酒場の1席。
ルースは先ほどの声の正体の男とそこに座って軽食をつまみながら話している。
「…で?あんたは誰なんだ?」
もっともな質問を投げかける。
それも当然である、突然として勝手に討伐依頼を受けようとしたのだ、ルースでなくてもそんな事をされれば大小はあれど警戒はする。
「んぁ?あー!わりぃな!自己紹介まだだったな!」
横を刈り上げた短めの金髪に両目碧眼の男。
その男は口に運ぶ直前だったサンドウィッチを置き、コホンと咳払いをした後、名乗り始めた。
「俺は、ライオット=ニーベルグ!年は15で中央にある『ドーレル学園』でトップに立つ予定の男だ!気軽にライオでいいぜ。」
(…同じ年だったのか、しかもドーレルって事は…。)
「名前はルース=クェーサー、年はライオと一緒の15だ。ライオも今回の編入から通うつもりなのか?あぁ、俺の事は呼び捨てでいいから。」
「ん?『も』ってことは…?」
「俺も今回の編入から通う事になっている。まぁ試験に受かれば…だけどな。」
まさかこんな所で同じく編入目的の人間に会えるとは……いや、レグルス村の立地から無いことはないか。
と、考えに結論を出していると、目の前に座るライオが鼻息を荒くしながらこちらに身を乗り出していた。
「おぉおー!!ルースもドーレルに編入する予定だったのか?!すげー!こんな所で会うなんてなー!なんか運命を感じるな!」
「いや、男同士で運命感じられても困る。」
バッサリ切ってやった。
男同士で運命とか……深い意味は無いんだろうが、何と無く響きが嫌だった。
「まぁ、でもよ?ドーレルの『編入予定者』が2人もいるんだぜ?これなら噂のマーリーアントも楽勝だろ?」
「……どうだろうな。」
◇
ここでギルド所属の『冒険者』について補足しておく。
彼等、彼女等は〈魔法〉や〈超能力〉が使えるからと言っても全てが学園出身のエクス使いではない。むしろ学園出身のエクス使いは基本的に国家に従事するような仕事に就く事がほとんどの為、圧倒的に少ないのである、在学中であれば長期の休みを利用して冒険者として登録し稼ぐ事は出来るだろうが、今は長期の休みでは無い為、やはり有能な冒険者は少ないのだ。
学園出身以外のエクス使いは独自に修行し力を手に入れる者もいれば、他の人間を師と仰ぎ修行する者など様々いる。
しかし、この世界においてエクス使いとしての才能を見出され、それを最高の環境の元で磨いて行くそんな『金の卵』的な存在に対して、並の冒険者は太刀打ちすることも難しい……
絶対的な資質。
持って生まれた才能。
凡人がどれどけ努力をしようと、資質ある者が努力を惜しまない様にすれば、必然越えられない壁が出来てしまう。
99%の努力と1%の才能である。
それが『エクス使い』としてのこの世界の常識であった。
◇
「だけど、依頼を受けるにしたってどうするんだ?確かギルドにはランクがあるだろ?あのマーリーアント討伐がランクいくつかしらないけど、登録したとしても俺たちには受注できないんじゃないのか?」
ギルドにはランクという区別があり、そのランクに応じて受注出来る依頼が制限されている。
ランクはE~Sがありどんな実力があったとしても最初は必ずEランクからのスタートになるのが普通だ。
如何にドーレルの編入予定者とはいえ、そこはランクを守っての依頼になるのが当たり前。
件のマーリーアント討伐がEランクなら問題はないが、これだけ村の騒ぎを起こした元凶をEランク程度の依頼にはしていないだろう。
そんな事を話していると、ライオが。
「それに関しちゃ問題ねぇよ、秘策があるからな!…まぁ秘策っても王道ルートなんだがな。」
「?」
ライオが何やら訳のわからない事を言っていると……
「ここに居ましたか、ライオさん。」
ライオの後ろから声がし、その声の主へと振り向いたライオが。
「姉貴!遅かったじゃねーかよー!」
「ライオさんが、勝手にウロチョロするからですよ。探すのに手間取りました。」
そういって登場したのは、これまた金髪であるが腰まで届くかというほどのロングの髪と両目碧眼の、青と白を基調にした軍服の様な服装をした女性だった。
(あの服装はたしか……)
ルースには目の前にいる女性の服装に見覚えがあり、それを口にしようとするが、先に
「ルース!この人が俺の秘策!アリス=ニーベルグ。俺の姉貴だ。」
「秘策という紹介はどうかと思いますよ?ライオさん。始めまして、ライオさんの姉のアリス=ニーベルグと申します。ドーレル学園の3回生に在籍しております。」
(やっぱりドーレルの在学生だったのか。)
「どうも、始めまして。アリスさん、ルース=クェーサーと申します。」
ルースは立ち上がりお辞儀をして、すぐアリスを席へと促す。
席に着いたアリスが『失礼ですが』と断りを入れた後、ルースに質問をする。
「『クェーサー』と言うと、かの【戦神】、ラース=クェーサー様との所縁のある方でしょうか?」
投げかけられた質問に特に隠す様なことも無いので、正直に答えるルース。
「はい、ラース=クェーサーは俺の祖父ですから。」
そう言葉を発した瞬間、至る所から驚きの声が聞こえた。
(な、なに?!)
