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自分を知るために

 昼食を食べ終わり4人で何をしようかと考えている中、不意に言った俺の「薬草ってどこで集めてるんだ?」という言葉で、俺らは森へ薬の原料になる薬草を採りに行くことになった。

 俺が迷っていた森は本来、人を襲う動物は少ないらしい。いたとしても奥深くで、俺が逃げ回っていた比較的森の外側の場所に危険な動物は現れることはまず無いとか。

 でも獣は現れて俺を襲った。あの時は一匹だけで他に仲間はいなかったが、念のためルキナたちは普段持ち歩かない刃のついた剣を持って来ている。


「おっ、これはどうだ?」


 道中、脇道に生えていた草を抜いてルキナ達に見せる。


「それは一応売れるが、ほとんどお金にはならないな」

「そうか。じゃあこれ!」


 別の草を抜いてルキナに見せる。


「あのなぁ…何でもかんでも引っこ抜いてはルキナに見せるなよ。売り物になる薬草がそこらへんに生えている訳ないだろ」


 シェリルが呆れたような声で言う。でも、俺には生えている草花全てが気になって仕方がない。


「いや、見たことない草ばかりだから」

「あはは…興味を示すのはいいけど、このままだといつもの採取場所にいつまで経ってもたどり着けないよ」


 うう…ルキナとシェリナが苦笑いしている。でも気になるものは気になるだろ?


「……そうだな。その採取場所で草木を色々と見よう」


 きっと探している薬草も見たことのない形をしているんだろう。それだけでも想像が膨らむ。


「見るだけじゃなくてちゃんと欲しいものを採取をしろよ」

「わかってるって」


 森は1人だと心細いけど皆で来るとピクニックのような気分だ。目覚めた時は食糧のことしか頭になかったからゆっくり見てられなかったんだよな。


「今日は早めに終わろうと思う。一昨日、アスルが狂獣に襲われた場所より深くはないが念のためにな」

「大丈夫だ!狂獣が出たところで俺が倒してやる!」


 シェリルは手に持っている小振りな剣を掲げる。


「でも素人の俺に負けたけどな…」

「うるさい!あれは油断してただけだ!」


 俺の呟きに反応してシェリルはこちらを睨む。聞こえたか。


「シェリル。狂獣を見つけても戦闘は極力避けるからな。わざわざ危険を冒してまで狂獣を殺す必要はない」

「わかってる。シェリナが襲われたら大変だからな」


 ルキナの忠告に剣を鞘に収めながら答えるシェリル。何だかわかっている気がしない。いざその時になったら突撃でもしそうだ。


「さぁさっさと行こうぜ!」

「あ、1人で先に行っちゃダメだよシェリル!」


 双子は森の奥へ走っていく。まるで先走る弟を止める姉のようだ。


「言ってなかったが、シェリルはシェリナの兄だ」

「え!?本当か!?」

「ああ、オレも初めて知った時は驚いた。一見シェリナが姉に見えるからな」

「意外すぎる…」


 昨日だってシェリナが剣の勝負で負けたシェリルを励ましていたし、シェリナの方が魔法とか読書で学んでいるし…


「とは言っても、双子だから二人とも姉とか兄とかであまり差は無いが」

「そうかもな」


 ルキナと歩きながら先を行く双子を見る。


「おーい!3人とも早く来いよ!」

「そんなに急ぐ必要ないでしょーが!」

「急いだ方が薬草がたくさん――ふぎゃっ!」


 シェリナが叫んだ直後、後ろを向いて走っていたシェリルが盛大にこける。


「いてててて…」

「ほら言わんこっちゃない!ほら、傷見せて!」


 うん。やっぱりシェリナが姉にしか見えない。

 シェリルに駆け寄り擦りむいた膝を手で覆って詠唱を始めるシェリナ。すると水の薄い膜ができて傷口を覆った。しばらくすると少し出ていた血が止まり、傷口にかさぶたができた。


