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悪者の巣窟、路地裏

「もうこんな時間か」


 ルキナの言葉を聞き時計を見てみると、もう5時をさしていた。町も夕日に照らされ始めていて赤みを帯びてきている。


「いやぁあの焼鳥はやみつきになるね!」

「あぁ、あの肉汁は…」


 後ろで双子は焼鳥を思い出しているのかうっとりとしながらよだれを垂らしていた。昼にあれだけ食って町でもよくあれだけ食えたな。


「今日は楽しかった。久しぶりに沢山お金を使ったな」

「ごめんなルキナ。俺の服……やっぱり高かったか?」

「大丈夫だ。普段あまり使わないから、まだ多少は残っている」

「気になってたんだが、お金はどうしてるんだ?ナシアスさんは孤児院からお金を貰ってるのか?」

「ああ、母さんは孤児院に通って一応収入を得ている。でも、善意でやっているのに近いから、多くは貰っていないんだ。だからオレも森で薬草を集めて売っている」

「なるほど、その薬草集め中のルキナに俺は助けられた……と」

「そういうことだ」


 たまたま近くでルキナが薬草を集めていて、俺は運良く助かったんだな。


「そろそろ帰るか。2人の親は帰ってくる時間だろう?」

「まだ時間は少しあるぜ。でも…帰った方がいいか?」

「うん。もう行きたい場所は行ったし、帰ろうかな」


 俺らは町の外へ歩き出した。


「そういやあれおいしかったよな!」

「うん!新鮮魚のドキドキサンドイッチ!シェリルは何が入ってた?」

「俺のは…よくわからなかったけど結構脂がのってた」

「私も何の魚かわからなかったけどあっさりしてたよ」

「シェリルもシェリナも、食べ物以外は何か買ったのか?」

「「食べ物だけだよ」」


 ルキナたちが楽しく話しながら歩いているのを俺は後ろで見ながら色々と考えていた。


 突然こんな異世界に来たけど理由がわからない。俺は何か偉大なことをした訳でもないし、特別有名になるほどの特技があった訳じゃない。

 それに特に見たところこの身体にはすごい能力とかあるという訳でもない。魔法はまだ試していないけど、シェリルと木刀を交えても少し相手の動きが遅く感じただけ。木刀で防ぐ時間はあっても体ごと避けるのは困難だ。それに掃除の時にルキナの方が圧倒的に早かった。足が速いとか腕の力が強い訳でもない。

 まとめるなら、俺もこの身体もいたって普通。ルキナの方が圧倒的に超人だろう。12歳なのにあれだけ色んな事ができるし、冷静で子供らしさが感じられない。それに容姿も可愛いに入る。俺の見たところだが。もっと育てば可愛いから美しいにでもなるんじゃないか?


「…っおっと!すまん」


 考えていたせいでルキナたちが停まっていたのに気づかずぶつかってしまい、前を向く。


「なぁ一応まだ時間があるし、お風呂でも入っていかね?」

「そう言えば、お風呂しばらく入ってないね。久しぶりに入ろう!」


 3人の見ている方向を見ると、坂の上にギルドほどではないが大きめの建物があった。看板を見たところ昨日ルキナが言っていた温泉のようだ。


「2人がいいなら構わないが…アスルもいいか?」

「別に俺はいいけど」

「よぉーし!お風呂だー!」


 シェリナはそう言って一気に銭湯に向かって走りだした。


「待てシェリナー!」


 追うシェリルに続いて俺らも銭湯に入った。



◇◆◇◆



「忘れてた…」


 俺は脱衣所への分岐点で足を停めていた。


「何してんだ?早く行こうぜアスル」


 左にはシェリルがいる。男湯。


「どうした?温泉が珍しいのか?」

「アスル?男の子は左だよー?」


 右にはルキナとシェリナ。女湯。


 どっちに行けばいいんだ!?というかどっちも行けねぇー!

 左へ行けば違和感はないが服を脱げば即問題発生。ただの変態になる。

 右へ行けばまず2人に変態として扱われる。あたりまえだ。まぁ誤解を解こうと思えば解けるがその後は絶対に色々と問い詰められて厄介。俺は男だと言っているし。それに女湯に忍び込む気分で罪悪感しかない。


「いつまでもつっ立ってないでさっさと行こうぜ」


 困惑と焦りのせいでシェリルが俺の横にいるのに気づかなかった。俺の手をとって男湯に引っ張る。ルキナとシェリナは既に奥へ行ったようだった。


「ま、待て待て待て待て!」


 シェリルに握られた手を振りほどく。不意だからか今回はなんとか抵抗できた。


「どうしたんだよ?まさか…」

「お、俺ちょっとルキナの家に用事思い出した!シェリルはゆっくり浸かっているいるといい。ルキナたちには先に帰っていると伝えておいてくれ!」


 シェリルの言葉を遮り俺は銭湯を飛び出した。


「無理だああぁぁぁぁぁ!」


 そのまま勢いのまま坂を下り町を走り回る。ルキナたちに案内されて歩いていたので出口の場所はわからない。すれ違う人の目も気にせずに道も決めずとにかく走った。


「女湯なんか行ったら精神的に死ぬに決まってんだろーがぁぁぁぁ!」


 そしてしばらく走り続け、狭い路地裏に入った時ーー


「う…す、すみません」


 狭いため避けきれず人とぶつかってしまった。俺はようやくそこで冷静になり目の前の人に謝る。


「ちっ…気ぃつけやがれ!って、ガキじゃねぇか」


 顔を上げ相手の顔を見るとそいつはおっさんでゲスな笑みを浮かべていた。何だろう、すげー危険な雰囲気を漂わせてるんだけど…


「あの…本当にすみませんでした。では――」

「おいガキ!待てや…まさか人にぶつかっておいて謝罪だけで済むと思ってんのか?」


 おっさんは左腕を見せる。そこは包帯が巻かれていた。


「てめぇのせいでこの傷がさらに痛んじまった。こりゃあ傷が開いたかもなぁ」

「え…」


 じゃあなんで痛そうな顔しないんだ?何で包帯の場所をさっきまで押さえもせずに腕をぶら下げていた?


