第一章 旅立ち 第10部 新友と親友
皆さんのおかげでPV数等、順調に伸びていっています!
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一週間後…
朝もまだ明けていない時間。
借りている部屋のベッドで寝ていたルースは、パチリと目を開けアリスから借りている。時計で時間を確認して起き上がる。
「…時間か。」
ルースはゆっくりとベッドから起き上がり、身支度を整えた後、部屋の鍵を受け付けへと返し、昨日の部屋の賃貸代を渡し、『おはようございます。』と受け付けのローラに挨拶をする。
「おはようございます、クェーサー様。馬車が動き出すとお聞きしましたが、本日出発ですか?」
と、言われたので、『はい、お世話になりました。』と伝える。
ローラに朝食はどうするかと尋ねられたが、『大丈夫です。』と返すと綺麗なお辞儀をしながら、
「かしこまりました。この先の旅もお気をつけて。」
などと丁寧に言われたのでルースも頭を下げながらお礼を言いつつ、機会があればまた泊りに来よう!と意気込み、【四季亭】を後にする。
◇
【四季亭】から少し離れた場所にある一つの建物へと足を踏み入れる。
そこはライオとアリスが泊まっている宿であり、最近では交互の宿で食事をする様になっていた。
【四季亭】とは違い、素朴な作りの宿にある食堂へと進んだルースがキョロキョロと辺りを見回していると、そこに階段から降りてきたライオとアリスが姿を現した。
「おっ!ルース!おはよーさん!」
「おはようございます。ルース君。相変わらず時間ピッタリですね。」
「ライオもアリスさんも、おはよう。」
2人の挨拶に答えた後、ルースは空いてる席を見つけ2人を手招きしながら席へ向かい丸いテーブルを囲む様に3人で座る。
「さってとー!今日は何を飯にしようかねー。」
1人、テーブルに置いてあったメニューを広げ鼻歌交じりに朝食を選んでいるライオ。
そんなライオにルースが問いかける。
「朝食選んでる所悪いが、もう体は大丈夫なのか?ライオ。」
すると、立てたメニューの上から顔半分だけ出した状態でライオが
「バッチリだな!もう完全に回復してる!むしろ腹が減って死にそうだ!」
その発言に、苦笑いを浮かべながら『問題なさそうだな』と肩を竦めたルース。
そうこうしている内にライオの朝食が決まったのでアリスとルースも自分の朝食をサクっと決めて注文した。
「しっかし、あれからもう一週間かー、何か早いよなー。」
◇
遡る事、一週間前…
日も落ちかけた頃、マーリーアント討伐の依頼から帰還したルース、ライオ、アリスは重症を負ったライオを治癒師へと見せるため、その足で医院までライオを運んだ。
奥から出てきた女性治癒師が、ライオを見るとすぐ大声を出しながら数人掛かりでライオをベッドへと運ぶ、そして数本の回復薬と自らの『癒』の魔法で治療を開始する。
その間、ルースとアリスはベッドに横たわるライオを心配そうに見つめていたが、しばらくすると苦痛が無くなったのか穏やかな表情で寝息を立て始めたライオ。
その様子を診察した女性治癒師が『もう大丈夫です』と言ったのを聞き安堵するルースとアリス。
その後は丸一日寝ていたライオが目を覚まし、治癒術で一通り検査したが特に異常がないと認められ、翌日には退院。
しかし、まだ馬車が動かないのとライオが本調子では無い事を理由にしばらくこのまま滞在するという事に決まった。
ライオは宿で安静にさせ、ルースとアリスはその間にギルドへの報告、そしてレグルス村出発に向けての準備を手分けして行なっていった。
ギルドへの報告の際、マーリーアント討伐達成に室内が歓喜に溢れる中、モルトベアの出現があったとアリスが付け加えた時ギルドの受け付け嬢含め、その場にいた全員が凍りついたかの様に表情を強張らせたが、〈撤退〉させたと付け加えたので場の空気が緩む。
が、『念の為、哨戒は出した方がいい』とアリスから打診を受けた為、すぐ様ギルド名義での哨戒任務が依頼ボードに追加されていた。
その際、できれば哨戒依頼に加わって欲しいとギルド側から指名依頼が入ったが、仲間がまだ本調子では無く危険は犯せないと言う発言を、モルトベアを〈討伐〉し、本来であれば哨戒行動に意味がない事を隠すための建前として使用した。
なぜ討伐ではなく〈撤退〉なのかと言えば、単に諸々の説明をしなければいけない為、めんどくさいとルースが思った為である。
アリスもその理由はどうかと思ったが、偶然遭遇したモルトベアをどうやって倒したか等、上手い言い訳が考えられなかった為、〈撤退〉として扱おうと言う結論に至ったのだ。
そんな中、ルースはアリス達にはいつか自分の持つ【力】について話すかと心に決めていた。
そんな、表情が表に出ていたのかアリスは敢えて何も言わずギルドを後にした。