(あの【戦神】のか?!)
あまりの周囲の驚きに一瞬『しまったか?!』と思ったルースだったが、その瞬間さらに目の前にいた金髪(♂)により場を煽られる。
「ルース!!お前!【戦神】の孫だったのか?!!」
机をバンっ!!と叩きながら勢い良く立つライオだったが、すぐに隣のアリスにより諌められ大人しくなる。
「ライオさん?そんな大声をあげるものではありませんよ。ルースさんが迷惑してしまいます。」
明らかに先ほどのライオの声より小さかったのだが、他の客にもその発言が届いた様で酒場は少し前までの喧騒に戻りつつあった。
「ごめん、姉貴。……ルースも大声出して悪かったな。」
「それは構わないが……。」
「ごめんなさいね、ルース君。ウチの弟は昔から大の【戦神】好きで。その事になるとすぐ興奮してしまうの。」
「ちょ…!!姉貴!」
「ふふふ。でも驚いたわね、あの生ける伝説の【戦神】のお孫さんがこうして目の前にいるなんて。」
「それは俺も同感だ、姉貴。」
「いや、実は祖父は2年前に他界してしまいまして。」
そういうと、祖父が他界したと聞き、アリスが申し訳なさそうな顔をしたと思ったらライオが。
「な!!……(他界ってほんとにか?)」
先ほど注意されたのを、思い出したのか途中から声のトーンを落とし聞いてくる。
「ああ、ほんとだ。それで今まさに【戦神】の最後の試練ってやつを受ける為にドーレルに向かってる。」
身内の不幸を確認するという行為にライオがちょっとバツが悪そうに『ごめん。』と、言ってきたので『気にするな』と宥めておいた。
そんな微妙に神妙な空気の中、一通りの自己紹介が済んだ所で本題に入る。
「で? ライオが言ってた通りアリスさんが秘策ってのはどういう事になるんだ?」
結局の所問題はそこだ、依頼を受けるにしたってランクが足らないのであればどうすることもできない。
まぁ討伐依頼なんて関係なしに倒しに行く分ならなんら問題はないがそれはライオの冒険者としての矜持が許さないらしい。
なんのこっちゃ。
そんな話をしているとアリスが説明を始めてくれた。
「実は私が、今学園の単位に余裕がありまして、昔冒険者として登録を行っていたのでライオさんを実家に迎えに行った後で2人でここで腕試しをしましょうか、と話している途中でした。その時にたまたまルース君と知り合った、というのが出会うまでのお話です。」
先ほどのからも終始笑顔で話しているアリスだったが、今は更に天使の如くな笑顔でルースに話しかている為、少しドキドキするルースだったがライオのジト目が視界に入るやすぐさま頭を振って思考を切り替える。
(なるほど……編入までの時間を少しでも修行の時間に費やしたかったのか。)
ジト目を止めて、今度はライオがルースに向けて説明をする。
「で、だ。さっきは2人なんて言ってたけど、ギルドでは自分よりランクの上の依頼を受ける為には、そのランクと同等かそれ以上のランクの人の同行が義務されてんだ、ちなみに最大受けれる上限ランクは2つ上のまで、これでなんとなくわかるよな?」
(あぁ、なるほど。)
ライオが言っている意味をすぐさま理解し、かわりに答える。
「つまり、今回のマーリーアントの依頼ランクはおそらく2ランク上のCランク。さらにアリスさんのランクはCランクかそれ以上。だから受注出来る、そんな所か?」
「大正解!!!」
ライオがそう手を叩きながら言っていると、横のアリスが1枚の紙を出してきた。
「これがその依頼所です。依頼ランクはC、依頼内容は討伐もしくは撤退させる事。報酬は討伐なら討伐部位が必要ですが金貨6枚、撤退なら純銀貨6枚になります。」
「討伐ですね。」
「討伐しかねぇ!」
2人でハモった事にアリスがクスクスと笑い出す。
「それでは今日は、依頼は止めにして明日討伐に向け頑張りましょう。」
そう言ってルース達3人はそのまま昼食を取り、ギルドを後にする。
ギルドから少し離れ、ルースが宿に向かう際にアリスから
「そういえば、ルース君は魔氣具の時計はお持ちですか?」
ルースが聞きなれない『魔氣具』という言葉に疑問を浮かべると、
「『魔氣具』というのは、魔力や氣で動かす事の出来る機械の事です。もしよろしければ、明日の集合時間に遅れない様に時計をお貸ししましょうか?」
「そんな便利な物があるんですね。わかりました、すみませんが1日貸していただけますか?」
村には正確な時計という物がなく、馬車の運行時間も鐘の音が基本的に時計のかわりになっている。なので、時間がわかるというのは明日の準備や集合をする上で必要だと思ったルースはありがたく時計を貸してもらう。
「では、明日の朝9時に村の入り口に集合にしましょう。お2人ともいいですか?」
「問題なしだな!」
「はい、大丈夫です。」
ルースとライオが返事をすると、アリスはルースに挨拶をして歩き出し、ライオもそれに続く。
「では、ルース君。明日はお願いしますね。」
「ルース!また明日な!」
2人をしばらく見送ったルースは道具屋に寄って、回復系のアイテムを何個か買った後、宿に戻りゆっくりするのだった。
第6部です。
戦闘まで行けませんでしたf^_^;
次は戦闘メインだと思います!!