「こちとらさっき医者に治してもらったばっかなんだ。治療に金がいるのはわかってるだろ?それを俺が出すわけにはいかねぇよなぁ!」


 俺の顔の近くの壁を叩くおっさん。ぱらぱらと砕けた壁の表面が床に落ちる。


「おい、金だせや。お前の不注意でこうなったんだ。当然だろ?」

「お金は持って――っ!?」


 最後までいい終わることなくおっさんに口を押さえられる。ぎりぎりと後頭部を壁に押しつけられ顔を近づけられる。


「持ってねぇよなぁ!?持ってても足りるわけねぇよなぁ!じゃあ俺の元で働けよ!体で返せ!」


 俺は首を横に振った。恐らくこいつはルキナの言っていた人攫いだ。奴隷なんかにされたらたまらない。


「あん?何だって?」

「…っ。断る」


 今度は押さえる力が弱まったので今度ははっきりと口で答える。


「なめてんじゃねぇぞクソガキ!」


 口にあてられた手が離れたと思うと今度は首をつかまれ持ち上げられる。


「ぐぅ…がっ…」

「ガキのくせに反抗する気か?てめぇはおとなしく言うことに従えばいいんだよ!それとも何だ?ここで死にたいか?」

「誰…が…お前…に…」


 ギリギリとおっさんの指が喉奥に沈んでいく。

 い、息が…くる…し…意識が…


「最後のチャンスだ。生きるか?死ぬか?」


 おっさんは俺を見上げて質問する。


「…………る」

「聞こえねぇなぁ」

「………きる」

「あ?」


 俺はおっさんの目をみて嘲笑しながら言う。


「お前に従わずに生きる」


 するとおっさんはフッと笑った。


「そうか。じゃあ死ね」


 さらに腕に力をこめるおっさん。だが、俺の目はおっさんの顔ではなく、路地に現れた誰かの方に向いていた。


「おいお前、オレの友達に何をしている?」

「何?」


 おっさんの後ろには少女が立っていた。その右手には木剣があり力強く握りしめられている。


「その手を5秒以内で離せ、5」

「誰だお前?」

「4」

「こいつの仲間か?」

「3」

「ちょうどいい。売り物が増えた」

「2」

「今日はガキが全く捕まらなかったからな」

「1」

「しかも結構な上物じゃねぇか」

「0、我、悪を裁きし者。今我が力を捧げる故、邪の者を貫きし光を」


 少女の上げた左手に光が集まる。


「ま、まさかてめぇ…」


 うろたえたおっさんの俺を握っている右手首を、少女の手から放たれた閃光が貫く。


「うぎゃあああぁぁぁ!手が、手がぁぁぁぁぁ!」

「ぐっ……げほっ……ルキナ…か……?」


 手から解放されて俺は床に落ちる。息がようやくまともにできて俺はむせ返る。前を見るとおっさんが右手首を押さえてのたうちまわっていた。よく見ると右手首の中心に直径1センチの穴が開いてそこから血が流れていた。


「失せろ。そのまま右手首を吹っ飛ばされたいか?」


 首の圧迫感が無くなり、視界がはっきりすると、確かにルキナがおっさんに木剣を向けて警告する姿が見えた。


「や、やめろ!」

「人を殺そうとしていたんだ。つまり、自分も殺される覚悟をしていたんだろう?」

「やめてくれぇ!」

「情けない奴だ…」


 ルキナはおっさんを蹴り飛ばす。おっさんは路地の奥へと転がっていく。


「く、くそ!」


 起き上がったおっさんは左手を上げる。


「少し魔法が使えるだけでいい気になってんじゃねぇぞガキィ!」


 するとおっさんの手にも小石のようなものが集まり路地の幅ギリギリの岩ができあがる。


「死ねやぁ!」

「下がれアスル!」


 俺が下がると同時におっさんの手から岩が離れ、こちらに飛んでくる。それに対してルキナは落ち着いた様子で木剣を構え、力強く降り下ろした。

 次の瞬間、岩はルキナの前で動きを止め、音と共にバラバラに砕け散る。砕けた岩の破片は、地面に落ちることはなく、その場で霧のように空中で消えてしまった。


「ただ地の魔法を生みだし、ぶつけるだけとは…無詠唱魔法など上位魔術師でなければまともな力はない。子供だからとオレをなめているのか?」

「ちぃ!くそっ!」


 おっさんはそう吐き捨てて路地の奥へと消えていった。


「大丈夫か?町は基本安全だが、狭い道や人気の少ない場所は夕方から夜は特に危険が増す。1人で不用意に行動するな」


 ルキナの差し出された手をとり尻もちをついていた俺は起き上がる。


「2人とは先に別れた。どうする?風呂に行くか?」

「いや、帰ろう」

「そうか、じゃあ帰るぞ」


 俺らは路地裏から抜け家に向かって歩きだした。


「そういや何で俺の居場所が分かったんだ?」

「途中まで追っていたんだが見失ってな。あたりを探していたから時間がかかった。全く、アスルが男湯に行ったかと思ったら大声が聞こえて外を見ればアスルが走りだして…どうしたんだ?」

「いやぁ…それは……あはははは」


 誤魔化そうと口から笑い声が出る。途中まで俺を追って来たって、あれ俺の全力なんだけどなぁ…


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