それから今日までは3人供に休息に充て、現在に至る。
◇
「まぁ、誰かさんは村に戻った瞬間の宿で、ずっと寝てたからな。そりゃ早くも感じるさ。」
「うぐっ……。」
痛い所をルースに突かれたライオは、口に運ぶ予定だった肉を止め唸る。
「大体、起きたばっかりでステーキって何だよ。どんな胃袋してんだ?」
「…?朝からステーキ食べないと力出ない時ってあるだろ?」
「いや、全然問題なく出るな。逆に胸焼けしそうだ。」
朝からのステーキを余裕で平らげていくライオを見て毒吐くルース。
そんな2人のやり取りを微笑みながら見ていたアリスが、
「お2人供、出発の時間までまだ余裕があるとはいえあまりのんびりし過ぎていると馬車に乗り遅れてしまいますよ?」
本日、馬車が運行開始となる為、人が混み合うと思ったルースは朝一番の馬車で、少しでも混み合うの避けようとしていた。
そして、同じく学園へと行くアリスとライオも、もはや知らない仲ではないので3人で行こうという話になったのだ。
「姉貴、ここからだと、後どのくらい掛かるんだ?」
ライオが今からの道程をアリスに確認するため尋ねる。
「そうですね。まずはここから3日程進んだ場所にあるアーレンと言う町に行きます。そこで徒歩に変更した後、4日程掛けて歩けば無事に学園がある王国中央都市に到着します。」
「つまり、おおよそ一週間くらい……ってとこですか。」
「ええ、ですがアーレンを過ぎた辺りから魔物の遭遇率も上がります。心配はしていませんが、油断なく行きましょう。」
アリスの締めの言葉に頷き、そろそろ時間が迫って来ていたの3人は立ち上がり一路馬車の乗車場へと向かって行った。
◇
馬車の乗車場には既に何人かの旅人や、商人が並んでいて自分の乗車順が回ってくるまでくつろいでいた。
ルース達も乗車場の受け付けで、整理券をもらい最後尾へと並んだ。
「やっぱすげー、人がいっぱいだなー。」
朝も漸く、明け始めて間もないという時間帯にも関わらず並んでいる人の長蛇の列に、ある程度想像はしていた3人であった。
それでも、ライオは声に出さずにはいられなかったらしく素直な感想を口にした。
「この時間帯ですらこの人数だ、もっと時間が遅ければそれこそ物凄い人だかりになっていただろうな。」
ライオの感想にルースが返答を返す。
続いてアリスも同様の内容をライオへと返し、ルースの『気長に待とう』という意見で3人で話をしながら時間を潰す。
◇
凡そ、2時間後…
日も完全に昇った時間になって漸く、ルース達の順番が回ってきた。
ルース達は、4人乗りの比較的小さな馬車の下へと案内された後、御者の青年に整理券を渡し、中へと乗り込む。
4人乗りなので、そこまで大きくはないが簡易的ながらも、椅子が備え付けられ野営の荷物を置けるようなスペースも確保されている車内で大人しく出発を待つルース達は、御者の『出発しますか?』との質問に『いつでも』と返した。
村の出入り口に近づくと、雲ひとつない青空が窓の外に再現なく広がり、視界に映る辺り一体の草原も心地よい風に揺られ、なびいていた。
そんな風に窓の外を見ていたルースはふと、視線を感じ車内に顔を向けるとアリスとライオがこちらを見ていた。
「ん?どうしたんだ?2人とも。」
なぜ、見られているかわからなかったルースは2人ともに聞いてみる。
「…いや、な?なんか俺らは出会ってまだそんな経っちゃいないんだが、何となくこれからも色々とルースと一緒に居そうな気がして…な。」
「……なんだ?突然…?…むしろ俺は学園に着いてもライオやアリスさん以外に知り合いなんて居ないんだ、困った事があったらすぐ聞いてもらうさ。」
『そういうことじゃねぇんだけどなー』と苦笑いを浮かべながら言うライオのフォローをすべく、今度はアリスがルースに話し掛ける。
「ライオさんも、私とルース君以外は知り合いの方は居ませんよ。今のライオさんの言葉の端的な意味合いとしては、『友人』という表現が正しいと思いますね。」
「んなっ!!姉貴?!!」
若干顔を赤めらせながら、姉の言葉に動揺するライオを見て、ルースは目を開きパチパチと瞬きをさせる。
(友人……か。)
思えば、祖父との修行の日々で己を高める事に全力を捧げていたルース。
そんなルースに初めて自らを『友』と表現してくれる人物に出会えた事に思わず、表情が緩む。
ルースは目の前で姉に弄られながら悶えているライオを見て、これからもよろしくといった意味を込めた言葉を口にする。
「頼りにしてるぞ、『新友』」
「!。…あぁ!任せな『親友』」
馬車はそんな3人を乗せ、次の目的地『アーレン』へと歩を進めていく。
暑いです。ルースとライオの友情にも熱さを若干出しました。
ライバルであり、親友。
そんなポジションの2人にして行こうと思ってます。