第一章 旅立ち 第5部 ギルドと親指
受け付けでローラの話を聞いた後、馬車の乗車券を買いに行ったルースは、宿に戻り荷物を下ろしていた。
「ふう、とりあえず一息つけるな」
しかし、あまりのんびりしているわけにもいかないので手早く身支度を整えて、受け付けのローラに今日の分の賃貸料を渡しておく。
「すみません。…あ、ローラさんこれ今日の分のお金です。」
そう言って懐から取り出した袋に手を入れ一泊分の料金である、純銀貨4枚を渡す。
アースランドは全世界共通で通貨の価値が同じである為、どこの国へ行ったとしても今現在の手持ちのお金が使えなくなると言うことはない。
ちなみにアースランドの各貨幣1枚の価値を、某大人の事情で此処とは異なる世界の通貨価値で表すとこうなる。
『銅板→1円
銅貨→10円
純銅貨→50円
銀板→100円
銀貨→500円
純銀貨→1000円
金貨→5000円
純金貨→10000円
白金貨→50000円
王貨→100000円』
「はい、…純銀貨4枚確かに受け取りました。本日は何処かお出かけになりますか?」
ローラにこの後の予定を聞かれたので、ギルドに寄って馬車の使用がいつになるか確認してくる事を伝える。
「でしたら、お部屋の鍵は此方で
お預かり致してますのでお出しになって下さい。もし、万が一紛失した場合は紛失費用と、鍵を交換する為の費用のご負担をお願いする事になりますので、そちらの方が良いかと思います。」
「わかりました、じゃあお願いします。」
外で宿の鍵を使う事などほとんどないであろう為、ローラに借りている部屋の鍵を渡した。
「いってらっしゃいませ。」
背後にローラの綺麗な声を受けながら、ギルドへと向かう為宿を後にする…がふと思った事を確認すべくローラに振り向く。
「そういえば……この宿の名前何ていうんですか?」
無いとは思うが、もし道にでも迷った場合は店の名前くらいは知っていないと辿り着けないかもしれないと思ったからだ。
「憩い宿『四季亭』でございます。」
ローラは宿の名前すら知らなかった事に、嫌な顔一つせず答えてくれた。
(『四季亭』か……よし!これで大丈夫!)
「ありがとうございます」
「いえ、それではいってらっしゃいませ。」
深々とお辞儀をするローラを見て、ルースは再びギルドへ向かって歩き出した。
◇
『アルサイド王国ギルド レグルス支部』
王国西部から中央へと向かう人が立ち寄るギルドの中でも比較的大きな支部の一つであるこの場所は、連日冒険者達で賑わっている。
とりわけ、近隣の森に住む魔物や魔獣などの魔族討伐依頼の成否で街道の安全が左右される為、ほぼ常に何かしらの魔族討伐依頼が出ているのが普通である。
そのギルドの一角、入り口から入って正面にあるカウンターに今日の目的であるマーリーアントの情報を聞こうとルースは歩き出した。
「あの、すみません。」
「はいー? ……あぁー、冒険者の方ですかぁー??何かご用意でしょうかぁー?」
受け付けのおそらく猫?の亜人族の女性に話しかけると、最初は不思議そうな顔をしていたが、腰に差してある刀を見た瞬間、冒険者だと勘違いされ対応されてしまった。
「あ、いえ。俺は冒険者ではなくて……馬車の利用者なんですが、近くに魔族が出ているので動かせないと乗車場で言われてしまいまして………」
一応、冒険者ではないのでそこをサクッと否定しておき、馬車の利用者だと伝える。
「あーー、そうだったんですかぁー…それはご迷惑をお掛けしていますぅー。」
(……なんだ?何かこの人と喋ってると力が抜ける感じがする…。)
独特の、のんびりとした口調に思わずこっちまでのんびりした喋りになりそうな所を堪え、本題のマーリーアントの情報をもらう為、猫の亜人さんに開示を求めてみた。
「討伐依頼が出ているマーリーアントの情報ですかぁー?少々お待ち下さいねぇー…。あ、申し遅れましたぁー、受け付けのリンスと申しますぅー。」
(……あぁ!なんか聞いてるとムズムズする!!)
リンスののんびりとした喋りにムズムズしながらも、差し出された1枚の資料を見て情報を確認していく。
資料を確認する事5分、結論から言えば2日前ルースが倒したマーリーアントとは別の個体だと言うことがわかった。
なぜなら、『体長およそ5m』や『口から強酸の唾液を飛ばす』など全く違う特徴が書かれてあったからだ。
しばらく資料を確認し終わったルースが、討伐依頼の状況がどうなっているのか聞こうとして、リンスに尋ねようと顔を上げて名前を呼ぶと……
「リンス……さ…ん?」
「はい?リンスですか?」
目の前には、猫は猫でも虎の亜人族の女性が立っていた。
「あの子なら今日はもう帰りましたよ?」
……え?帰った?……嘘?!このタイミングで?!!
「あー、リンスってばまた途中で帰っちゃいました?すみません、あの子マイペースなもので。終業したらすぐ帰っちゃうんです。」
なんというマイペースぶりか。
仮にも話の途中だったろうに。いや、黙って資料見ていたから話の途中ではないかもしれんが。
「ほんとごめんなさいね。変わりに私が続きの手続きしますから。えーと、依頼の受注かしら?それとも報告?」
(途中で帰ったリンスさんも凄いが、この人も何事も無く引き継ごうとしてるし……ギルド職員って何か凄いな。)
ギルドのザルな部分と逞しい部分の両方を垣間見たルースは気を取り直して、虎族の職員にマーリーアントの討伐依頼の状況を確認する。
「この馬車の通行ルートに出ているマーリーアントなんですが、討伐依頼とかってどうなってますか?」
「あら?王国中央へ行くつもりだったの?だとしたら、まだ馬車は動かないわねー。依頼は出してるし、受注もされてあるんだけど、今腕利きの冒険者の人が出払っててね。中々成果が出てないのよ。」
(なるほど…。と、なるとそれを待つしかないのか。……こりゃ時間かかりそうだな。)
と、悩んでいると。
「どうしても馬車を使いたいのなら、あなた『達で』討伐依頼を受けて達成してみる?」
ん?『達で』って何………
「その話ノッた!!!!」
振り向く間も無く、いつの間にか背後にいた男はルースの肩を掴むと満面の笑顔で親指を立てながら虎族の女性職員にそんな事を言っていた。
「え…?誰?」
そんな、ルースの抜けた声に応えてくれる人はいなかった。
新キャラです!
こういう展開の時はヒロイン的な登場かと思いきやまさかの男!!(笑)
ひねくれててすいませんσ(^_^;)