「傷が治った!?」

「水の魔法は傷を癒す力があるんだ」


 驚いている俺にシェリルを立ち上がらせたシェリナが説明してくれた。


「じゃあ光の魔法は…」

「あれは体内の毒や呪いなどを癒す魔法だ。水魔法みたいに傷を治す力は無い」

「なるほど」


 水は外傷。光は内部の痛みと言ったところか。


「あぁー、それ私が言いたかったのに…」

「自分の持つ魔法のことぐらいは知っていて当然だろう?」


 セリフを盗られて頬を膨らませるシェリナ。きっと本で覚えた知識を披露したいんだな…



◇◆◇◆




「おおー!一面薬草で一杯だ!」


 小道から離れ、茂みを少し歩くと開けたところに出る。そこにはルキナの言っていた特徴と一致する薬草が一面に広がっていた。


「ここは昔、遊んでいたら見つけたんだ。今ではいい採集場所として利用している」

「さぁさっそく採ろうぜ!」

「シェリル、カゴに入らないほど採りすぎちゃだめだよ」


 4人でバラバラに散って薬草を集める。薬草は簡単に取れ、しばらくすると両手が薬草の葉でいっぱいになった。


「アスル、言い忘れてたが薬草の効果があるのは根だからな。茎や葉にも一応効果はあるが、根に比べたら圧倒的に少ない」

「おいおい!それ早く言ってくれよルキナ……」


 俺の採った薬草の4割は茎で切れていた。何とももったいない…


「よっしゃ!こんなに採れたぜ!」

「シェリルそれ、採りすぎじゃないか?カゴに入る気がしないぞ」


 20分後、それぞれがカゴに薬草を入れる中、シェリルが両手一杯に薬草を抱えて持ってきた。これだけで空のカゴがいっぱいになりそうだ。


「ふんっ…だめだ。押し込んでもさすがにこれ以上は入りそうにない」

「だから言ったじゃん!今はアスルがいるんだからそんなに多くなくたっていいって!」

「悪い悪い。考えてなかった」

「仕方ない。余りはここに置いておくとしよう」

「もう!次の場所は採りすぎないでよ!」

「わかったって」


 俺らは余った薬草を置いて、別の場所へ移動する。


「別の場所があるのか?」

「詳しくは知らないが、さっき採った薬草は毒を癒す薬の素。次は傷を癒す薬の素の薬草だ。それに1つの場所で採りすぎたらそこがさら地になってしまう」

「なるほど。考えてるんだな」


 俺らはそんな雑談をしながら次の場所へと向かった。



◇◆◇◆



 結局俺らは夕方まで森で採取をし、その後町で薬草を売って双子と別れ、家へ戻った。


「さて、俺の部屋と言っても慣れるには時間がかかりそうだ」


 ナシアスさんたちと夕食を食べ終えた俺は、月明かりの差す、新しくできた自分の部屋のベッドに座っていた。

 ううん……ナシアスさんには悪いが、こっそりぬいぐるみとかは仕舞っておこう。ああいう置物があるとどうにも落ち着かない。


「無事に部屋ができた訳だけど……今考えると俺、運がよすぎないか?」


 一昨日、ルキナに会ってから今まででちゃっかり異世界で過ごす基盤ができてしまった。

 もし森で助けてくれたのがルキナやナシアスさんじゃなかったら、今頃昨日に町の路地裏で会ったおっさんの奴隷にでもなっていただろう。きっと、誰も家で匿ってくれはしなかっただろう。部屋なんて用意してくれなかっただろう。


「このままだと…いけない気がする」


 俺は今は記憶喪失と言っているが、それを理由にいつまでもここで過ごすのはダメだ。数年経ったら絶対に俺はこの家を離れなきゃいけない。ルキナや双子だっていつかは家を出て自分の夢や目標に向かってこの町から旅立つに違いない。

 それに今のところはこの身体の少女が何者なのかもわかっていない。いったいどこの誰なのか、親や家族はいるのか。いたとしたらその人達は今頃すごく心配しているだろう。……それともこの世界に存在する人ではないのかもしれない。ただ単純に異世界へとワープする時に体が変わったとか。

 そして魔法。なぜこの世界で誰もが使えるはずの魔法が俺には使えないのか。俺が転生した存在だからか?


「うぁー!謎が多すぎる!」


 頭をくしゃくしゃとかき回してベッドに仰向けに倒れる。

 ぼーっと天井を見てふと手を上げて自分の手を見つめる。手は小さく傷1つない。この世界で目を覚ます前の俺の手とは大違いだ。


「そういや俺のいた世界はどうなってんのかな?」


 俺という存在はどうなっているんだろう?死んだことになっているのか?俺という存在が無くなっているのか?


「まぁいいや。元の世界に戻れるかわかんないし」


 元の世界に未練は……今のところはない。あるとしたら例のへそくりくらいしか思い浮かばない。それにどうせ、戻りたくても戻る術などわからない。


「よし!決めた!今は無理だとしてもいつかは自分が何者なのか探るために旅にでも出るか!」


 今は子供。旅に出るには余りにも幼い。だから2、3年ほどしたら旅に出よう。そのためには色々と今から準備しなければいけない。

 旅の資金、自身を守る力、この世界の状況把握と常識の確認。必要な事は山ほどある。


「よっしゃー!そうとなれば明日から行動開始だぜ!」


 俺は立ち上がって天井に手を上げて決意をあらわにした。


「ということで、明日からは忙しくなるし今日は寝よう!」


 ぼんやりと広い部屋を照らしていたランプを消して、俺は眠りについた。





今回で1部が終わります。2部からはようやく魔王の娘が出ます。


~現時点での登場人物紹介~

・アスル(12歳)

階段を踏み外した拍子に何故か異世界に幼い少女として転生した少年。転生者だからなのか魔法が使えない。女として過ごすのを避けるために皆には男だと言っている。


・ルキナ(12歳)

森で狂獣に襲われていたアスルを救い、家に匿った。世界を救った勇者の娘で父や母に教えられたのか剣術、料理、金銭管理など多くを自力でこなす。

アスルに剣術の才能を感じ、剣術を教えることに。

※光の適性を持つ。


シェリル(11歳)

ルキナの友人で双子のシェリナの兄。ルキナを目標として剣術の腕を磨いている。過去の記憶の影響を受けているせいか、初対面の人に対しては突っかかることが多い。

強気で負けず嫌いのためアスルを剣術のライバルと思っている。

※火と地の適性を持つ


シェリナ(11歳)

ルキナの友人で双子のシェリルの妹。アスルにはルキナの態度を見てすぐに警戒を解いた。読書が好きなので豊富な知識を持つ。

※水と地の適性を持つ


ナシアス(??歳)

ルキナの母。孤児院で働いている。温厚で子供好き。アスルが記憶喪失だと知った時にこの子は家で匿った方がいい。と即決した。


セシャール(??歳)

ルキナの父。魔王に脅かされていた世界を救った勇者として世界的に有名な人物。魔王と対峙し、相打ちして死んだとされている。

妻と娘のことを隠していたため、ナシアスとルキナのことは世間にはほとんど知られていない。

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